固体酸化物形燃料電池(SOFC)部材の放電プラズマ焼結 — 緻密な電解質と多孔な電極を作り分ける
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、セラミックスの電解質を介して酸素イオンを運び、燃料の化学エネルギーを電気に直接変える。電解質は緻密に、電極は多孔に——同じセラミックスでも部材ごとに正反対の組織が求められる。放電プラズマ焼結(SPS)は、低温・短時間で緻密化し、不純物や粒成長を抑えてイオン伝導を引き出す手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- SOFC
- 固体電解質
- イオン伝導
燃やさずに、化学エネルギーを電気にする
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料の化学エネルギーを、燃焼を経ずに直接電気へ変換する装置である。心臓部は三層のセラミックス——空気極、電解質、燃料極が重なった構造だ。空気側で酸素が酸素イオンになり、緻密な電解質を通って燃料側へ移動し、そこで燃料と反応して電気を生む。
この仕組みが成り立つには、各層に正反対の性質が求められる。電解質は、酸素イオンだけを速く通し、ガスは一切通さない緻密な隔壁でなければならない。一方、両側の電極は、ガスを内部まで行き渡らせ、反応の場を多く確保するために、あえて気孔だらけ(多孔質)に作る必要がある。
同じセラミックスを、片や気孔を消して緻密に、片や気孔を残して多孔に——SOFC部材の焼結とは、この作り分けの技術である。
電解質 — 緻密化と不純物の戦い
電解質の代表材料は、安定化ジルコニア(YSZ)とガドリニアドープセリア(GDC)である。YSZは中〜高温域で安定に酸素イオンを通し、GDCはより低い温度域で高い伝導率を示すため、作動温度を下げたいSOFCで注目されてきた [1][3]。
電解質に立ちはだかる壁は二つある。
第一に、緻密化。わずかでも気孔が連結して残れば、そこから燃料と空気が漏れ、電池として成立しない。完全に近い緻密体を作ることが大前提となる。
第二に、そしてしばしば見落とされがちなのが、粒界の不純物である。原料粉や焼結中に持ち込まれるシリカなどの不純物は、粒界に偏析してガラス質の薄膜を作り、酸素イオンの流れを妨げる。緻密でも、粒界が汚れていれば伝導率は伸びない [1]。
SPSが効く理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [4]。SOFC電解質にとって、この手法は次の点で都合がよい。
- 低温・短時間で緻密化できる:加圧が物質移動を助けるため、常圧より低い温度で緻密体が得られる。Chenらは、シリカを微量含むYSZをSPSで緻密化し、低温・短時間焼結によって不純物が粒界へ及ぼす悪影響を抑えつつイオン伝導率を確保できることを示した [1]。
- ナノ組織を残せる:粒成長を抑えて微細な結晶組織を保てるため、粒界を介した伝導や機械特性を制御しやすい。Kabirらは、SPSで作製したナノ構造のアクセプタードープセリアの電気伝導を調べ、組織と伝導の関係を整理している [3]。
- 共焼結の負担を減らせる:低温で緻密化できれば、電解質と電極を重ねて同時に焼く際の、層間の反応や熱膨張差による割れを抑える設計につながる。
ただし、セリア系では焼結雰囲気の管理に注意が要る。GDCは還元雰囲気で酸素を失いやすく、これが寸法変化や割れの原因になる。Mishraらは、SPS後に酸素を制御しながら再酸化させることで、GDCの割れを防ぐ手法を報告している [2]。
電極 — 多孔を「残す」焼結
電解質とは逆に、空気極・燃料極では多孔質組織を残すことが目的になる。気孔が反応ガスの通り道となり、電極材料・電解質・ガスの三つが出会う反応点(三相界面)を増やすほど、電極の働きは活発になる。
ここでの焼結は「緻密化しすぎない」制御が肝になる。電極粒子どうしを十分に結合させて電気と物質の通り道を確保しつつ、気孔をつぶしきらない——焼結温度・保持時間・加圧の加減で、この絶妙な中間状態を狙う。SPSの精密な温度・圧力制御は、こうした組織の作り込みを検討する手段としても位置づけられる。
同じ材料を、二つの顔に育てる
SOFCの性能は、緻密な電解質がいかに速く酸素イオンを通すか、そして多孔な電極がいかに反応点を確保するか、その両輪で決まる。同じセラミックスを、片や隙間なく、片や隙間だらけに焼き上げる——この相反する作り分けが、SOFC部材づくりの本質である。
SPSは、低温・短時間焼結によって不純物や粒成長、共焼結時の割れといった難所を抑えながら、部材ごとに望む組織へ導く手段として研究されてきた。Tokitaが総説で整理するように、SPSは機能性セラミックスの開発を加速する道具であり、エネルギー変換部材もその対象に含まれる [5]。緻密と多孔、伝導と反応——SOFCの焼結は、一つの材料に二つの顔を育てる材料工学である。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- SOFCの電解質に求められる条件は何か。
- 電解質は、酸素イオンだけを速く通し、電子は通さず、燃料と空気を混ざらせない隔壁の役割を担う。このため気孔のない緻密体であること、高いイオン伝導率を持つこと、そして電子伝導が小さいことが要る。代表材料は安定化ジルコニア(YSZ)やガドリニアドープセリア(GDC)で、緻密化が不十分で気孔が残るとガスが漏れ、不純物が粒界に偏ると伝導率が下がる [1][3]。
- 同じSOFC部材でも電解質と電極で焼結の狙いはどう違うのか。
- 電解質はガスを通さない緻密体が必要だが、電極(空気極・燃料極)は逆に、ガスが通り抜け反応点を多く確保するための多孔質組織が必要になる。つまり同じセラミックスでも、片や気孔を消し、片や気孔を残すという正反対の組織制御が求められる。焼結温度・圧力・保持時間を調整して、緻密と多孔を作り分けることが部材設計の要点である。
- SPSがSOFC部材の作製で果たす役割は何か。
- 電解質では、SPSの低温・短時間焼結が、粒界へ偏析する不純物(シリカなど)の影響を抑えつつ緻密化し、イオン伝導率を高める方向に働く。また粒成長を抑えてナノ結晶組織を残すことで、粒界を介した伝導や機械特性を制御しやすい。低温で緻密化できる利点は、共焼結時の部材間の反応や熱膨張差による割れを抑えるうえでも検討されている [1][2][3]。
参考文献
- [1] Chen XJ, Khor KA, Chan SH, Yu LG. Overcoming the effect of contaminant in solid oxide fuel cell (SOFC) electrolyte: spark plasma sintering (SPS) of 0.5wt.% silica-doped yttria-stabilized zirconia (YSZ). Mater Sci Eng A. 2004;374(1-2):64-71. DOI: 10.1016/j.msea.2003.12.028
- [2] Mishra TP, Laptev AM, Ziegner M, Sistla SK, Kaletsch A, Broeckmann C, Guillon O, Bram M. Field-Assisted Sintering/Spark Plasma Sintering of Gadolinium-Doped Ceria with Controlled Re-Oxidation for Crack Prevention. Materials. 2020;13(14):3184. DOI: 10.3390/ma13143184
- [3] Kabir A, Colding-Jørgensen S, Molin S, Esposito V. Electrical conductivity of nanostructured acceptor-doped ceria fabricated by spark plasma sintering (SPS). Mater Lett. 2020;279:128513. DOI: 10.1016/j.matlet.2020.128513
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014