Sintering Frontier焼結フロンティア
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タングステン(W)の放電プラズマ焼結 — 最も融けにくい金属を、固体のまま緻密化する

タングステンは金属で最も高い融点を持ち、溶かして成形する経路がほぼ閉ざされている。だから粉末を固める粉末冶金が主役になるが、緻密化には極めて高い温度が要り、結晶粒も粗大化しやすい。放電プラズマ焼結(SPS)はパルス通電と加圧で焼結温度を下げ、粒成長を抑えながら緻密化する手段として研究されてきた。本稿はその機序を公開論文をもとに整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • タングステン
  • 高融点金属
  • 粉末冶金

融けない金属、という前提

タングステンは極端な金属だ。融点は約3,400℃で、すべての金属の中で最も高い。沸点もずば抜けて高く、密度は鉄の2倍以上ある。電球のフィラメント、ロケットノズルや熱遮蔽、放射線遮蔽、半導体の配線、核融合炉の壁材といった、ほかの金属が音を上げる高温・高負荷の現場で使われてきた。

その強みは、そのまま作りにくさに直結する。これほど融点が高いと、溶かして鋳型に流し込む鋳造は事実上選べない。タングステンを溶かして扱える設備を整えるより、粉末のまま固める道を選ぶほうがはるかに現実的だ。そのため、粉末を高温・高圧で焼き固める粉末冶金が、タングステン部材づくりの標準的な経路になっている。

ところが、粉末冶金にも固有の難しさがある。緻密に固めるためにはやはり非常に高い温度が要り、その高温で長く保持すると、今度は結晶粒が大きく育ってしまう。粗大な結晶粒は、タングステンが本来抱える脆さをいっそう際立たせる [1][2]。

脆さと粒径という弱点

タングステンは室温では脆い金属として知られる。延性と脆性が切り替わる温度(延性脆性遷移温度)が室温より高く、常温では衝撃に弱く割れやすい。Butlerらはタングステンの変形と延性の機構を総説し、不純物、結晶粒界、加工履歴がこの脆さを左右することを整理している [1]。

この脆さに、製造プロセスが拍車をかける。焼結温度が高く保持が長いほど結晶粒は粗大化し、粒界に不純物が偏析しやすくなる。粗い組織は破壊の起点を増やす。つまりタングステンでは、「十分に緻密化する」ことと「結晶粒を細かく保つ」ことが、高温という同じ条件のうえで真っ向からぶつかる。

求められるのは、できるだけ低い温度・短い時間で、それでも理論密度に迫るまで固める手法だ。SPSは、この狭い要求にこたえる候補として研究されてきた。

SPSがタングステンに効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛のダイスに詰めた粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速に昇温しながら一軸加圧する手法だ。導電性のタングステン粉末では通電と加熱が効率よく進み、従来の焼結より低い温度・短い時間で緻密化できる。

緻密化がどのような機構で進むかは、焼結中の収縮データを速度論的に解析することで調べられてきた。Dengらは純タングステン粉末のSPSを解析し、焼結が二段階で進むことを示した。比較的低い温度域ではまず緻密化が進み、結晶粒はまだあまり育たない。より高い温度域に入ると、緻密化は頭打ちになり、代わって急速な粒成長が支配的になる [3]。

Gaoらも純タングステンのSPSにおける緻密化と粒成長の速度論を調べ、緻密化が粒界拡散に支配される機構を報告している [4]。緻密化を担う物質移動が粒界に沿って起きるという描像は、結晶粒を細かく保つほど(粒界が多いほど)緻密化が進みやすいことと整合する。

SPSがタングステンにもたらす利点は、この機構から整理できる。

  • 焼結温度の低下:加圧と急速通電加熱により、従来法より低い温度で緻密化が始まる [3][4]。
  • 粒成長の抑制:低温域での緻密化を活かし、粒成長が暴れる高温域に深入りする前に高密度へ持ち込める。短時間焼結が微細組織を残す [3]。
  • 条件の作り込み:昇温速度・保持時間・圧力をどう選ぶかで、最終的な密度と粒径のバランスを設計できる。

純タングステンから合金・複合材へ

純タングステンの緻密化が出発点だが、用途に応じて組成を作り込む方向も研究されている。微量の添加元素で粒界を強化したり、第二相を分散させて粒成長を抑えたりといった設計だ。タングステンに少量の合金元素や酸化物粒子を加えると、焼結中の粒成長を抑えつつ、延性や高温強度を改善できることが知られている。

こうした多成分系では、粉末冶金の利点がいっそう生きる。溶解では混ざりにくい高融点の添加相も、粉末段階で均一に分散させ、SPSの短時間焼結で過度な反応や偏析を抑えながら固められる。緻密化と組織制御を一度の焼結で両立できる点が、SPSが多成分タングステン系の研究で使われる理由だ。

量産プロセスのなかでの位置づけ

タングステン部材は、プレス成形と長時間の水素雰囲気焼結、あるいは溶浸といった確立した量産経路で作られてきた。SPSは円盤・ブロック状のニアネットシェイプ焼結に向く一方、複雑形状の大量生産そのものには形状的な制約がある。

それでもSPSは、「低温・短時間で緻密化と組織を作り込める研究・小ロット手段」として価値を持つ。新しい合金組成や複合材系の試作、ナノ粉末や微細粉末の緻密化条件の検証、焼結温度と粒径・密度の関係の探索といった材料開発フェーズで、緻密度・組織・特性の関係を素早く回せる。GuillonらはFAST/SPSの機構・材料・技術発展を体系的に整理しており、高融点材料の緻密化における本手法の位置づけを概観できる [5]。

最も扱いにくい金属を、賢く固める

タングステンの価値は、ほかの金属が機能しない極限の高温・高負荷で働けることにある。だが、その融点の高さゆえに鋳造は閉ざされ、粉末を固めるにも高温が要り、その高温が結晶粒を粗大化させて脆さを招く——という連鎖が、長くこの金属の宿命だった。

SPSは、低温・短時間での緻密化という固有の強みで、この連鎖を断つ手がかりを与える。緻密化が暴走的な粒成長に先んじて進むよう条件を選び、必要なら添加相で粒界を抑える。最も融けにくい金属を、融かさずに、太らせずに固める。タングステンの粉末冶金は、高温という制約のなかで緻密化と微細組織を同時に追う材料工学の最前線である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

なぜタングステンは溶かして作れないのか。
タングステンの融点は約3,400℃で、金属の中で最も高い。これほどの高温を保ったまま溶湯を扱う鋳造は現実的でない。そのため、粉末を高温・高圧で固める粉末冶金が標準的な製造経路になっている。問題は、緻密に固めるにも非常に高い温度が必要で、その過程で結晶粒が粗大化し、脆くなりやすいことだ [1][2]。
SPSはタングステンの焼結に何をもたらすのか。
SPSはパルス直流による急速加熱と一軸加圧を組み合わせ、従来の焼結より低い温度・短い時間でタングステン粉末を緻密化できる。短時間で済むぶん結晶粒の成長を抑えやすく、微細な組織を残せる。緻密化は主に粒界拡散や粒界すべりといった機構で進むことが、焼結データの解析から報告されている [3][4]。
緻密化と結晶粒の制御はどう両立するのか。
タングステンの焼結では、低温域でまず気孔が減って緻密化が進み、より高い温度域で粒成長が支配的になる二段階の挙動が観察されている。SPSはこの低温域での緻密化を活かし、粒成長が暴れる高温域に入る前に高密度を得ることを狙う。昇温速度・保持時間・圧力の選び方が、最終的な密度と粒径のバランスを決める [3][4]。

参考文献

  1. [1] Butler BG, Paramore JD, Ligda JP, Ren C, Fang ZZ, Middlemas SC, Hemker KJ. Mechanisms of deformation and ductility in tungsten – A review. Int J Refract Met Hard Mater. 2018;75:248-261. DOI: 10.1016/j.ijrmhm.2018.04.021
  2. [2] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  3. [3] Deng S, Yuan T, Li R, Zeng F, Liu G, Zhou X. Spark plasma sintering of pure tungsten powder: Densification kinetics and grain growth. Powder Technol. 2017;310:264-271. DOI: 10.1016/j.powtec.2017.01.050
  4. [4] Gao Z, Viola G, Milsom B, Whitaker I, Yan H, Reece MJ. Kinetics of densification and grain growth of pure tungsten during spark plasma sintering. Metall Mater Trans B. 2012;43(6):1608-1614. DOI: 10.1007/s11663-012-9704-9
  5. [5] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-assisted sintering technology/spark plasma sintering: Mechanisms, materials, and technology developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409