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全固体電池の固体電解質(LLZO・硫化物系)の放電プラズマ焼結 — 粒界をいかに消すか

全固体電池の鍵を握る固体電解質では、リチウムイオンが結晶粒を越えて流れるときの「粒界抵抗」をいかに下げるかが性能を左右する。酸化物系のLLZO(Li₇La₃Zr₂O₁₂)と硫化物系では、求められる焼結温度も難所も大きく異なる。放電プラズマ焼結(SPS)は、急速昇温と加圧で粒界を密着させ、望ましい結晶相を保ったまま緻密化する手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

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液体をやめると、粒界が立ちはだかる

現行のリチウムイオン電池は、電極のあいだを満たす可燃性の有機電解液でイオンを運ぶ。これを固体の電解質に置き換えるのが全固体電池であり、発火リスクの低減と高いエネルギー密度の両立が期待されている。固体電解質に求められる第一の条件は、液体に匹敵するほど速くリチウムイオンを通すこと、そして電子はほとんど通さないことである。

ところが、固体電解質を多結晶のセラミックスとして作ると、液体にはなかった壁が現れる。結晶粒の境目、すなわち粒界である。リチウムイオンは粒の内部(バルク)を流れたあと、粒界を越えて隣の粒へ移らなければならない。この粒界に気孔が残ったり、伝導の悪い不純物相が挟まったり、粒どうしの密着が甘かったりすると、そこでイオンの流れが滞る。電解質全体の伝導率は、しばしばバルクではなく、この粒界抵抗で頭打ちになる [1][3]。

粒界をいかに消すか——それが、固体電解質を焼結する技術の中心的な問いである。

二つの系、二つの難所

固体電解質には大きく分けて、酸化物系と硫化物系がある。それぞれ性質が異なり、焼結の難所も別の場所にある。

酸化物系(LLZO)— 高温と相の安定性

ガーネット型酸化物のLLZO(Li₇La₃Zr₂O₁₂)は、化学的・電気化学的に安定で、リチウム金属負極とも比較的相性がよいことから、有力な酸化物固体電解質として注目されてきた。高い伝導率を示すのは立方晶相だが、これは室温では本来不安定で、アルミニウムやタンタルなどをドープして安定化させる必要がある。

問題は緻密化だ。LLZOを常圧で焼き固めるには1100°Cを超える高温と長時間が要る。その高温保持のあいだに、軽くて揮発しやすいリチウムが抜け、組成がずれて伝導の悪い相(正方晶や不純物相)が生じやすい。さらに気孔が残れば、それ自体が粒界抵抗の源になる [3][5]。

硫化物系 — やわらかさと水分への弱さ

硫化物系(Li₂S–P₂S₅ 系やアルジロダイト型 Li₆PS₅Cl など)は、酸化物より格段にやわらかく、室温〜数百°Cの低温でも粒子どうしが密着しやすい。高いイオン伝導率を示すものも多く、加工性の面では有利である [1][4]。

その代わり、化学的にデリケートだ。大気中の水分と反応して硫化水素を出しやすく、組成と結晶相を保ったまま扱うには、雰囲気の管理が欠かせない。高温に長くさらせば、望ましい伝導相が分解してしまうこともある [4]。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [2]。固体電解質にとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 低めの温度・短時間で緻密化できる:加圧(数十MPa)が物質移動を助けるため、常圧より低い温度で高密度体が得られる。高温保持を短く抑えられるので、LLZOではリチウムの揮発や不純物相の生成を、硫化物系では伝導相の分解を、それぞれ抑える方向に働く [3][6]。
  • 粒界を密着させやすい:加圧下で粒界の気孔がつぶれ、粒どうしが押し付けられる。気孔という粒界抵抗の主因を減らせることが、伝導率の向上に直結する [3]。
  • 相と組織を作り込みやすい:昇温・保持・加圧を独立に制御できるため、立方晶LLZOのような準安定相を保ったまま固める設計の自由度が高い。

Yamadaらは、SPSで緻密化したガーネット型固体電解質について、緻密化の進み方と粒界の状態を調べ、SPS特有の焼結機構と粒界抵抗の関係を整理している [3]。Wangらは、アルジロダイト型 Li₆PS₅Cl の焼結条件を最適化し、緻密化と伝導率を高めて全固体リチウム硫黄電池に適用した [4]。

伝導率という一つの数字へ

SPSで作った固体電解質の性能は、最終的に室温イオン伝導率という一つの数字に集約される。だがその値は、ドープ種、組成、原料粉の純度、焼結温度・圧力・保持時間といった多くの変数の積み上げで決まる。

Dongらは、LLZOに二種類の元素を同時にドープ(デュアル置換)し、SPSで緻密化することで、立方晶相の安定化と緻密化を両立させ、イオン伝導率を高めた [5]。Kotobukiらは、アルミニウムを含まないイットリウムドープLLZOをSPSで作製し、高い伝導率を報告している [6]。これらの研究では、SPSで緻密化した立方晶LLZOがミリジーメンス毎センチメートル級(10⁻⁴〜10⁻³ S/cmの桁)の室温伝導率に達することが示されている。値は条件に強く依存するため、単一の「到達点」として一般化はできない。

固体の中に、イオンの通り道をつくる

全固体電池の性能は、固体電解質がどれだけ速く、安定にリチウムイオンを通せるかにかかっている。酸化物系では高温と相安定性、硫化物系では水分とのデリケートな反応——系ごとに難所は違えど、共通するのは「粒界をいかに密着させ、望ましい相を保ったまま緻密化するか」という課題だ。

SPSは、急速昇温と加圧という二つの武器で、この課題に応える焼結手段の一つである。低めの温度で粒界の気孔をつぶし、揮発や分解を起こす暇を与えずに固める。固体の中に途切れないイオンの通り道をつくる——固体電解質の焼結は、電池の安全とエネルギー密度を同時に押し上げるための、地道で本質的な作り込みの工程である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

固体電解質で粒界抵抗が問題になるのはなぜか。
固体電解質は多結晶体であり、リチウムイオンは結晶粒の内部(バルク)と、粒どうしの境目(粒界)の両方を通って流れる。粒界に気孔や不純物相、密着不良があると、そこでイオンの流れが滞り、電解質全体のイオン伝導率が下がる。とくに酸化物系のLLZOは粒界抵抗が大きくなりやすく、粒界をいかに密着させて気孔と異相を減らすかが、実用に足る伝導率を得る核心となる [1][3]。
酸化物系のLLZOと硫化物系で焼結の難所はどう違うのか。
LLZOは高い伝導率を示す立方晶相を安定に保ちつつ緻密化する必要があるが、常圧では1100°C超の高温・長時間を要し、その間にリチウムの揮発や不純物相の生成が起こりやすい。硫化物系は室温に近い温度でも比較的やわらかく成形できる反面、大気中の水分と反応して有害なガスを出しやすく、組成と相の維持がデリケートである。SPSはどちらに対しても、低めの温度・短時間で緻密化することで、これらの副反応を抑える方向に働く [3][4][6]。
SPSで作った固体電解質はどの程度の性能が報告されているか。
ドープ種・組成・焼結条件に強く依存するが、SPSで緻密化した立方晶LLZOではミリジーメンス毎センチメートル級(10⁻⁴〜10⁻³ S/cmの桁)の室温イオン伝導率が報告されている。デュアルドープや助剤の工夫で粒界の密着と相純度を高め、伝導率を引き上げる研究が続いている。値は条件依存であり、単一の到達点として一般化はできない [5][6]。

参考文献

  1. [1] Hayashi A, Hama S, Mizuno F, Tadanaga K, Minami T, Tatsumisago M. Characterization of Li2S–P2S5 glass-ceramics as a solid electrolyte for lithium secondary batteries. Solid State Ionics. 2004;175(1-4):683-686. DOI: 10.1016/j.ssi.2004.08.036
  2. [2] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  3. [3] Yamada H, Ito T, Basappa RH. Sintering Mechanisms of High-Performance Garnet-type Solid Electrolyte Densified by Spark Plasma Sintering. Electrochim Acta. 2016;222:648-656. DOI: 10.1016/j.electacta.2016.11.020
  4. [4] Wang S, Zhang Y, Zhang X, Liu T, Lin YH, Shen Y, Li L, Nan CW. High-Conductivity Argyrodite Li6PS5Cl Solid Electrolytes Prepared via Optimized Sintering Processes for All-Solid-State Lithium–Sulfur Batteries. ACS Appl Mater Interfaces. 2018;10(49):42279-42285. DOI: 10.1021/acsami.8b15121
  5. [5] Dong Z, Xu C, Wu Y, Tang W, Song S, Yao J, Huang Z, Wen Z, Lu L, Hu N. Dual Substitution and Spark Plasma Sintering to Improve Ionic Conductivity of Garnet Li7La3Zr2O12. Nanomaterials. 2019;9(5):721. DOI: 10.3390/nano9050721
  6. [6] Kotobuki M, Koishi M. High conductive Al-free Y-doped Li7La3Zr2O12 prepared by spark plasma sintering. J Alloys Compd. 2020;826:154213. DOI: 10.1016/j.jallcom.2020.154213