透明マグネシア(MgO)の放電プラズマ焼結 — 岩塩型立方晶を低温で透かす
酸化マグネシウム(MgO)は岩塩型の立方晶で、可視から中赤外まで広く透過し、赤外窓やシンチレータホストの候補とされる。一方で粒成長しやすく黒鉛由来の炭素も取り込みやすい。放電プラズマ焼結(SPS)では、フッ化リチウム(LiF)を少量加えることで低温・低圧の緻密化と炭素低減を両立する手法が報告されている。JiangやSakajioらの公開研究をもとに、その機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 透明セラミックス
- マグネシア
最も単純な酸化物を、透かす
酸化マグネシウム(MgO、マグネシア)は、化学式が示すとおり、金属一つと酸素一つからなる最も単純な部類の酸化物だ。鉱物としてはペリクレースと呼ばれ、岩塩型(NaCl型)の立方晶構造をとる。耐火物や医薬品としてはおなじみだが、条件を整えて焼くと、向こうが透けて見える透明セラミックスになる。
MgOが透明材料として有望なのは、その立方晶という素性による。岩塩型の立方晶は光学的に等方で、どの方向にも屈折率が等しい。多結晶でも粒界で屈折率が食い違わず、複屈折散乱が原理的に生じない。これはYAGやスピネル、イットリアと共通する透明化の追い風だ。加えてMgOは可視から中赤外まで広く透過し、比較的軽量で熱伝導率が高い。赤外センサ窓やドーム、シンチレータや蛍光体のホストの候補として研究されてきた [5]。
その緻密化手段として、放電プラズマ焼結(SPS)が用いられる。
粒成長という、MgO固有の弱点
立方晶で複屈折散乱を免れるMgOだが、透明化には固有の難しさがある。粒成長の速さだ。
MgOは焼結中に粒が成長しやすい。これがなぜ問題かというと、緻密化の進み方と関わるからだ。焼結では、気孔が粒界に沿って排出されていく。ところが粒成長が速すぎると、移動する粒界が気孔を置き去りにし、気孔が粒の内部に取り残される。粒内に閉じ込められた気孔は、もはや粒界という排出経路を失い、最後まで消えずに残る。残った気孔は屈折率の異なる散乱中心として、透過率を確実に下げる。
つまりMgOでは、立方晶の恩恵を生かすためにこそ、「粒成長を抑えながら気孔を消す」ことが要となる。粒を微細に保てれば、気孔が置き去りにされる前に排出を終えられる。Jiangらは、SPSによりサブミクロン級の微細粒を保った透明MgOを作製し、微細組織の維持が透光性の鍵であることを示している [2]。
SPSの効き方と、LiFという切り札
SPSは、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する手法である。毎分100°Cを超える昇温で目標温度に素早く達し、保持を数分に抑えられる [1]。長時間の高温保持を避けられるため、粒成長の速いMgOでも組織を微細に保ちやすい。数十MPaの一軸応力が物質移動を助け、低い温度でも気孔を潰す。
ただしMgOでは、SPSの急速性だけでは緻密化を低温で完了させきれないことが多い。そこで効いてくるのが、焼結助剤のフッ化リチウム(LiF)である。
LiFは融点が低く、焼結中に液相を作る。この液相が粒子のあいだに行き渡って物質移動を助け、低い温度・低い圧力でも緻密化を進める。Sakajioらは、LiFの添加量を最適化することで、低温・低圧のSPSでも高い透光性を持つ多結晶MgOが得られることを示した [3]。液相を介した緻密化は、固相拡散だけに頼るより速く気孔を消せるため、粒成長が始まる前に緻密化を終える助けになる。
炭素を入れない、抜く
SPSに共通する弱点が、黒鉛環境に由来する炭素混入である。黒鉛ダイス・パンチや雰囲気の炭素が試料に取り込まれると、灰色〜褐色の着色を生じ、可視域の透過率を下げる。立方晶ゆえに散乱要因の少ないMgOでは、この着色が透明度を律速しやすい。
ここでもLiFが二役を果たす。LiFは緻密化を助けるだけでなく、焼結中に残留炭素と反応・揮発して炭素汚染を減らす働きがあるとされる。BodaghabadiらはLiFをMgOナノ粒子に分散させた場合と、しない場合とで、可視・赤外の透過率を比較し、LiFの有無が透光性に与える影響を整理している [4]。このほか、(i) 焼結後の酸化雰囲気アニールによる炭素除去、(ii) 昇温・加圧プロファイルの最適化、(iii) 高純度原料の使用、といった対策が併用される。LiFは緻密化と炭素低減を同時に担う、MgO透明化の切り札的な助剤だと言える。
単純な酸化物の、緻密な作り込み
透明MgOの研究は、化学的には最も単純な酸化物を、組織制御の上では精密に作り込む試みだ。立方晶の等方性が複屈折散乱を消してくれる一方で、粒成長の速さと炭素汚染という二つの弱点が残る。
SPSの急速昇温と加圧、そしてLiFという助剤——これらは、粒が育つ前に気孔を消し、炭素を入れずに焼き切るための道具立てである。岩塩型立方晶という素直な構造を、いかにプロセスで生かしきるか。透明マグネシアの焼結は、単純な材料ほど組織制御の巧拙が透明度に直結することを示す題材だと言える。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- MgOはどのような結晶で、なぜ赤外窓に向くのか。
- MgO(ペリクレース)は岩塩型(NaCl型)の立方晶で、光学的に等方なため粒界での複屈折散乱が原理的に生じない。可視から中赤外まで広く透過し、比較的軽量で熱伝導率が高く、高温安定性にも優れる。このため赤外センサ窓やドーム、シンチレータや蛍光体のホストの候補として研究される。立方晶という素性は、同じく等方なスピネルやイットリアと共通する透明化の追い風になる。
- MgOの透明化が難しいのはなぜか。
- MgOは粒成長が速く、緻密化の途中で粒が粗大化しやすい。気孔が粒界から取り残されて粒内に閉じ込められると、もはや排出できず散乱源として残る。加えてSPSの黒鉛環境では炭素を取り込みやすく着色する。粒成長を抑えながら気孔を消し、炭素を入れないことが核心となる。
- LiF添加はMgOの焼結で何をしているのか。
- フッ化リチウム(LiF)はMgOの代表的な焼結助剤で、焼結中に液相を作って物質移動を助け、低い温度・低い圧力でも緻密化を進める。同時に、残留炭素と反応・揮発して炭素汚染を減らす役割も担うとされる。SakajioらはLiFの最適添加で高い透光性のMgOをSPSで得ており [3]、BodaghabadiらはLiFの有無で可視・赤外の透過率がどう変わるかを比較している [4]。
参考文献
- [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [2] Jiang N, Xie RJ, Liu Q, Li J. Fabrication of sub-micrometer MgO transparent ceramics by spark plasma sintering. J Eur Ceram Soc. 2017;37(15):4947-4953. DOI: 10.1016/j.jeurceramsoc.2017.06.021
- [3] Sakajio M, Beilin V, Mann-Lahav M, Zamir S, Shter GE, Grader GS. Highly Transparent Polycrystalline MgO via Spark Plasma Sintering. ACS Appl Mater Interfaces. 2022;14(46):52108-52116. DOI: 10.1021/acsami.2c11775
- [4] Bodaghabadi FM, Ramazani M, Loghman-Estarki MR, Alhaji A, Habibabadi MZ. Comparison of visible and IR transparency of MgO and in situ synthesized LiF decorated on MgO nanoparticles consolidated by spark plasma sintering. Ceram Int. 2021;47(10):14124-14137. DOI: 10.1016/j.ceramint.2021.01.283
- [5] Wakahara S, Yanagida T, Yokota Y, Fujimoto Y, Chani V, Sugiyama M, Futami Y, Yoshikawa A. Phosphorescent luminescence of pure magnesium oxide transparent ceramics produced by spark plasma sintering. Opt Mater. 2013;35(3):558-562. DOI: 10.1016/j.optmat.2012.10.028