Sintering Frontier焼結フロンティア
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SPS焼結体の残留応力 — 冷えたあとに残る見えない力

放電プラズマ焼結(SPS)でできた焼結体には、焼結後に外力が無くても内部に力が残ることがある。これが残留応力だ。複合材では相ごとの熱膨張差が主な原因となり、強度や破壊靱性に影響する。本稿はSPS焼結体の残留応力がなぜ生まれ、どう測られるのかを、中性子回折などの公開研究をもとに整理する。

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  • 残留応力
  • 中性子回折
  • 熱膨張ミスマッチ

力をかけていないのに、力が残る

焼結が終わり、装置から取り出した焼結体には外から力がかかっていない。それでも内部には力が残っていることがある。これが残留応力だ。目には見えず、手で触れても感じられないが、確かにそこにあって、材料の強さや割れ方を静かに左右する。

放電プラズマ焼結(SPS)は、パルス通電で急速に加熱し、しばしば急速に冷却する。この急峻な温度履歴は緻密化を速める利点である一方、冷却の途中で内部に応力をため込む原因にもなる。とくに、性質の異なる二つ以上の相を組み合わせた複合材では、残留応力が無視できない大きさになりうる [1]。

なぜ、ただ冷えるだけで力が残るのか。鍵は「縮み方の違い」にある。

熱膨張ミスマッチ — 縮み方が違うと力が生まれる

材料は温度が下がると縮む。どれだけ縮むかは熱膨張係数(CTE)で決まり、これは物質ごとに異なる。単一の相だけでできた均質な材料なら、全体が同じように縮むので、内部に大きな食い違いは生じにくい。

ところが複合材では事情が変わる。たとえばZrB₂(二ホウ化ジルコニウム)とSiC(炭化ケイ素)を混ぜた材料を焼結温度から室温まで冷やすと、CTEの大きい相はより縮もうとし、小さい相はあまり縮まない。隣り合う相どうしは離れられないので、よく縮む相は周りに引っ張られて引張応力を、あまり縮まない相は押されて圧縮応力を受ける。こうして内部に応力が「凍結」される。これが熱膨張ミスマッチによる残留応力だ [1]。

ヤング率(変形のしにくさ)の違いも応力の大きさに効く。Stadelmannらは、SiC含有量を変えたZrB₂-SiC複合材を対象に、機械特性とともに残留応力を評価し、組成と残留応力・強度の関係を整理している [1]。残留応力は厄介者とは限らない。圧縮応力が亀裂の進展を妨げる方向に働けば、むしろ強度や靱性を高めることもある。だからこそ、その符号(引張か圧縮か)と大きさを正しく知ることが設計上の意味を持つ。

回折で内部のひずみを読む

残留応力は直接は測れない。測れるのは、応力によって生じた「ひずみ」のほうだ。結晶は規則正しく原子が並んでおり、その面と面の間隔(格子面間隔)は応力を受けるとわずかに伸び縮みする。この格子面間隔の変化を回折で精密に測り、材料の弾性定数を使って応力に換算する——これが回折法の原理である。

回折に使うビームには種類がある。X線は表面近くの応力を測るのに向く。一方中性子は物質を深く透過するため、表面状態の影響を避けて内部(バルク)の応力を測れる。これがSPS焼結体のように緻密な塊の内部応力を調べるうえで重要になる。

Fanらは、Al₂O₃/Y-TZP(アルミナ/イットリア安定化正方晶ジルコニア)複合材の残留応力を中性子回折で測定し、回折ピークの幅の広がり(ライン・ブロードニング)まで含めて解析した [2]。ピークの位置が応力を、幅が局所的なひずみのばらつきを反映する。両方を読むことで、平均的な残留応力だけでなく内部の不均一さまで評価できる。

モデルと実測を突き合わせる

残留応力の評価は、測定だけで完結するわけではない。各相のCTEとヤング率、体積分率が分かれば、熱膨張ミスマッチからどれだけの応力が生じるかを計算で見積もれる。計算と実測を突き合わせることで、測定値の妥当性を確かめ、現象の理解を深められる。

Petrusらは、SiCにTi₃C₂Tₓ(MXene)を加えた複合材をSPSで焼結し、有限要素法による残留応力モデルと分光分析(ラマン)を組み合わせて応力状態を評価した [3]。グラファイト的な炭素構造の異方性がもたらす複雑な応力場をモデルで可視化し、それを実測で裏づけている。SiC母材にMXeneを2 wt%加えた複合材では、破壊靱性と硬さの向上も報告されており、残留応力の制御が機械特性の設計と結びつくことを示している。

見えない力を設計に取り込む

SPS焼結体の残留応力は、急速な温度履歴と複合材の熱膨張ミスマッチが生む、避けがたい現象である。しかしそれは、測り、理解し、ときに味方につけられる対象でもある。中性子回折やX線回折で内部のひずみを読み、モデルで原因を分解し、組成や冷却条件にフィードバックする。

残留応力は単に「悪いもの」ではない。引張なら割れの起点になりうるが、圧縮なら亀裂を抑える盾にもなる。見えない力の符号と大きさを把握し、材料設計の変数として扱うこと——それがSPS焼結体の残留応力評価が目指すところである。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

残留応力とは何か、なぜSPS焼結体で問題になるのか。
残留応力は、外から力をかけていなくても材料の内部に残っている応力のことだ。焼結後の冷却過程で、相ごとに縮み方が違うと内部でつじつまが合わなくなり、引っ張りや圧縮の力が残る。SPSは急速加熱・急速冷却を伴うため温度履歴が急峻で、とくに異なる相を含む複合材では残留応力が生じやすい。残留応力は強度や破壊挙動を左右するため評価が必要になる [1][2]。
残留応力の主な原因は何か。
複合材では、相ごとの熱膨張係数(CTE)の違いが主因だ。焼結温度から室温まで冷えるとき、よく縮む相とあまり縮まない相が隣り合うと、互いに引っ張り・押し合う。ヤング率の違いも影響する。ZrB2-SiCのような複合材では、この熱膨張ミスマッチによる残留応力が定量的に評価されている [1][3]。
残留応力はどう測るのか。
回折法が代表的だ。結晶の格子面間隔が応力でわずかに伸び縮みすることを利用し、その変化から応力を逆算する。X線は表面近く、中性子は高い透過力で内部(バルク)の応力を測れる。Al2O3/Y-TZP複合材では中性子回折で残留応力が求められ、SiC-MXene複合材ではモデルと分光分析を組み合わせて応力状態が評価されている [2][3]。

参考文献

  1. [1] Stadelmann R, Lugovy M, Orlovskaya N, Mchaffey P, Radovic M, Sglavo VM, Grasso S, Reece MJ. Mechanical properties and residual stresses in ZrB2-SiC spark plasma sintered ceramic composites. J Eur Ceram Soc. 2016;36(7):1527-1537. DOI: 10.1016/j.jeurceramsoc.2016.01.009
  2. [2] Fan K, Ruiz-Hervias J, Pastor JY, Gurauskis J, Baudín C. Residual stress and diffraction line-broadening analysis of Al2O3/Y-TZP ceramic composites by neutron diffraction measurement. Int J Refract Met Hard Mater. 2017;64:1-9. DOI: 10.1016/j.ijrmhm.2017.01.011
  3. [3] Petrus M, Woźniak J, Kostecki M, Cygan T, et al. Modelling and Characterisation of Residual Stress of SiC-Ti3C2Tx MXene Composites Sintered via Spark Plasma Sintering Method. Materials. 2022;15(3):1175. DOI: 10.3390/ma15031175