Sintering Frontier焼結フロンティア
research-frontiers公開

宇宙用RTG熱電材料のSPS — 探査機を半世紀動かす電源を、焼結から組み上げる

放射性同位体熱電発電機(RTG)は、太陽光の届かない深宇宙で探査機を何十年も動かしてきた。その心臓部は、熱を電気に変える熱電材料だ。RTGに使われるPbTeやSiGe、次世代候補のskutteruditeは、放電プラズマ焼結(SPS)で組織を作り込み、モジュールに組み上げられる。材料単体でなく電源システムの視点から、SPSの役割を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • RTG
  • 熱電材料

太陽の届かない場所で、半世紀動く電源

1977年に打ち上げられたボイジャー探査機は、いまも太陽系の外縁で観測を続けている。太陽から遠く離れたその場所では、太陽電池はほとんど役に立たない。光が弱すぎるのだ。にもかかわらず探査機が動き続けているのは、太陽光に頼らない電源を積んでいるからである。

その電源が、放射性同位体熱電発電機(Radioisotope Thermoelectric Generator, RTG)だ。プルトニウム238などの放射性同位体は、崩壊にともなって熱を出し続ける。その半減期は長く、何十年にもわたって安定した熱を供給する。RTGは、この崩壊熱を熱電材料で直接電気に変える。可動部がなく、燃料補給も要らず、太陽の有無に左右されない——深宇宙ミッションや惑星表面の長期探査にとって、これほど頼れる電源はない [1]。

このRTGの心臓部にあるのが、熱を電気に変える熱電材料である。そして、その材料を性能を引き出す組織のまま固体に仕上げる工程で、放電プラズマ焼結(SPS)が重要な役割を果たす。本稿は、材料単体の物性ではなく、RTGという電源システムを組み上げる視点から、SPSの位置づけを整理する。

RTGが選んできた材料たち

RTGの熱電材料は、ミッションの要求と時代の技術に応じて選ばれてきた。

歴史をたどると、PbTe(鉛テルル)、TAGS(テルル・銀・ゲルマニウム・アンチモンからなる材料)、そしてSiGe(シリコンゲルマニウム)が実機に使われてきた。SiGeは高温で安定し、ボイジャーをはじめとする外惑星探査機の電源を支えた。現行の火星探査車などに搭載されるMMRTG(Multi-Mission RTG)は、PbTeをn型、TAGS/PbSnTeをp型のセグメント材料として用いている [1]。

次世代の候補としては、より高い変換効率を狙える材料群が研究されている。中温域で性能の高いskutterudite(CoSb₃系)、Mg₃Sb₂系、ハーフホイスラー化合物などだ。skutteruditeをPbTe/TAGSの代わりに使えば、発電量の向上が見込めるとされる一方、宇宙での実飛行実績がないことが採用上のリスクとして指摘される [1]。Palaporn らの総説は、こうした宇宙探査向け熱電材料を、RTGでの性能要求と材料選択の基準から体系的に整理している [2]。

ここで重要なのは、単一の材料で全温度域をまかなえないという事実だ。RTGでは、熱源側の高温と放熱側の低温のあいだに大きな温度勾配がかかる。その勾配に沿って、各温度域で最も効率のよい材料を段に組む——これが「セグメント化」の発想である。

温度域をまたぐ「セグメント脚」を、一度に固める

熱電材料の性能は、無次元性能指数 ZT で測られる。どの材料にも、最も性能を発揮する温度域がある。室温帯ならビスマステルル、中温域ならskutterudite、高温域ならSiGe、というように。

RTGのように広い温度勾配を使う電源では、一本の脚(熱電素子)の中で、高温側と低温側に別々の材料を配置できれば、全域で高い効率を引き出せる。これがセグメント脚だ。だが、異なる材料を貼り合わせる接合部は、電気抵抗を増やす弱点になりやすく、長期運用での界面の安定性が課題になる。RTGは何十年も動き続ける前提だから、接合部の劣化は致命傷になりうる。

ここでSPSが効く。SPSは粉末をパルス通電と加圧で緻密化する手法だが、同時に、異なる材料を加熱・加圧しながら一体に接合する手段にもなる。Liらは、温度域の異なる材料を一回のSPSで接合してセグメント脚を作り、熱電発電素子として特性を評価した [3]。複数の工程を分けずに、緻密化と接合を一度に済ませられるのは、界面を作り込むうえで大きな利点だ。

skutteruditeのセグメント脚については、接合部の熱的・界面的な安定性そのものを調べた研究もある。Kruszewskiは、パルス通電焼結で作ったskutteruditeのセグメント脚について、加熱保持後の界面の組織と接触抵抗の安定性を評価し、長期使用に向けた界面設計の知見を示している [4]。RTGに不可欠な「何十年も劣化しない接合」を実現するうえで、こうした界面の作り込みが鍵になる。

モジュールへ、再現性をもって

材料の脚が一本できても、それだけでは発電機にならない。多数の脚を電気的・熱的に組み合わせ、モジュールとして安定に量産できなければ、実用にならない。RTGのように一台で長期ミッションを支える電源では、性能のばらつきの小ささ——再現性——が、信頼性に直結する。

Prado-Gonjalらは、skutteruditeを使った熱電モジュールについて、高い体積出力密度を保ちつつ、スケールアップと再現性を両立できることを示した [5]。SPSで緻密化したskutterudite素子を多数組み上げ、モジュールとして安定した性能を再現できるかを検証したものだ。材料の物性から、脚、接合、そしてモジュールへ——SPSは、この各段階で緻密化と組織制御を担い、電源システムを下支えする。

ただし、ここで正確に区別しておくべき点がある。これらの研究の多くは、地上での材料・モジュール開発であり、RTGとして宇宙で運用された実証とは段階が異なる。skutteruditeを含む次世代材料は、まだ実飛行実績を積んでいる途上にある [1]。SPSが作り込む高性能なセグメント脚やモジュールが、宇宙の長期ミッションでどう働くかは、地上での緻密な検証を積み重ねた先に確かめられていく。

熱を、電気に、長く確実に

RTGは、太陽の届かない場所で探査機を半世紀動かしてきた、宇宙開発の縁の下の力持ちだ。その心臓部は、熱を電気に変える熱電材料であり、PbTeからSiGe、そしてskutteruditeへと、温度域と効率を巡る材料選択の歴史を刻んできた。

SPSは、この材料を性能を引き出す組織のまま緻密化し、温度域をまたぐセグメント脚に接合し、再現性のあるモジュールへ組み上げる——電源システムを物理的に成り立たせる各段階で働く、いわば縁の下のさらに下の技術である。材料の物理と、プロセスと、電源としての信頼性が、ZTという一点と、何十年という時間軸の上で結びつく。

人類が宇宙で暮らすために必要な技術を、地上の研究から一段ずつ積み上げていく。宇宙用RTG熱電材料のSPSは、「熱を、電気に、長く確実に変え続ける」という探査の根源的な要求に、焼結というものづくりの側から応えようとする領域であり続けている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

RTGとは何で、なぜ宇宙で必要なのか。
RTG(Radioisotope Thermoelectric Generator、放射性同位体熱電発電機)は、プルトニウム238などの放射性同位体が崩壊で出す熱を、熱電材料で直接電気に変える電源である。可動部がなく、太陽光に依存しないため、太陽から遠い外惑星探査機や、夜の長い惑星表面でも安定して発電できる。ボイジャーや火星探査車キュリオシティなど、長期ミッションの電源として使われてきた [1]。
RTGにはどんな熱電材料が使われるのか。
歴史的にはPbTe(鉛テルル)、TAGS、SiGe(シリコンゲルマニウム)が実機に使われてきた。現行のMMRTGはPbTe/TAGSを用い、過去の外惑星探査ではより高温域に強いSiGeが採用された。次世代候補としては、中温域で性能の高いskutterudite、Mg₃Sb₂系、ハーフホイスラーなどが研究されている。温度域ごとに最適な材料が異なる [1][2]。
SPSはRTG材料の製造でどんな役割を果たすのか。
RTG用熱電材料は、ナノ構造や非平衡組織を保ったまま緻密に固めることで性能が上がる。SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で短時間に緻密化でき、粒成長を抑えて組織を作り込める。さらに、温度域の異なる材料を一回のSPSで接合して段に組む「セグメント脚」の作製にも使われる。skutterudite脚をSPS/パルス通電で接合・モジュール化する研究がある [3][4][5]。

参考文献

  1. [1] Chen L, Lu T, Shi X-L, Liu W-D, Li M, Huo S, Song P, Bell J, Chen Z-G, Hong M. Radioisotope thermoelectric generators: Evolution, materials, and future prospects. Appl Phys Rev. 2025;12(4):041322. DOI: 10.1063/5.0267852
  2. [2] Palaporn D, Tanusilp S, Sun Y, Pinitsoontorn S, Kurosaki K. Thermoelectric materials for space explorations. Mater Adv. 2024;5:5351-5364. DOI: 10.1039/d4ma00309h
  3. [3] Li S, Pei J, Liu D, Bao L, Li J-F, Wu H, Li L. Fabrication and characterization of thermoelectric power generators with segmented legs synthesized by one-step spark plasma sintering. Energy. 2016;113:35-43. DOI: 10.1016/j.energy.2016.07.034
  4. [4] Kruszewski MJ. Thermal and interfacial stability of PPS-fabricated segmented skutterudite legs for thermoelectric applications. Materials. 2025;18(13):2923. DOI: 10.3390/ma18132923
  5. [5] Prado-Gonjal J, Phillips M, Vaqueiro P, Min G, Powell AV. Skutterudite thermoelectric modules with high volume-power-density: Scalability and reproducibility. ACS Appl Energy Mater. 2018;1(11):6609-6618. DOI: 10.1021/acsaem.8b01548