スパッタリングターゲット材の放電プラズマ焼結 — 高密度・微細・均一を同時に狙う
スパッタリングターゲットは、薄膜をつくるための「材料の供給源」であり、その品質が膜の性能を直接左右する。高い密度、微細で均一な組織、正しい組成——これらを同時に満たすことがターゲット材の難しさだ。放電プラズマ焼結(SPS)は、急速・加圧焼結で高密度かつ微細な組織を作り込み、希少材料の歩留まりを高める手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- スパッタリングターゲット
- ITO
- 薄膜
薄膜の質は、その「もと」で決まる
スマートフォンの透明電極、半導体配線、ハードコート、反射防止膜——身のまわりの多くの製品は、ナノメートル単位の薄膜の積み重ねでできている。その薄膜をつくる代表的な手法がスパッタリングだ。真空中でターゲットと呼ばれる固体材料の表面にイオンを衝突させ、はじき出された原子を基板に降り積もらせて膜にする。
ここで見落とされがちなのが、できあがる膜の質が、原料であるターゲット材そのものの質に強く支配されるという事実だ。膜の組成は基本的にターゲットの組成を写し取る。ターゲットに気孔があれば放電が乱れ、組成むらがあれば膜の組成がばらつき、粗大な結晶粒があれば局所的なはじけ飛びで微小な欠陥(パーティクル)が生じる。薄膜の質は、その「もと」で決まる——だからこそ、ターゲット材を高品質に作ることが重要になる [1]。
ターゲット材に課される、四つの同時要求
良いターゲット材には、四つの条件を同時に満たすことが求められる。
第一に、高い密度。理論密度に近いほど、気孔に起因する異常放電やパーティクルが減り、放電が安定する。
第二に、微細で均一な結晶組織。結晶粒が細かく揃っているほど、エッチングが均一に進み、膜のむらや局所的な異常放電を抑えられる。
第三に、正しい組成。とくにITO(酸化インジウムスズ)のような酸化物や、揮発しやすい成分を含む系では、焼結中に成分が抜けて組成がずれることがある。
第四に、割れのない健全性。大口径のターゲットでは、焼結時の温度むらや応力で割れが生じやすい。
これら四つは、しばしば互いにぶつかる。密度を上げようと高温・長時間で焼けば結晶粒は粗大化し、揮発成分は抜けやすくなる。緻密化と微細組織、組成維持を一度に満たすには、緻密化を素早く済ませる焼結手段が有利になる [1][3]。
SPSが効く理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [4]。ターゲット材にとって、この手法は次の点で都合がよい。
- 高密度と微細組織を両立できる:加圧(数十MPa)が緻密化を助けるため、低めの温度・短時間で理論密度近くまで固められる。高温保持を抑えられるので、粒成長を抑制し、微細で均一な組織を残せる [1]。
- 揮発を抑えやすい:低温・短時間の緻密化は、揮発しやすい成分の抜けを抑える方向に働き、組成の維持に有利である。
- 組織と密度を狙って作り込める:Wangらは、SPSの条件で密度とナノ気孔の度合いを調整できることを示しており、ターゲット材の組織設計に通じる制御性を持つ [3]。
Guoらは、ITOターゲットをSPSとホットプレスでそれぞれ作製・比較し、SPSが短時間で高密度のITO焼結体を得る手段になることを報告している [1]。
希少材料を、無駄なく使う
ターゲット材には、インジウムをはじめ、希少で高価な元素を含むものが少なくない。さらに、スパッタリングでは表面が少しずつ削れていくため、ある程度使うと中央部がくぼんで使えなくなり、まだ多くの材料を残したまま端材として外される。この端材をどう活かすかは、コストと資源の両面で大きな課題だ。
ここでもSPSが検討されている。Huangらは、使われなくなった高融点のモリブデン–ニオブ系ターゲットの端材を、SPSで再び緻密化して再利用(リマニュファクチャリング)する手法を報告した [2]。短時間で高密度体を作り直せるSPSは、希少材料の歩留まりを高め、資源を無駄なく循環させる手段としても位置づけられる。
量産プロセスのなかでの位置づけ
大口径のターゲット量産では、ホットプレスや常圧焼結+熱間等方圧加圧(HIP)といった、大型・大面積に適したプロセスが広く使われている。SPSは原理的に円盤・ブロック状の緻密化に向き、超大型ターゲットの量産そのものには形状的な制約がある。
それでも、SPSは「新組成・新組織のターゲットを素早く高品質に試作する手段」として、また「希少材料の再緻密化・再利用の手段」として価値を持つ。Tokitaが総説で整理するように、SPSは機能材料の開発と実用化を加速する道具であり、薄膜の供給源であるターゲット材もその応用先の一つである [5]。
良い膜は、良いもとから
薄膜デバイスの性能は、最終的に膜の質に行き着き、膜の質はターゲット材の質にさかのぼる。高密度・微細・均一・正組成——相反しがちな四つの条件を同時に満たすことが、ターゲット材づくりの核心だ。
SPSは、急速・加圧焼結によって緻密化と微細組織を両立させ、揮発を抑え、さらには貴重な端材を再生する手段として研究されてきた。良い膜は、良いもとから。スパッタリングターゲットの焼結は、薄膜技術を足もとから支える、地味だが欠かせない材料工学である。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- スパッタリングターゲットの品質はなぜ薄膜の性能を左右するのか。
- スパッタリングは、ターゲット表面にイオンを衝突させ、はじき出された原子を基板に堆積させて薄膜をつくる手法である。膜の組成や均一性はターゲットの組成・組織を反映するため、ターゲットに気孔や組成むら、粗大な結晶粒があると、放電が不安定になったり、はじけ飛びによる粒子状の欠陥(パーティクル)が生じたり、膜の組成がばらついたりする。高密度・微細・均一なターゲットほど、安定して良質な膜が得られる [1]。
- ターゲット材の焼結で同時に満たしたい条件は何か。
- 理論密度に近い高い密度、微細で均一な結晶粒、設計どおりの組成、そして大きな割れのない健全性である。密度が低く気孔が残ると放電が不安定になり、結晶粒が粗いと膜のむらや異常放電の原因になる。揮発しやすい成分を含む組成では、焼結中の成分の抜けを抑えることも要る。これらを一度に満たすには、緻密化を素早く済ませる焼結手段が有利になる [1][3]。
- SPSがターゲット材の作製で果たす役割は何か。
- SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で、短時間に理論密度近くまで緻密化でき、粒成長を抑えて微細・均一な組織を残せる。揮発成分を含む酸化物などでは、低温・短時間焼結が成分の抜けを抑える方向に働く。さらに、使用済みターゲットの端材を再緻密化して再利用する研究もあり、希少・高価な材料の歩留まり向上にも検討されている [1][2][3]。
参考文献
- [1] Guo W, Wang WM, Wang H, Wang YC, Fu ZY. Fabrication of Indium Tin Oxide Targets by Spark Plasma Sintering and Hot-Pressing Sintering. Adv Mater Res. 2009;66:96-99. DOI: 10.4028/www.scientific.net/amr.66.96
- [2] Huang L, Pan Y, Zhang J, Du Y, Zhang Y. Remanufacturing of the waste refractory Mo–10Nb sputtering target by spark plasma sintering technology. Vacuum. 2022;200:111050. DOI: 10.1016/j.vacuum.2022.111050
- [3] Wang X, Suwardi A, Zheng Y, Zhou H, Chien SW, Xu J. Enhanced Thermoelectric Performance of Nanocrystalline Indium Tin Oxide Pellets by Modulating the Density and Nanoporosity Via Spark Plasma Sintering. ACS Appl Nano Mater. 2020;3(10):10156-10165. DOI: 10.1021/acsanm.0c02113
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014