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サマリウムコバルト磁石(SmCo)の放電プラズマ焼結 — 結晶粒を小さく保ち、保磁力を引き出す

高温でも磁力が落ちにくいサマリウムコバルト磁石(SmCo)は、結晶粒を微細に保つほど保磁力を引き出しやすい。だが従来の焼結は高温・長時間を要し、その間に粒が育ってしまう。放電プラズマ焼結(SPS)は急速昇温と加圧で短時間に緻密化し、ナノ結晶組織を残したまま固める手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

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熱に負けない磁石の代償

永久磁石のなかで、サマリウムコバルト磁石(SmCo)は独特の位置を占める。最大の磁力という点ではネオジム磁石に譲るが、温度が上がっても磁力が落ちにくいという強みを持つ。SmCo5 や Sm2Co17 は、結晶の磁化が特定の方向に強く固定される性質——大きな磁気異方性——を備え、その固定の強さが高温でも維持されやすい。磁力が完全に消えるキュリー温度も高い。だからこそ、モーターやセンサー、航空・宇宙の機器など、周囲が高温になる場所で重宝されてきた [2]。

ところが、この熱に強い磁石を作るのは容易ではない。サマリウムは軽くて揮発しやすく、コバルトとの望ましい比率を保ったまま緻密な塊に焼き固めるには、温度と時間の管理が要る。そして何より、焼き固めるあいだに結晶粒が大きく育つと、せっかくの保磁力が削がれてしまう。

保磁力は、粒の境目で決まる

永久磁石の良し悪しを測る数字のひとつが保磁力である。外から逆向きの磁界をかけても磁化が反転しにくい強さを指し、これが大きいほど、磁石は安定して磁力を保つ。

この磁化の反転は、結晶のどこからともなく一斉に起こるわけではない。多くの場合、結晶粒どうしの境目(粒界)や、組織の欠陥といった「弱い場所」から反転の芽が生まれ、そこから周囲へ広がっていく。逆に言えば、結晶粒が小さく、粒どうしが磁気的に切り離されていれば、ある粒で反転が起きても、その影響が隣の粒へ伝わりにくい。磁石全体としては、反転に対する抵抗——すなわち保磁力——が保たれやすくなる [1][3]。

ここから、ひとつの設計指針が導かれる。結晶粒を微細に保ったまま、緻密に焼き固めること。これが、高い保磁力を引き出すための核心である。

従来の焼結が抱えるジレンマ

ところが、ふつうの焼結(常圧での加熱)には、避けがたいジレンマがある。粉末を緻密な塊にするには、高い温度で長く保持する必要がある。だが、その高温・長時間こそが、結晶粒を育ててしまう原因でもある。緻密にしようとすれば粒が育ち、粒を小さく保とうとすれば緻密化が足りない——この二律背反が、微細組織を狙う磁石づくりの壁となる。

加えてSmCoの場合、高温に長くさらすほど、揮発しやすいサマリウムが抜けて組成がずれ、望ましくない相が生じる懸念もつきまとう。

SPSが解くもの

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速に昇温しながら一軸加圧する手法である [3]。SmCoのような微細組織を狙う磁石にとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 急速昇温で滞在時間を短くできる:目標温度まで一気に上げ、短時間で緻密化を済ませる。高温にさらす時間が短いほど、結晶粒が育つ暇を与えずにすむ [4]。
  • 加圧が緻密化を助ける:数十MPa級の圧力が粒子どうしを押し付け、物質移動を補う。同じ密度を得るのに必要な温度を下げられるため、粒成長と組成ずれの双方を抑える方向に働く [3][4]。
  • 組織を作り込む自由度が高い:昇温・保持・加圧を独立に制御できるので、ナノ結晶組織と緻密さの釣り合いを狙って固める設計がしやすい。

Saravanan らは、SmCo5 と鉄を組み合わせたナノ複合磁石をSPSで作製し、焼結温度を変えながら結晶構造と磁気特性がどう移り変わるかを調べた。温度を上げるほど緻密化は進む一方、結晶粒が育ち相の構成も変化し、残留磁化と保磁力の釣り合いが温度とともにずれていく様子を整理している [1]。Chen らは、SmCo5 磁石をSPSで作製し、焼結温度が相構造と磁気特性に与える影響を体系的に調べている [2]。

残留磁化と保磁力の、どちらを取るか

SmCo磁石の設計は、しばしば二つの数字の綱引きになる。ひとつは残留磁化——どれだけ強い磁力を残せるか。もうひとつは保磁力——その磁力をどれだけ安定に保てるか。鉄のような磁化の大きい成分を加えれば残留磁化は上がるが、組織の作り方を誤れば保磁力が犠牲になる。

鉄を混ぜたナノ複合磁石が注目されるのは、微細な組織のなかでサマリウムコバルト相と鉄系相が磁気的に手を結び(交換結合)、残留磁化を底上げしながら保磁力をある程度保てる可能性があるからだ。この交換結合がうまく働くには、それぞれの相がナノスケールで均一に分布している必要がある。SPSの急速・短時間焼結は、こうしたナノ組織を崩さずに固める手段として、公開研究で検討されてきた [1]。ただし得られる特性は組成・原料粉・焼結条件に強く依存し、単一の到達点として一般化はできない。

小さく固めることの意味

サマリウムコバルト磁石の性能は、結局のところ、どれだけ微細な組織を、どれだけ緻密に固められるかにかかっている。粒を小さく保てば保磁力を引き出しやすいが、緻密化のために温度を上げれば粒は育つ——この相反を、急速昇温と加圧という二つの武器でほどくのがSPSの役割である。

高温に強いという磁石本来の長所を、組織づくりの段階で損なわずに引き出す。SmCoの焼結は、熱の中で働き続ける機器を支える、地道な作り込みの工程である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

サマリウムコバルト磁石はなぜ高温に強いのか。
SmCo5 や Sm2Co17 は、結晶の磁化が特定の方向に強く固定される性質(大きな磁気異方性)を持ち、その固定の強さが温度を上げてもネオジム磁石より落ちにくい。キュリー温度も高く、磁力が消える温度に余裕がある。このため、モーターやセンサーなど周囲が高温になる用途で、磁力の温度変化が小さい永久磁石として使われてきた [2]。
結晶粒を小さく保つと、なぜ保磁力が上がるのか。
永久磁石の保磁力は、外から逆向きの磁界をかけても磁化が反転しにくい強さを指す。磁化の反転は、しばしば結晶粒どうしの境目や欠陥から芽を出して広がる。結晶粒が小さく、粒どうしが磁気的に切り離されていると、反転の芽が隣の粒へ伝わりにくくなり、磁石全体としての保磁力が保たれやすい。だから、焼き固めるあいだに粒が大きく育つのを避けることが重要になる [1][3]。
SPSで作ったSmCo磁石ではどのような組織が報告されているか。
公開研究では、SmCo5 と鉄を組み合わせたナノ複合磁石をSPSで作製し、焼結温度を上げるほど結晶粒が育ち、相の構成が変わって磁気特性が変化する様子が報告されている。低めの温度・短時間で固めるほどナノ結晶組織を残しやすく、残留磁化と保磁力の釣り合いを設計する余地が生まれる。値は組成と条件に強く依存し、一般化はできない [1][4]。

参考文献

  1. [1] Saravanan P, Gopalan R, Sivaprahasam D, Chandrasekaran V. Effect of sintering temperature on the structure and magnetic properties of SmCo5/Fe nanocomposite magnets prepared by spark plasma sintering. Intermetallics. 2009;17(7):517-522. DOI: 10.1016/j.intermet.2009.01.005
  2. [2] Chen Y, Jiang Q, Li X, Rehman SU, Zhao C, Song J, Zhong Z. Influence of Sintering Temperatures on the Phase Structure and Magnetic Properties of Spark Plasma Sintered SmCo5 Magnets. J Supercond Nov Magn. 2021;34(11):3001-3008. DOI: 10.1007/s10948-021-06043-1
  3. [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  4. [4] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-Assisted Sintering Technology/Spark Plasma Sintering: Mechanisms, Materials, and Technology Developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409