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透明スピネル(MgAl₂O₄)の放電プラズマ焼結 — 立方晶が拓く透明装甲窓

マグネシアスピネル(MgAl₂O₄)は立方晶ゆえに光学的に等方で、可視から中赤外まで広い透過域と高い硬さを併せ持つ。透明装甲窓や赤外センサ窓の候補として研究され、放電プラズマ焼結(SPS)は微細粒の透明体を短時間で得る手段となる。一方で黒鉛由来の炭素混入による着色が固有の課題であり、その機序と対策をMoritaやBiswasらの公開研究をもとに整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 透明セラミックス
  • MgAl2O4

硬くて透けて、広い窓

防弾ガラスのように衝撃に耐え、サファイアのように透き通り、赤外線まで通す——そんな欲張りな窓材を一つの素材で実現しようとするとき、有力候補に挙がるのがマグネシアスピネル(MgAl₂O₄)である。

スピネルが透明セラミックスとして好まれる理由は、その結晶構造にある。MgAl₂O₄は立方晶で、光学的に等方だ。後述するように、この「立方晶であること」が透明化の難しさを一段下げる。加えて、可視光から中赤外(おおむね5μm付近)まで広い透過域を持ち、硬く、耐衝撃性に優れる。防弾性と透視性を両立する透明装甲窓、過酷な環境にさらされる赤外センサや誘導弾の整流窓(ドーム)といった用途で、サファイアより大型化・加工がしやすい代替材として研究が進む。

その緻密化手段として、放電プラズマ焼結(SPS)が用いられてきた。

立方晶という強み — 複屈折のない結晶

透明セラミックスを設計するとき、結晶系は決定的に効く。立方晶でない結晶(六方晶や正方晶など)は、方向によって屈折率が異なる「複屈折」を持つ。多結晶体では粒ごとに結晶の向きがばらばらなので、粒界を光が通るたびに屈折率が不連続に変わり、そこで散乱が起きる。粒を小さくしてこの散乱を抑える努力が要る。

ところが立方晶は、どの方向にも屈折率が等しい。複屈折がないため、粒界での屈折率の食い違いが原理的に生じず、この散乱機構そのものが存在しない。MgAl₂O₄が立方晶であることは、透明化において大きなアドバンテージだ。残る散乱要因は、主に残留気孔と、もし混入すれば不純物・第二相に絞られる。

つまりスピネルでは、「気孔をどこまで消すか」と「不純物による着色をどう防ぐか」に課題が集約される。

気孔を消す — SPSの効き方

透光性を得るには、相対密度をほぼ完全(およそ99.9%超)まで高め、残留気孔を可視光波長より小さいレベルまで排出する必要がある。気孔を完全に消すには高温・長時間が有利だが、それは粒を粗大化させ、機械的特性や歩留まりを損なう。微細粒のまま気孔だけを消したい——この要求にSPSが応える。

SPSは、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する手法である。毎分100°Cを超える昇温で目標温度に素早く達し、保持を数分に抑えられる [1]。数十MPaの一軸応力が物質移動を助け、低い温度でも気孔を潰す方向に働く。

Moritaらは、市販のスピネル粉からSPSにより透明な多結晶体を作製し、急速焼結が透光性の付与に有効であることを示した [3]。Bonnefontらは、市販ナノ粉のSPSで微細粒の透明スピネルを得て、粒径と透過率の関係を整理している [6]。Wangらも、SPSによる透明MgAl₂O₄の作製を報告しており、立方晶スピネルが急速焼結と相性のよい透明セラミックスであることが裏付けられている [2]。

炭素による着色という固有の難問

立方晶ゆえに散乱要因が少ないスピネルだが、SPS特有の弱点がある。黒鉛由来の炭素混入による着色(変色)である。

黒鉛ダイス・パンチや、炉内雰囲気の炭素が試料に取り込まれると、灰色から褐色の色味がつき、これが可視域の透過率を下げる主因となる。散乱要因の少ないスピネルでは、この着色が透明度を律速しやすい。Moritaらは、SPSで作った透明スピネルの変色を分光的に調べ、その起源を整理した [4]。

対策は複数ある。Biswasらは、試料と黒鉛のあいだに白金箔をバリアとして挟むことで、炭素汚染のない透明スピネルを得る方法を示した [5]。このほか、(i) 焼結後の酸化雰囲気アニールによる炭素除去、(ii) 昇温・加圧プロファイルの最適化、(iii) 高純度原料の使用、といった手立てが組み合わされる。立方晶という素性の良さを生かしきれるかは、この炭素管理にかかっている。

透ける防具という発想

透明スピネルの研究は、「硬い装甲」と「透ける窓」という、相反する要求を一枚の板で満たそうとするものだ。立方晶の等方性が散乱の少なさを保証し、SPSが微細粒のまま気孔を消す。残るは炭素の制御——ここを抑えれば、防弾性と広い透過域を兼ねた窓材に近づく。

立方晶であることの恩恵を、いかに汚染で帳消しにしないか。透明スピネルの焼結は、結晶対称性という物理の追い風を、プロセス管理で取りこぼさないための設計だと言える。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

なぜスピネルが透明装甲窓に向くのか。
MgAl₂O₄は立方晶で光学的に等方であり、粒界での複屈折による散乱が原理的に生じない。このため微細粒の多結晶でも高い透光性を得やすい。さらに可視から中赤外(およそ5μmまで)にわたる広い透過域と高い硬さ・耐衝撃性を併せ持つため、防弾性と透視性を両立する透明装甲窓や、過酷環境の赤外センサ窓の候補とされる。サファイアより加工しやすく大型化しやすい点も利点に挙げられる。
SPSがスピネルの透明化で果たす役割は何か。
透光性には残留気孔を可視光波長より十分小さいレベルまで消す必要がある。SPSはパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、長時間の高温保持を避けながら気孔を排出でき、微細粒のまま緻密化できる。Moritaらは市販粉からSPSで透明スピネル多結晶を作製し、急速焼結が透光性付与に有効であることを示した [3]。
SPSスピネル固有の課題は何か。
黒鉛ダイス・パンチや雰囲気に由来する炭素が試料に取り込まれ、灰色〜褐色の着色(変色)を生じやすい。これは立方晶ゆえに散乱要因が少ないスピネルでは、透過率を下げる主因となる。Moritaらは変色の分光的な起源を調べ [4]、Biswasらは白金箔をバリアに用いて炭素汚染のない透明スピネルを得る方法を報告している [5]。後熱処理(アニール)による炭素除去も併用される。

参考文献

  1. [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  2. [2] Wang C, Zhao Z. Transparent MgAl2O4 ceramic produced by spark plasma sintering. Scr Mater. 2009;61(2):193-196. DOI: 10.1016/j.scriptamat.2009.03.039
  3. [3] Morita K, Kim BN, Hiraga K, Yoshida H. Fabrication of transparent MgAl2O4 spinel polycrystal by spark plasma sintering processing. Scr Mater. 2008;58(12):1114-1117. DOI: 10.1016/j.scriptamat.2008.02.008
  4. [4] Morita K, Kim BN, Yoshida H, Hiraga K, Sakka Y. Spectroscopic study of the discoloration of transparent MgAl2O4 spinel fabricated by spark-plasma-sintering (SPS) processing. Acta Mater. 2015;84:9-19. DOI: 10.1016/j.actamat.2014.10.030
  5. [5] Biswas P, Chakravarty D, Suresh MB, Johnson R, Mohan MK. Fabrication of graphite contamination free polycrystalline transparent MgAl2O4 spinel by spark plasma sintering using platinum foil. Ceram Int. 2016;42(15):17920-17923. DOI: 10.1016/j.ceramint.2016.07.214
  6. [6] Bonnefont G, Fantozzi G, Trombert S, Bonneau L. Fine-grained transparent MgAl2O4 spinel obtained by spark plasma sintering of commercially available nanopowders. Ceram Int. 2012;38(1):131-140. DOI: 10.1016/j.ceramint.2011.06.045