耐熱高エントロピー合金(NbMoTaW系)の放電プラズマ焼結 — 難融金属を粉末から固める
耐熱高エントロピー合金は、ニオブ・モリブデン・タンタル・タングステンなど融点の高い難融金属を等量近く混ぜ、超高温での強度保持を狙う合金群である。融点が高すぎて溶解・鋳造が難しいため、粉末を使う固相経路が有力になる。放電プラズマ焼結(SPS)はメカニカルアロイングした粉末を緻密化し、単相のbcc固溶体を作る手段として研究されてきた。本稿はその機序を公開論文をもとに整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 耐熱高エントロピー合金
- メカニカルアロイング
熱に耐える合金という難題
ジェットエンジンのタービン、ロケットのノズル、核融合炉の壁——極限の高温にさらされる部材ほど、その材料には「熱に耐える」ことが求められる。現在の耐熱合金の主役はニッケル基の超合金だが、その使用温度には上限があり、より高い温度で強度を保てる材料への期待は尽きない。
その候補として登場したのが、難融金属を主体とする高エントロピー合金である。ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン——いずれも融点が極めて高い難融金属だ。これらを等量近く混ぜれば、構成元素そのものが高温に強いため、合金全体も超高温で強度を保てるのではないか。Senkov らが提案した NbMoTaW のような組成は、この発想を体現する [2]。
本稿では、同じ高エントロピー合金でも、ニッケルや鉄を主体とする面心立方(fcc)系とは一線を画す、難融金属系の耐熱高エントロピー合金を取り上げる。これらは体心立方(bcc)の単相固溶体を作り、狙う温度域も用途も異なる。そして、その作り方には固有の難しさがある。
溶けない金属を、どう混ぜるか
難融系高エントロピー合金の作製は、最初の一歩からして難所だらけである。
最大の壁は、文字どおり「溶けにくさ」だ。タングステンの融点は3400℃前後、モリブデンも2600℃を超える。これほど高い温度でしか溶けない金属を、しかも融点の異なる複数の元素を、均一に溶かして混ぜるのは容易ではない。溶解しても、融点や密度の差が偏析(成分の片寄り)を招きやすい [1]。
そこで有力になるのが、溶かさずに混ぜる固相経路——メカニカルアロイングである。複数の元素粉末をボールミルに入れ、長時間にわたって機械的に変形・破砕・接合を繰り返させると、室温のまま原子レベルで混ざり合い、ナノ結晶の固溶体粉末ができる。融点が大きく異なる難融金属でも均一に混ぜやすく、偏析の問題を避けやすい。Long らは NbMoTaWVTi 系で、長時間のボールミルによって bcc 固溶体の粉末が形成されることを示した [1][3]。
ただし、メカニカルアロイングで得られるのは粉末である。これを緻密な耐熱部材にするには、緻密化の工程が要る。難融金属の高い融点は、ここでも壁になる。
なぜSPSが難融系に向くのか
難融金属の粉末を緻密化するのは、それ自体が大仕事だ。融点が高いということは、原子が動きにくいということでもあり、緻密化に必要な拡散が起こりにくい。従来の焼結では、極めて高い温度に長時間さらさなければ緻密にならず、その間に粒成長や相分離が進んでしまう。
SPS は、この難所に効く。パルス通電による発熱と一軸加圧を組み合わせ、難融金属の粉末を効率よく加熱・緻密化する。加圧が粒子間の接触を強め、通電発熱が緻密化を促すため、従来法より低い温度・短い時間で高密度のバルク体を得やすい [2][4]。
焼結条件は、得られる相と組織を大きく左右する。Liu らは MoNbTaW を SPS で緻密化し、焼結温度に応じて相や粒径、硬さが変わることを示した。Zhu らは TiZrNbMoTa について、メカニカルアロイングと SPS を組み合わせ、bcc 固溶体を主体とする緻密なバルク体を作製している。一方で、メカニカルアロイングで得た単相の bcc 固溶体が、SPS の加熱中に第二相を析出することもある。Long らの NbMoTaWVTi では、ボールミル後の bcc 母相の中に、SPS 後に別の相が現れる現象が報告されている [1][2][3]。
相と組織を作り込む
難融系高エントロピー合金で目指すのは、多くの場合、単相の bcc 固溶体である。これが超高温での強度保持を支えると考えられているからだ。だが、Cantor 系のような fcc 高エントロピー合金と同様に、配置エントロピーだけで相が完全に決まるわけではない。
混合エンタルピー、原子半径の差、各元素の結晶構造の好み——複数の因子が組み合わさって、最終的な相が決まる。難融系では、構成元素の組み合わせによって、bcc 単相のまま安定する場合もあれば、加熱中に金属間化合物や別の固溶体が析出する場合もある [1][3]。
ここでも SPS の「比較的低温・短時間」という性質が効く。高温に長くさらさないことで、メカニカルアロイングで得た固溶体をできるだけそのままバルク体へ持ち込み、不要な相析出を抑える方向に働く。焼結温度や保持時間を作り込むことが、狙う相と微細組織を得るための設計変数になる [2][4]。
極限の温度へ、粉末から
耐熱高エントロピー合金は、難融金属の高い融点を逆手に取り、より高い温度に耐える合金を作ろうとする試みだ。その魅力の裏には、「溶けにくいものは、作りにくい」という根本的な難しさがある。
メカニカルアロイングと SPS の組み合わせは、この難しさに固相の側から挑む。ボールミルが室温で難融金属を原子レベルまで混ぜて bcc 固溶体粉末を作り、SPS がその高融点粉末を効率よく緻密化して単相のバルク体に固める——溶解法では均一化が難しい組成にも、この二段構えなら手が届く。エントロピー、エンタルピー、そして焼結条件。三者のせめぎ合いを設計しきった先に、ニッケル基超合金の限界を超える耐熱材料が見えてくる。SPS は、その探索を支える緻密化技術として、難融系高エントロピー合金の研究を後押ししている。
本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 耐熱高エントロピー合金(難融系)とは何か。
- 高エントロピー合金のうち、ニオブ・モリブデン・タンタル・タングステン・バナジウムといった融点の高い難融金属を主体に等量近く混ぜた合金群を指す。代表組成のNbMoTaWは、体心立方(bcc)の単相固溶体を作り、超高温でも強度を保つことが期待される。ニッケルや鉄などを主体とする面心立方系の高エントロピー合金とは、構成元素も狙う温度域も異なる [1][2]。
- なぜ溶解・鋳造ではなく粉末経路を使うのか。
- タングステンは融点が3400℃前後、モリブデンも2600℃を超えるなど、難融金属は極めて高い温度でしか溶けない。融点が大きく異なる元素を溶かして均一に混ぜるのは難しく、偏析も起こりやすい。メカニカルアロイングは室温の固相反応で元素を原子レベルまで混ぜられるため、難融系の均一な固溶体粉末を作る経路として適する [1][3]。
- SPS は難融系HEAの緻密化にどう効くのか。
- 難融金属の粉末は融点が高く、従来の焼結では緻密化に非常に高い温度と長時間を要する。SPS はパルス通電と加圧で効率よく加熱・緻密化でき、比較的短時間で高密度のバルク体を得やすい。焼結温度によって相や粒径、硬さが変わるため、条件の作り込みで単相bcc固溶体と微細組織を狙える [2][3]。
参考文献
- [1] Long Y, Su K, Zhang J, Liang X, Peng H, Li X. Enhanced strength of a mechanical alloyed NbMoTaWVTi refractory high entropy alloy. Materials. 2018;11(5):669. DOI: 10.3390/ma11050669
- [2] Liu Y, Zhao Y, Zhang Q, Sheng J, Hu W. Microstructure and mechanical properties of MoNbTaW refractory high-entropy alloy prepared by spark plasma sintering. J Mater Res. 2022;37:3652-3663. DOI: 10.1557/s43578-022-00833-6
- [3] Zhu C, Li Z, Hong C, Dai P, Chen J. Microstructure and mechanical properties of the TiZrNbMoTa refractory high-entropy alloy produced by mechanical alloying and spark plasma sintering. Int J Refract Met Hard Mater. 2020;93:105357. DOI: 10.1016/j.ijrmhm.2020.105357
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2