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窒化ケイ素(Si₃N₄)放熱基板の放電プラズマ焼結 — 割れない強さと熱の通り道を両立する

窒化ケイ素(Si₃N₄)は、セラミックスのなかでも飛び抜けて高い強度と破壊靭性を持ち、車載パワーモジュールの放熱基板として採用が進んでいる。熱伝導率では窒化アルミニウムに譲るが、繰り返しの熱応力に耐える「割れにくさ」で勝る。放電プラズマ焼結(SPS)は、針状結晶組織と格子純度を作り込み、強度と熱伝導を両立させる手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • Si3N4
  • 放熱基板
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放熱基板に求められる、もう一つの条件

電気自動車のインバータや産業用の電力変換装置では、半導体チップが発する熱を逃がす放熱基板が信頼性の要になる。絶縁しながら熱を逃がす材料というと、まず思い浮かぶのは熱伝導率の高い窒化アルミニウム(AlN)だろう。だが、車載のパワーモジュールで近年存在感を増しているのは、熱伝導率ではAlNに譲る窒化ケイ素(Si₃N₄)である。

理由は、放熱基板に求められる条件が「熱の通りやすさ」だけではないからだ。パワーモジュールは、半導体チップの動作と停止にともない、急激な加熱と冷却を何万回も繰り返す。基板の上には金属の回路が接合されており、セラミックスと金属では熱膨張のしかたが違う。この差が温度変化のたびに応力を生み、基板にひびを入れていく。

Si₃N₄は、セラミックスのなかで破壊靭性と曲げ強度が際立って高い。つまり、割れにくい。熱伝導率で多少劣っても、薄く作っても割れずに済むため、基板を薄くして熱抵抗を下げられる。割れない強さと熱の通り道——この両立が、Si₃N₄基板の価値である [4][5]。

強さと熱伝導は、別々の場所で決まる

Si₃N₄の二つの長所、すなわち「強さ」と「熱伝導」は、それぞれ別の組織因子に支配されている。

強さを担うのは、針状に伸びたβ-Si₃N₄の結晶である。焼結の過程で、最初の粒子が一度液相に溶け、長い柱状(針状)の結晶として再び析出する。この針状結晶が互いに絡み合うと、亀裂が進もうとしてもそれをそらし、橋渡しのように引き止める。これが高い破壊靭性の源だ [4]。

熱伝導を担うのは、格子振動(フォノン)である。フォノンを散らす要因は二つ。一つは結晶格子に溶け込んだ酸素などの不純物、もう一つは粒界に残る非晶質(ガラス質)相や気孔だ。格子内の酸素が多いほど、また粒界のガラス相が厚いほど、熱は流れにくくなる [3][5]。

ここで助剤が鍵を握る。Si₃N₄は共有結合性が強く、助剤なしでは焼き固まらない。酸化イットリウムや酸化アルミニウムなどを加えると液相ができ、緻密化と針状結晶の成長を促す。同時に、Okamotoらが示したように、助剤の組成しだいで格子内の酸素が粒界の二次相へ排出され、粒内が純化して熱伝導率が上がる。ただし助剤が多すぎれば、粒界に熱を妨げるガラス相が残る——助剤系の設計は、強さと熱伝導のせめぎ合いそのものである [5]。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [1]。Si₃N₄にとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 助剤を抑えて緻密化できる:加圧(数十MPa)が物質移動を助けるため、少ない助剤量でも高密度体が得られる。粒界のガラス相を減らせれば、熱伝導の妨げを抑えられる。Wanらは、助剤量を抑えたSi₃N₄/SiCナノ複合材をSPSで緻密化している [2]。
  • 組織を作り込みやすい:昇温速度と保持時間を制御することで、強度に効く針状組織の発達と、熱伝導に効く格子純度のバランスを調整できる [3]。
  • 副反応を抑えやすい:高温保持が短いため、Si₃N₄の分解や不要な反応を起こしにくい。

Dongらは、原料粉の特性(粒径や酸素量)がSPS焼結後の熱伝導率と機械特性に与える影響を体系的に調べ、出発粉の選択が最終性能を左右することを示した [3]。Ahmadらは、Si₃N₄に窒化チタンを複合化してSPSで焼結し、導電性を付与しつつ機械特性を制御する組成設計を報告している [4]。Tokitaは、SPSの装置・プロセスの進展と機能性セラミックスへの応用の広がりを総説で整理している [6]。

量産プロセスのなかでの位置づけ

実際のSi₃N₄放熱基板は、その多くがテープキャスト+常圧焼結(ガス圧焼結)といった、大面積・薄板の量産に適したプロセスで作られている。SPSは原理的にニアネットシェイプの円盤・ブロック状焼結に向き、大面積薄板の連続生産そのものには形状的な制約がある。

それでも、SPSは「助剤系・組織・純度を素早く作り込める材料開発手段」として価値を持つ。新しい助剤の組み合わせ、針状組織と格子純度のバランス、複合化の効果——こうした探索を、緻密化条件と特性の関係を短いサイクルで回しながら検証できる。

割れない強さこそが、信頼性を支える

パワーモジュールの寿命は、しばしば半導体チップそのものではなく、それを支える基板の割れによって決まる。熱を逃がす能力に加えて、繰り返しの熱応力に耐える強さ——Si₃N₄は、その二つを高い次元で両立する数少ない絶縁セラミックスだ。

針状結晶で亀裂を止め、格子を純化してフォノンを通す。SPSは、この相反する二つの作り込みを、急速・加圧焼結という手段で支える。強さと熱の通り道を同じ組織のなかに同居させる——Si₃N₄基板の焼結は、信頼性という言葉を材料の言葉に翻訳する作業である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

放熱基板になぜ窒化ケイ素(Si₃N₄)が選ばれるのか。
車載インバータなどのパワーモジュールでは、基板が大電流のオンオフによる急激な温度変化を繰り返し受ける。基板とそこに接合した金属回路の熱膨張差が応力を生み、基板にひびが入りやすい。Si₃N₄はセラミックスのなかで破壊靭性と曲げ強度が際立って高く、この熱サイクルによる割れに強い。熱伝導率では窒化アルミニウムに劣るものの、薄く作っても割れにくいため、信頼性の求められる用途で選ばれる [4][5]。
Si₃N₄の熱伝導率は何で決まるのか。
Si₃N₄の熱は格子振動(フォノン)が運ぶ。フォノンを散らす要因は二つあり、一つは結晶格子に溶け込んだ酸素などの不純物、もう一つは粒界に残る非晶質相や気孔である。焼結助剤で液相を作って緻密化しつつ、格子内の酸素を粒界の二次相へ排出し、針状のβ-Si₃N₄結晶を発達させると、熱伝導率が上がる。原料粉の純度・酸素量と助剤系の選択が値を大きく左右する [3][5]。
SPSでSi₃N₄を焼結する利点は何か。
Si₃N₄は共有結合性が強く拡散が遅いため緻密化しにくく、助剤を要する。SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で、助剤量を抑えつつ短時間で高密度体を得られる。保持時間や昇温の制御により、強度に効く微細な針状組織と、熱伝導に効く格子純度のバランスを作り込みやすい点が利点とされる [2][3][6]。

参考文献

  1. [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  2. [2] Wan J, Duan RG, Mukherjee AK. Spark plasma sintering of silicon nitride/silicon carbide nanocomposites with reduced additive amounts. Scr Mater. 2005;53(6):663-667. DOI: 10.1016/j.scriptamat.2005.05.037
  3. [3] Dong H, Zhao Z, Wang C. Effect of powder characteristics on the thermal conductivity and mechanical properties of Si3N4 ceramics sintered by Spark plasma sintering. J Mater Sci Mater Electron. 2019;30(8):7590-7599. DOI: 10.1007/s10854-019-01074-w
  4. [4] Ahmad N, Sueyoshi H. Microstructure and mechanical properties of silicon nitride–titanium nitride composites prepared by spark plasma sintering. Mater Res Bull. 2011;46(3):460-463. DOI: 10.1016/j.materresbull.2010.11.021
  5. [5] Okamoto Y, Hirosaki N, Ando M, Munakata F, Akimune Y. Effect of sintering additive composition on the thermal conductivity of silicon nitride. J Mater Res. 1998;13(12):3473-3477. DOI: 10.1557/jmr.1998.0474
  6. [6] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014