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セレン化スズ(SnSe)熱電材料の放電プラズマ焼結 — 層状構造が生む超低熱伝導

セレン化スズ(SnSe)は、層状の結晶構造と強い非調和振動に由来する、きわめて低い熱伝導率で知られる熱電材料である。単結晶で高い性能が示された一方、実用には多結晶バルク化と異方性・酸化の制御が課題となる。放電プラズマ焼結(SPS)は、機械合金化やドーピングで作った粉末を粒成長させずに緻密化し、配向と組成を作り込む手段として公開研究で位置付けられている。本稿はその機序を整理する。

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  • SPS
  • 熱電材料
  • SnSe
  • 層状構造

構造が最初から熱を通さない

多くの熱電材料は、熱伝導率 κ を下げるために、ナノ構造化や合金化といった「後からの工夫」を重ねる。セレン化スズ(SnSe)は、その出発点が違う。結晶構造そのものが、最初から熱をひどく通しにくいのだ。

SnSeは、原子層が弱く結びついて積み重なる層状構造を持つ。スズとセレンの結合は柔らかく、格子は大きく、調和からはずれて(非調和に)振動する。この強い非調和性のもとでは、熱を運ぶ格子振動(フォノン)どうしが激しく散乱し合い、格子熱伝導率が本質的に低くなる。Zhaoらは、SnSe単結晶でこの超低熱伝導と、ある方向で2を超える高いZTを報告し、層状熱電材料への関心を一気に高めた [1]。

熱電性能は、無次元性能指数 ZT = S²σT/κ で測られる。SnSeは κ の低さを生まれつき備えている。残る課題は、この利点を量産可能な固体に、性能を保ったまま写し取ることにある。

単結晶から多結晶バルクへ

単結晶のSnSeは魅力的だが、扱いにくい。育成に手間がかかり、層状ゆえに劈開しやすく割れやすい。実用素子や量産には向きにくい。そこで、粉末から多結晶バルクを成形する道が探られる。

多結晶化には、新たな二つの課題がついてくる。一つは異方性である。SnSeの性能は層に沿う方向と垂直な方向で大きく異なるため、多結晶でも性能の良い向きに結晶を揃える(配向させる)ことが望ましい。もう一つは酸化だ。スズは酸化しやすく、粒子表面や粒界に酸化物が生じると、キャリアが乱れ、界面抵抗が増す。

これらを制御しながら κ の低さを保つために、ドーピングと組成設計が用いられる。Wubienehらは、p型多結晶SnSeにゲルマニウムを添加して性能を高めた [3]。Liらは、塩化ランタン(LaCl₃)の添加でn型化と性能向上を図っている [5]。組成のわずかな調整が、キャリア濃度と伝導型を左右する。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [2]。機械合金化やドーピングで作ったSnSe粉末を固めるとき、この手法は次の点で都合がよい。

  • 微細組織を保てる:急速昇温と短時間保持で緻密化を済ませられるため、粒成長を抑えられる。Lvらは、機械合金化したSnSe₁±ₓをSPSで固め、組成比と熱電特性の関係を調べている [4]。
  • 配向を作り込める:一軸加圧下で層状粒子が圧力に対して特定の向きに並びやすく、性能の良い方向にテクスチャを形成できる。Asfandiyarらは、機械合金化とSPSで作ったSnS-SnSe固溶体で、方向による熱電特性の違い(異方性)を報告している [6]。
  • 比較的低温・短時間で固められる:SnSeは融点が高くないうえスズが揮発・酸化しやすく、短時間の緻密化は組成のずれと酸化の進行を抑えるうえで有利である [3][5]。

生まれつきの利点を固体に写す

SnSe熱電材料の研究は、他の系とは逆向きの作業に見える。κ を下げるために構造を作り込むのではなく、構造がもともと持つ超低熱伝導を、いかに損なわずに実用的な固体へ移すか——力点はそこにある。

層状の柔らかい結合がフォノンを乱し、ドーピングが電子をそろえ、加圧が結晶を望ましい向きに並べる。SPSは、この生まれつきの利点を、粒成長と酸化を抑えながら多結晶バルクに凍結する手段として、SnSe熱電材料の研究を支えている。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

SnSeの熱伝導率が著しく低いのはなぜか。
結晶構造に理由がある。SnSeは原子層が弱く結びついて積み重なる層状構造を持ち、スズとセレンの結合が柔らかく、格子が大きく非調和に振動する。この強い非調和性が、熱を運ぶ格子振動(フォノン)どうしを散乱させ、格子熱伝導率を本質的に低くする。Zhaoらは、SnSe単結晶でこの超低熱伝導と高いZTを報告した [1]。
単結晶で高性能なら、なぜ多結晶バルクを作るのか。
単結晶は作製に手間がかかり、層状ゆえに割れやすく、量産や実用素子には向きにくい。そこで、粉末から多結晶バルクを成形する道が探られる。ただし多結晶化すると、層状構造に由来する性能の方向依存(異方性)の扱いや、粒界・表面の酸化の管理が新たな課題になる。これらを制御しつつ高い性能を保つことが、実用化の鍵となる [3][5]。
SPSがSnSeの作製で果たす役割は何か。
機械合金化やドーピングで作ったSnSe粉末を、粒成長させずに緻密化する手段としてSPSが使われる。パルス通電による急速昇温と一軸加圧で短時間に固められるため、微細組織を残せる。さらに加圧下で層状粒子が特定方向に並びやすく、性能の良い向きへの配向を作り込める点も利点とされる [4][6]。

参考文献

  1. [1] Zhao LD, Lo SH, Zhang Y, Sun H, Tan G, Uher C, Wolverton C, Dravid VP, Kanatzidis MG. Ultralow thermal conductivity and high thermoelectric figure of merit in SnSe crystals. Nature. 2014;508(7496):373-377. DOI: 10.1038/nature13184
  2. [2] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  3. [3] Wubieneh TA, Chen CL, Wei PC, Chen SY, Chen YY. The effects of Ge doping on the thermoelectric performance of p-type polycrystalline SnSe. RSC Adv. 2016;6(115):114825-114829. DOI: 10.1039/c6ra23904h
  4. [4] Lv S, Ge ZH, Chen YX, Zhao K, Feng J, He J. Thermoelectric properties of polycrystalline SnSe1±x prepared by mechanical alloying and spark plasma sintering. RSC Adv. 2016;6(94):92335-92340. DOI: 10.1039/c6ra21268a
  5. [5] Li F, Wang W, Ge ZH, Zheng Z, Luo J, Fan P, Li B. Enhanced Thermoelectric Properties of Polycrystalline SnSe via LaCl3 Doping. Materials. 2018;11(2):203. DOI: 10.3390/ma11020203
  6. [6] Asfandiyar, Wei TR, Li Z, Sun FH, Pan Y, Wu CF, Farooq MU, Tang H, Li F, Li B, Li JF. Thermoelectric SnS and SnS-SnSe solid solutions prepared by mechanical alloying and spark plasma sintering: Anisotropic thermoelectric properties. Sci Rep. 2017;7:43262. DOI: 10.1038/srep43262