硫化物系固体電解質の放電プラズマ焼結 — やわらかさを活かし、相を壊さず緻密にする
硫化物系固体電解質は、酸化物より格段にやわらかく、低い温度でも粒どうしが密着しやすい。そのうえ室温でも液体に迫るイオン伝導を示すものがある。だが水分に弱く、高温では伝導相が分解しやすい。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間で緻密化し、望ましい相を保ったまま粒界の隙間を消す手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 硫化物系固体電解質
- アルジロダイト
硫黄が通り道を広げる
固体のなかをリチウムイオンが速く流れるには、イオンが居心地よく動けるだけの隙間と、通り抜けやすい電子環境が要る。ここで硫黄が効いてくる。硫黄は酸素より原子が大きく、電子をゆるく抱える。そのぶん、イオンがあいだをすり抜けやすい。結果として、Li2S–P2S5 系やアルジロダイト型 Li6PS5Cl といった硫化物系固体電解質には、室温で液体電解液に迫るほど高いイオン伝導率を示すものがある [1]。
加えて、硫化物はやわらかい。酸化物のように高温で焼き締めなくても、室温で押し固めるだけで粒どうしがある程度密着する。製造の面でも扱いやすい——硫化物系が全固体電池の有力候補とされる理由は、この「速さ」と「やわらかさ」にある。
やわらかさの裏側
ところが、このやわらかさは万能ではない。室温でただ押し固めただけの硫化物は、粒どうしが点で触れているにすぎず、粒界に微細な隙間が残りやすい。この隙間はイオンの流れを妨げ、電解質全体の伝導率を、本来材料が持つ値より低いところで頭打ちにする。やわらかいからそこそこ密着する、しかし「そこそこ」では足りない——ここに硫化物の緻密化という課題がある [1][2]。
隙間を消すには、温度をかけて粒界を融合させたい。だが硫化物には、温度を上げにくい二つの事情がある。
ひとつは、高温で望ましい伝導相が分解してしまうことだ。高いイオン伝導を担う結晶相は、温度を上げすぎると別の相へ崩れ、せっかくの伝導率が落ちる。もうひとつは、水分への弱さである。硫化物は大気中の水分と反応して硫化水素を出しやすく、組成と結晶相を保ったまま扱うには雰囲気の管理が欠かせない [1]。
つまり硫化物の緻密化は、低い温度で、相を壊さず、雰囲気を保ったまま隙間を消すという、狭い条件の窓のなかで行う必要がある。
SPSがこの窓に合う理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに詰めた粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する手法である [3][4]。この性格が、硫化物の狭い条件の窓によく合う。
- 低めの温度・短時間で緻密化できる:加圧(数十MPa級)が物質移動を助けるため、常圧より低い温度で高密度体が得られる。高温に長くさらさずにすむので、伝導相の分解を抑えやすい [1][3]。
- 加圧が粒界の隙間をつぶす:やわらかい硫化物は、加圧下で粒どうしが押し付けられて隙間が消えやすい。粒界の隙間という伝導の主な妨げを減らせることが、伝導率の向上に直結する [2]。
- 密閉系で雰囲気を保ちやすい:粉末をダイス内に閉じ込めて固めるため、外気との接触を抑えながら緻密化を進める設計がしやすい。
Wang らは、アルジロダイト型 Li6PS5Cl の焼結条件を最適化し、緻密化と高いイオン伝導率を両立させて全固体リチウム硫黄電池に適用した [1]。Liu らは、緻密化した Li6PS5Cl で粒界の隙間を減らし、イオン伝導率に加えて、リチウム金属を流せる電流の上限(臨界電流密度)まで高められることを示した [2]。
隙間を消すことが、安全にも効く
硫化物系電解質の緻密化は、伝導率を上げるだけの話ではない。粒界に残る隙間や微細な空隙は、リチウム金属を負極に使ったとき、そこをリチウムが這って伸び(デンドライト)、短絡を起こす経路にもなりうる。緻密に固めて隙間を減らすことは、伝導の改善と同時に、こうした短絡への耐性にも関わる。リチウムを流せる電流の上限を引き上げる研究は、まさにこの観点からの取り組みである [2]。
ただし、得られる伝導率や電流の上限は、組成、原料粉の純度と粒径、焼結の温度・圧力・時間といった多くの変数で決まる。SPSはその条件を低温側で取りやすくする手段であって、単一の「到達点」を保証するものではない。
やわらかい固体を、隙間なく固める
硫化物系固体電解質は、硫黄がもたらす速さと、扱いやすいやわらかさを併せ持つ。だがそのやわらかさゆえに粒界の隙間が残り、温度を上げれば相が壊れ、空気に触れればガスを出す——長所と短所が背中合わせになっている。
SPSは、低い温度と加圧という組み合わせで、この背中合わせの材料を相を壊さずに緻密化する手段のひとつだ。やわらかい固体の粒どうしを、隙間なく押し付けて一体にする。硫化物系電解質の焼結は、速いイオンの道を最後まで途切れさせないための、条件の窓を見極める作り込みの工程である。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 硫化物系固体電解質が注目されるのはなぜか。
- 硫黄は酸素より大きく、電子をゆるく抱えるため、リチウムイオンがそのあいだを通り抜けやすい。このため Li2S–P2S5 系やアルジロダイト型 Li6PS5Cl など硫化物系には、室温で液体電解液に迫るほど高いイオン伝導率を示すものがある。さらに材料がやわらかく、室温で押し固めるだけでもある程度密着するため、加工性の面でも有利とされる [1]。
- やわらかいのに、なぜ緻密化が課題になるのか。
- 室温で押し固めただけの硫化物は、粒どうしが点で触れているだけで、粒界に隙間が残りやすい。この隙間はイオンの流れを妨げ、電解質全体の伝導率を頭打ちにする。隙間を消すには温度をかけて緻密化したいが、硫化物は高温で望ましい伝導相が分解しやすく、また大気中の水分と反応して有害なガスを出す。低温で、雰囲気を保ったまま緻密にする手立てが要る [1][2]。
- SPSで作った硫化物系電解質ではどのような性能が報告されているか。
- 公開研究では、アルジロダイト型 Li6PS5Cl の焼結条件を最適化し、緻密化と高いイオン伝導率を両立して全固体リチウム硫黄電池に適用した報告がある。緻密化した Li6PS5Cl で粒界の隙間を減らし、伝導率と臨界電流密度を高めた研究もある。得られる値は組成・原料粉・条件に強く依存し、単一の到達点として一般化はできない [1][2]。
参考文献
- [1] Wang S, Zhang Y, Zhang X, Liu T, Lin YH, Shen Y, Li L, Nan CW. High-Conductivity Argyrodite Li6PS5Cl Solid Electrolytes Prepared via Optimized Sintering Processes for All-Solid-State Lithium–Sulfur Batteries. ACS Appl Mater Interfaces. 2018;10(49):42279-42285. DOI: 10.1021/acsami.8b15121
- [2] Liu G, Weng W, Zhang Z, Wu L, Yang J, Yao X. Densified Li6PS5Cl Nanorods with High Ionic Conductivity and Improved Critical Current Density for All-Solid-State Lithium Batteries. Nano Lett. 2020;20(9):6660-6665. DOI: 10.1021/acs.nanolett.0c02489
- [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [4] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-Assisted Sintering Technology/Spark Plasma Sintering: Mechanisms, Materials, and Technology Developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409