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ナトリウムイオン電池材料の放電プラズマ焼結 — NASICON型電解質を低温で緻密にする

リチウムに頼らないナトリウムイオン電池は、資源が豊富で安価な点が魅力だ。固体型の鍵を握る NASICON 型電解質(Na3Zr2Si2PO12 など)は、緻密に焼かないとナトリウムイオンが粒界で滞る。だが常圧焼結は高温・長時間を要し、ナトリウムが揮発しやすい。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間で緻密化する手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • ナトリウムイオン電池
  • NASICON

リチウムでなくてもいい

蓄電池の主役は長くリチウムイオン電池だった。だが、リチウムは地殻中の存在量が限られ、産地も偏っている。需要が膨らむにつれ、価格と供給の不安定さが課題として意識されるようになった。そこで改めて注目されているのが、ナトリウムイオン電池である。

ナトリウムはリチウムと同じアルカリ金属で、似た仕組みで電池を作れる。しかも海水や岩塩に大量に含まれ、安価で手に入りやすい。エネルギー密度ではリチウムにやや譲るが、資源の制約に左右されにくいという強みは大きい。とくに、設置場所に余裕がある定置型の大規模蓄電では、ナトリウムの利点が活きる。固体電解質を使うナトリウム全固体電池なら、安全性とエネルギー密度の両立も視野に入る [3]。

その固体型の鍵を握るのが、ナトリウムイオンを通す固体電解質——なかでも NASICON 型と呼ばれる一群である。

NASICON型電解質と、粒界という壁

NASICON 型電解質(代表は Na3Zr2Si2PO12)は、ジルコニウムとリン、ケイ素、酸素が組んだ骨格のあいだを、ナトリウムイオンが通り抜ける構造を持つ。化学的に安定で、固体型ナトリウム電池の有力候補として研究が重ねられてきた [1][2]。

ところが、これを多結晶のセラミックスとして作ると、全固体電池に共通の壁が現れる。粒界である。ナトリウムイオンは結晶粒の内部(バルク)を流れたあと、粒どうしの境目を越えて隣の粒へ移らなければならない。この粒界に気孔や隙間が残ると、そこでイオンの流れが滞り、電解質全体の伝導率はバルク本来の値より低いところで頭打ちになる。粒界をいかに密着させ、気孔を消すか——それが、NASICON 型電解質を実用に足る伝導率へ近づける核心になる [1][2]。

緻密化を阻む、ナトリウムの揮発

粒界の気孔を消すには、温度をかけて緻密に焼き締めたい。だが常圧での焼結には難所がある。NASICON を高密度まで緻密化するには高温・長時間を要し、その高温保持のあいだに、軽くて揮発しやすいナトリウムが抜けてしまう。組成がずれれば、望ましくない相が生じ、かえって伝導が悪くなる。

緻密にしようと温度を上げればナトリウムが逃げ、ナトリウムを保とうと温度を下げれば緻密化が足りない——ここにも、緻密化と組成維持の二律背反がある。この壁を越えるために、低い温度で緻密化するさまざまな手立てが研究されてきた。雰囲気を工夫して低温で固める方法、別の成分を助剤として加えて緻密化温度を下げる方法などがそれである [1][2]。

SPSという低温・加圧の道

そうした低温緻密化の手立てのひとつが、放電プラズマ焼結(SPS)である。SPSは、黒鉛ダイスに詰めた粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [3]。NASICON 型電解質にとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 低めの温度・短時間で緻密化できる:加圧(数十MPa級)が物質移動を助けるため、常圧より低い温度で高密度体が得られる。高温保持を短く抑えられるので、ナトリウムの揮発と組成ずれを抑える方向に働く [3]。
  • 粒界を密着させやすい:加圧下で粒界の気孔がつぶれ、粒どうしが押し付けられる。気孔という粒界抵抗の主因を減らせることが、伝導率の向上に直結する。
  • ドープ設計と組み合わせやすい:結晶骨格に別の元素をドープして伝導を調整しつつ、SPSで緻密化することで、相と緻密さの両方を作り込める。

Basitti らは、ランタンと亜鉛を共ドープした Na3Zr2Si2PO12 を、常圧焼結とSPSの両方で作製して比較し、SPSによる緻密化が緻密さとイオン伝導率に与える影響を評価している [4]。低温で緻密化する別の流れとして、雰囲気や助剤を工夫してNASICONを固める研究も並行して進んでおり、それぞれが組成維持と緻密化の両立を狙う点で共通している [1][2]。

安さを、性能に変えるために

ナトリウムイオン電池の魅力は、資源の豊富さと安さにある。だがその魅力を実際の電池性能に変えるには、固体電解質のなかでナトリウムイオンが滞りなく流れなければならない。粒界の気孔がイオンを止め、緻密化のための高温がナトリウムを逃がす——この二つの壁を、低温で緻密に固めることで同時に越える必要がある。

SPSは、加圧と急速昇温という組み合わせで、その低温緻密化を担う手段のひとつだ。ナトリウムを逃がさずに気孔を消し、粒界を密着させる。得られる伝導率は組成・ドープ種・焼結条件に強く依存し、一般化はできないが、緻密化の道筋をひとつ明確にする。ナトリウムイオン電池材料の焼結は、豊富で安価な元素を、信頼できる蓄電技術へと橋渡しする作り込みの工程である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

ナトリウムイオン電池が注目されるのはなぜか。
ナトリウムはリチウムと同じアルカリ金属で、似た仕組みで電池を作れる。そのうえ海水や岩塩に大量に含まれ、地殻中の存在量も多く安価である。リチウム資源の偏在や価格変動に左右されにくい蓄電技術として、定置型の大規模蓄電などを中心に研究と実用化が進んでいる。固体電解質を使うナトリウム全固体電池では、安全性とエネルギー密度の両立も狙える [3]。
NASICON型電解質で緻密化が重要なのはなぜか。
NASICON 型(Na3Zr2Si2PO12 など)は、ナトリウムイオンが結晶の骨格を通り抜ける固体電解質で、固体型ナトリウム電池の有力候補である。多結晶のセラミックスなので、イオンは粒の内部と粒どうしの境目(粒界)を流れる。粒界に気孔や隙間が残ると、そこでイオンの流れが滞り、電解質全体の伝導率が下がる。粒界を密着させて気孔を消す緻密化が、実用に足る伝導率を得る核心になる [1][2]。
SPSで作ったNASICON型電解質ではどのような利点があるか。
常圧でNASICONを緻密に焼くには高温・長時間を要し、その間に軽いナトリウムが揮発して組成がずれやすい。SPSは加圧と急速昇温で低めの温度・短時間に緻密化できるため、揮発を抑えながら気孔を減らせる。公開研究では、ドープしたNASICONをSPSで緻密化し、緻密さとイオン伝導率を評価した報告がある。値は組成・ドープ種・条件に依存する [4]。

参考文献

  1. [1] Grady ZM, Tsuji K, Ndayishimiye A, Hwan-Seo J, Randall CA. Densification of a Solid-State NASICON Sodium-Ion Electrolyte Below 400 °C by Cold Sintering With a Fused Hydroxide Solvent. ACS Appl Energy Mater. 2020;3(5):4356-4366. DOI: 10.1021/acsaem.0c00047
  2. [2] Sun W, Li Y, Sun C, Sun Z, Jin H, Zhao Y. Si3N4-Assisted Densification Sintering of Na3Zr2Si2PO12 Ceramic Electrolyte toward Solid-State Sodium Metal Batteries. Batteries. 2024;10(10):359. DOI: 10.3390/batteries10100359
  3. [3] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-Assisted Sintering Technology/Spark Plasma Sintering: Mechanisms, Materials, and Technology Developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409
  4. [4] Basitti H, Sil A. Conventional and spark plasma sintered (La, Zn) co-doped Na3Zr2Si2PO12 solid electrolytes and their characterization. J Alloys Compd. 2025;1042:183952. DOI: 10.1016/j.jallcom.2025.183952