軟磁性材料の放電プラズマ焼結 — アモルファス粉末を結晶化させずに固める
軟磁性材料は、外部磁場に素早く応じてエネルギー損失少なく磁化する材料で、トランスやモーターの鉄心を担う。鉄基アモルファス合金は優れた軟磁性を持つが、塊にする加熱で結晶化すると性能が崩れる。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間焼結でこの結晶化を抑える。本稿は、鉄基アモルファス粉末のバルク化と低鉄損の機序を公開研究から整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 軟磁性材料
- アモルファス合金
磁石にならない磁性材料
「磁性材料」と聞くと、磁石を思い浮かべるかもしれない。だが、磁性材料には正反対の二つの顔がある。一つは、いったん磁化したら頑固に磁力を保つ「硬い」材料——永久磁石である。もう一つは、磁場をかければ素早く磁化し、取り去れば素早く磁化が消える「柔らかい」材料——軟磁性材料だ。
軟磁性材料の役割は、磁石になることではない。交流磁場のもとで、磁化の向きを何度も素早く反転させることである。トランスやモーター、インダクターの鉄心に使われ、電気エネルギーと磁気エネルギーのやり取りを仲立ちする。このとき、磁化の反転を繰り返すたびに、わずかなエネルギーが熱として失われる。これを鉄損という。鉄損が小さいほど、機器は無駄なく動く。電力を扱うあらゆる機器の効率が、軟磁性材料の良し悪しにかかっている [1]。
良い軟磁性材料の条件は、磁場に素早く応じること(高い透磁率)と、反転の際の無駄が少ないこと(低い鉄損)だ。この両方を高いレベルで満たす材料として、鉄基アモルファス合金が注目されてきた。
アモルファスの強みと、その弱点
アモルファス合金は、原子が規則正しく並ばず、ガラスのように乱れた構造を持つ金属である。通常の金属は原子が結晶格子に整然と並ぶが、アモルファス合金にはその並びがない。
この「乱れ」が、軟磁性に効く。結晶では、原子の並びや結晶粒の境目が、磁化の向きの変化を妨げる。アモルファスにはそうした規則的な構造がないため、磁化が向きを変えやすく、磁気的に柔らかい。鉄を主体としたアモルファス合金は、高い磁化と低い鉄損を両立しやすく、優れた軟磁性材料となる。乱れた構造は電気抵抗も高いため、交流磁場のもとで生じる渦電流による損失も抑えやすい [2][3]。
だが、この乱れた構造には弱点がある。熱に弱いのだ。アモルファス合金は、ある温度(結晶化温度)を超えて加熱されると、乱れていた原子が並び替わって結晶化してしまう。いったん結晶化すると、軟磁性を支えていた「乱れ」が失われ、性能が崩れる。乱れた構造は、いわば準安定な状態であり、熱を与えると安定な結晶へ落ち着こうとする [2][3]。
ここに、アモルファス軟磁性材料をバルク化する際の難所が生じる。
結晶化温度を超えずに固める
アモルファス合金は、溶けた金属を急冷して作る。その性質上、薄いリボンや細い線、あるいは粉末といった、小さく薄い形でしか得にくい。これらを実用的な大きさの塊(鉄心など)にまとめるには、加熱して固める工程が要る。
しかし、その加熱がアモルファスの敵になる。結晶化温度を超えれば構造が崩れ、軟磁性が失われる。緻密化には熱が要る一方、熱はアモルファスを結晶化させる——この相反が、バルク化の中心課題である。結晶化温度を超えないように、つまり低温・短時間で、それでいて十分に緻密に固める必要がある [2][3]。
放電プラズマ焼結(SPS)は、まさにこの要求に応える焼結法である。SPS はパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、低い温度・短い時間で緻密化できる。目標温度に素早く到達して保持を短く抑えられるため、アモルファス粉末を結晶化温度の手前にとどめたまま固められる。さらに、アモルファス合金は結晶化温度の少し下に「過冷却液体領域」と呼ばれる、軟らかく変形しやすくなる温度域を持つ。SPS でこの領域を利用すれば、加圧によって粉末どうしを密着・結合させ、結晶化させずに緻密なバルク体を得やすい。「結晶化する手前で、軟らかくなった粉末を押し固める」——これが SPS の戦略である [2][3]。
低鉄損のバルク鉄心を作る
SPS によるアモルファス軟磁性材料のバルク化は、複数の研究で具体的に示されてきた。
Shen らは、鉄基のアモルファス(金属ガラス)粉末を SPS で固め、良好な軟磁性を保ったバルクの鉄心を作製した。アモルファス構造を維持したまま緻密化することで、リボンや粉末でしか得られなかった軟磁性を、扱いやすい塊の形で実現したのである [2]。Lee らは、鉄-ホウ素-ニオブ-イットリウム系のアモルファス粉末を SPS で固め、軟磁性を備えたコンパクト(圧粉成形体)を作製し、その磁気特性を報告した [3]。
Li、Makino、Kato らは、鉄-ケイ素-ホウ素-リン系のアモルファス(ガラス)粉末を SPS で固め、鉄損の小さい軟磁性鉄心を作製した。アモルファス構造を保ったバルク体は、結晶質の材料に比べて鉄損が低く、交流のもとで効率よく働くことを示している。SPS が、アモルファスの優れた軟磁性を塊の形に閉じ込められることを、低鉄損という実用上重要な指標で実証した研究である [1]。
これらに共通するのは、「アモルファス粉末を結晶化させずにバルク化する」という一点を、SPS の低温・短時間焼結が支えている点だ。出発材料の組成は異なっても、結晶化の手前で緻密化を完了させるという戦略は同じである [1][2][3]。
乱れたまま、固める
軟磁性材料は、永久磁石とは正反対に、磁化を素早く反転させて電気エネルギーと磁気エネルギーを仲立ちする、機器の効率を左右する材料である。鉄基アモルファス合金は、原子の乱れた構造ゆえに磁気的に柔らかく、高い透磁率と低い鉄損を両立しうる。だが、その乱れは熱に弱く、塊にするための加熱で結晶化すれば性能が崩れてしまう。
放電プラズマ焼結は、低温・短時間・加圧という特徴によって、この難題に答える。結晶化温度を超えないうちに、過冷却液体領域で軟らかくなった粉末を押し固めることで、乱れた構造を保ったまま緻密なバルク鉄心を得られる。Shen らがバルク化を、Lee らが圧粉成形体の軟磁性を、Li らが低鉄損の鉄心を、それぞれ公開研究として示してきた [1][2][3]。アモルファスの「乱れ」を結晶化させずに固体へ閉じ込める——その難しい両立に、SPS は有力な答えの一つを与えている。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 軟磁性材料とは何か。なぜ重要なのか。
- 外から磁場をかけると素早く磁化し、磁場を取り去ると素早く磁化が消える、磁気的に「柔らかい」材料を指す。トランスやモーター、インダクターの鉄心に使われ、交流磁場のもとで磁化の向きを何度も反転させる。このとき生じるエネルギーの無駄(鉄損)が小さいほど、機器の効率が上がる。電力を扱うあらゆる機器の効率を左右する、地味だが重要な材料である [1]。
- 鉄基アモルファス合金が軟磁性に優れるのはなぜか。
- アモルファス合金は原子が規則正しく並ばず、ガラスのように乱れた構造を持つ。結晶のような原子の並びがないため、磁化が向きを変えるのを妨げる要因が少なく、磁気的に柔らかい。鉄を主体としたアモルファス合金は、高い磁化と低い鉄損を両立しやすく、優れた軟磁性材料として注目される。だが、この乱れた構造は熱に弱い [2][3]。
- アモルファス粉末を塊にする工程で何が問題になるのか。
- アモルファス合金は、ある温度を超えて加熱すると原子が並び替わって結晶化する。結晶化すると、せっかくの軟磁性が損なわれる。粉末を塊にするには加熱が要るが、その熱で結晶化してしまっては元も子もない。結晶化温度を超えないように、低温・短時間で固める必要があるのが中心課題である [2][3]。
参考文献
- [1] Li Y, Makino A, Kato H, Inoue A, Kubota T. Fe76Si9.6B8.4P6 glassy powder soft-magnetic cores with low core loss prepared by spark-plasma sintering. Mater Sci Eng B. 2011;176(15):1247-1250. DOI: 10.1016/j.mseb.2011.06.017
- [2] Shen TD, Schwarz RB, Thompson JD. Soft magnetism in bulk metallic glass and its application: Bulk glassy soft-magnetic cores produced by spark-plasma sintering Fe65Co10Ga5P12C4B4 glassy powder. Mater Sci Eng A. 2004;375-377:666-670. DOI: 10.1016/j.msea.2003.10.255
- [3] Lee CK, Kato H, Kubota T, Makino A, Inoue A. Fabrication and soft-magnetic properties of Fe-B-Nb-Y glassy powder compacts by spark plasma sintering technique. Intermetallics. 2009;17(4):218-221. DOI: 10.1016/j.intermet.2008.07.021