透明ジルコニア(ZrO₂)の放電プラズマ焼結 — 立方安定化と相の選び方で透かす
酸化ジルコニウム(ZrO₂)は冷却中に相転移する厄介な酸化物で、透明体を得るにはイットリアなどで立方晶や正方晶に安定化させる必要がある。高い屈折率と硬さを持ち、半透明〜透明のYSZが研究される。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間で緻密化するが、還元雰囲気での酸素欠損による着色が固有の課題となる。LeiやPayginらの公開研究をもとに、その機序を整理する。
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相転移する酸化物を、透かす
酸化ジルコニウム(ZrO₂、ジルコニア)は、人工ダイヤとも呼ばれる宝飾用キュービックジルコニアでおなじみの、高い屈折率を持つ酸化物だ。硬く、化学的に安定で、屈折率はおよそ2.2と酸化物セラミックスのなかでは高い。透明体にできれば、高屈折率を生かしたレンズや窓材としての可能性がある。だが、ジルコニアの透明化は、ここまで取り上げてきた立方晶酸化物とは違う、固有の厄介さを抱えている。
その厄介さの正体は、相転移である。純粋なZrO₂は、温度によって単斜晶・正方晶・立方晶と結晶構造を変える。とくに高温の正方晶から低温の単斜晶へ変わるとき、体積が数%も膨らむ。焼き固めた緻密体がこの転移を起こせば、内部応力で割れてしまう。透明どころか、形を保てない。
この相転移を抑える鍵が、安定化である。
安定化という前提 — YSZが要る理由
ジルコニアに、イットリア(Y₂O₃)などの酸化物を固溶させると、室温でも高温相である立方晶や正方晶を保てるようになる。これが安定化ジルコニア、なかでもイットリアで安定化したものをYSZ(イットリア安定化ジルコニア)と呼ぶ。透明ジルコニアの研究は、ほぼ例外なくこのYSZを対象とする。純粋なZrO₂をそのまま透明体にすることは、相転移ゆえに現実的でないからだ。
YSZには、イットリアの添加量によって二つの顔がある。
- 立方YSZ:イットリアを多めに(おおむね8mol%以上)入れて立方晶に安定化したもの。光学的に等方で複屈折散乱がなく、透明化しやすい。ただし靭性に劣る。
- 正方YSZ:イットリアを抑えて(おおむね3mol%前後)正方晶に安定化したもの。複屈折を持つため透明化は難しいが、強靭で実用構造材として優れる。
つまりジルコニアでは、透明化のしやすさ(立方相)と機械的な強靭さ(正方相)が、相の選び方を通じてトレードオフの関係に立つ。立方相を選べば散乱は抑えやすいが脆くなり、正方相を選べば強いが複屈折散乱と闘うことになる。
複屈折散乱と、相のせめぎ合い
正方YSZの透明化が難しいのは、複屈折散乱があるためだ。正方晶は方向によって屈折率が異なり、多結晶では粒界ごとに屈折率が食い違って散乱する。これを抑えるには、アルミナと同じく粒を光の波長より十分小さく保つしかない。一方、立方YSZは等方なのでこの散乱はないが、強度・靭性で構造材としての魅力が薄れる。
Dashらは、この二律背反に対し、正方相と立方相を組み合わせた複合組織で答えようとした。SPSで予備緻密化したのち熱間等方加圧(HIP)で気孔を消し、正方-立方ジルコニア複合の透明体を作製している [3]。立方相の透明化しやすさと正方相の強靭さを、一つの組織のなかで両取りしようとする発想だ。相の選択と組み合わせが、ジルコニア透明化の設計変数になる。
SPSの効き方
SPSは、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する手法である。毎分100°Cを超える昇温で目標温度に素早く達し、保持を数分に抑えられる [1]。数十MPaの一軸応力が物質移動を助け、低い温度でも気孔を潰す。長時間の高温保持を避けられるため、とくに正方YSZでは微細粒を保ちやすく、複屈折散乱を抑える助けになる。
Leiらは、グリシン-硝酸塩法で合成した微細なYSZ粉末をSPSで緻密化し、透明なYSZを得る条件を報告した [2]。出発粉末の微細さと均質さが、低温・短時間の緻密化で透明体に到達するための前提であることを示している。
還元着色という固有の難問
ジルコニアにおけるSPSの最大の弱点は、炭素混入そのものより、還元雰囲気による着色である。SPSの黒鉛環境は還元的で、ジルコニアから酸素が抜けやすい。抜けた酸素の跡である酸素欠損に電子が捕まると「カラーセンター」となり、灰色から褐色、ときに黒に近い着色を生む。可視域の透過率は、これで大きく下がる。
PayginらはSPSの工程条件(温度・圧力・保持時間など)を変えて、透明YSZの光学・機械特性がどう変わるかを体系的に調べ、着色を含む透過率の挙動を整理した [4]。実務上は、焼結後に酸化雰囲気でアニールして酸素を補い、酸素欠損を埋めてカラーセンターを消すことで、着色を回復させる手立てが取られる。また、厚い透明体を均質に作るには成形段階の工夫も効き、Payginらは「コレクター加圧」という成形法を併用して、厚みのある透明ジルコニアを作る試みを報告している [5]。還元着色をいかに抑え、いかに回復させるかが、透明ジルコニアの歩留まりを左右する。
相を選び、酸素を守る
透明ジルコニアの研究は、相転移という厄介さを安定化で封じ、立方相と正方相のあいだで光学と機械特性のバランスを取り、還元着色から酸素を守る——という、いくつもの折り合いの上に立つ。立方晶酸化物が「気孔さえ消せばよい」のに比べ、ジルコニアは相の設計と雰囲気の管理という追加の宿題を負う。
SPSの急速昇温と加圧は緻密化を低温で進める力になるが、その還元環境は着色という代償を伴う。相を選び、粒を抑え、酸素を守る——透明ジルコニアの焼結は、高屈折率という魅力と引き換えに、材料化学とプロセス管理の両面で高い精度を求める領域だと言える。
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よくある質問
- ジルコニアの透明化が他の酸化物より難しいのはなぜか。
- 純粋なZrO₂は温度によって単斜晶・正方晶・立方晶と相が変わり、冷却中の正方晶から単斜晶への転移で体積が大きく変化して割れやすい。さらに正方晶は複屈折を持つため、多結晶では粒界で散乱する。透明体を得るには、イットリア(Y₂O₃)などを固溶させて室温でも立方晶や低複屈折の正方晶を安定化させ、相転移と複屈折散乱の両方を抑える必要がある。これが安定化ジルコニア(YSZ)である。
- 立方YSZと正方YSZでは透明化の難しさがどう違うのか。
- イットリア添加量を多くした立方YSZは光学的に等方で複屈折散乱がなく、原理的には透明化しやすい。一方、添加量を抑えた正方YSZは複屈折を持つため、アルミナと同様に粒径を小さく保って複屈折散乱を抑える必要がある。立方相は透明化しやすいが靭性に劣り、正方相は強靭だが透明化が難しいという、光学と機械特性のトレードオフがある。
- SPSで透明ジルコニアを作るときの主な課題は何か。
- SPSの黒鉛環境は還元的で、ジルコニアから酸素が抜けやすい。抜けた酸素の跡(酸素欠損)に電子が捕まるとカラーセンターとなり、灰色〜褐色の着色を生じて透過率を下げる。PayginらはSPSの工程条件が透過率に与える影響を調べ [4]、酸化雰囲気での後アニールが着色の回復に有効であることが知られる。LeiらはSPSで透明YSZを得る条件を報告している [2]。
参考文献
- [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [2] Lei L, Fu Z, Wang H, Lee SW, Niihara K. Transparent yttria stabilized zirconia from glycine-nitrate process by spark plasma sintering. Ceram Int. 2012;38(1):23-28. DOI: 10.1016/j.ceramint.2011.05.122
- [3] Dash A, Kim BN, Klimke J, Vleugels J. Transparent tetragonal-cubic zirconia composite ceramics densified by spark plasma sintering and hot isostatic pressing. J Eur Ceram Soc. 2019;39(4):1428-1435. DOI: 10.1016/j.jeurceramsoc.2018.12.004
- [4] Paygin V, Stepanov S, Dvilis E, Khasanov O, Alishin T, Valiev D. Effect of technological parameters on optical and mechanical properties of Spark Plasma Sintered transparent YSZ ceramics. Ceram Int. 2021;47(8):11169-11175. DOI: 10.1016/j.ceramint.2020.12.240
- [5] Paygin V, Dvilis E, Stepanov S, Khasanov O, Valiev D, Alishin T, Ferrari M, Chiasera A, Mali V, Anisimov A. Manufacturing Optically Transparent Thick Zirconia Ceramics by Spark Plasma Sintering with the Use of Collector Pressing. Appl Sci. 2021;11(3):1304. DOI: 10.3390/app11031304