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圧電セラミックス(PZT)の放電プラズマ焼結 — 鉛の揮発を抑え、微細な結晶で性能を引き出す

チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、電圧と変形を相互に変換する圧電セラミックスの代表格で、センサーやアクチュエーターを支えている。高温・長時間の焼結では鉛が揮発して組成がずれ、特性が落ちやすい。放電プラズマ焼結(SPS)は、低温・短時間で緻密化することで鉛の揮発を抑え、微細で均一な結晶組織から圧電性能を引き出す手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

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  • 圧電セラミックス
  • 強誘電体

電気と力を行き来する結晶

ボタンを押すと火花が飛ぶ着火装置、超音波で体内を映す診断装置、ナノメートル単位で位置を動かす精密ステージ——これらの心臓部には、電圧と変形を相互に変換する圧電セラミックスが入っている。電圧をかけると伸び縮みし、逆に力を加えると電圧を生む。この双方向の変換が、センサーとアクチュエーターの両方を支えている。

その代表が、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。PZTはペロブスカイト型の結晶構造を持つ強誘電体で、組成を調整すると圧電性が極大になる「相境界(モルフォトロピック相境界)」付近で、とりわけ大きな電気機械結合を示す。半世紀以上にわたり、圧電材料の主役であり続けてきた。

ただし、この高い性能を多結晶セラミックスとして安定に得るには、焼結の段階に固有の難所がある。

鉛が抜けるという問題

PZTの難所は、その名のとおり鉛にある。

PZTを緻密なセラミックスにするには、粉末を高温で焼き固める必要がある。常圧での焼結では1200°Cを超える温度と、相応の保持時間を要する。ところが、この高温・長時間の環境で、PZT中の酸化鉛(PbO)が蒸発しやすい。鉛が抜けると、ジルコニウムとチタンの比に対する鉛の量がずれ、目標とした組成から外れてしまう。

組成がずれると、何が起きるか。圧電性を最大化するはずの相境界からずれ、気孔や望ましくない異相が残る。結果として、圧電定数も絶縁性も低下する。鉛の揮発は、PZTの性能を直接むしばむ [3][4]。

従来、この問題には鉛雰囲気をつくって焼く——焼成容器の中に酸化鉛源を共存させ、雰囲気中の鉛分圧を高めて揮発を抑える——といった対策がとられてきた。だが、雰囲気管理は手間がかかり、揮発を完全には止められない。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速に昇温しながら一軸加圧する [1]。PZTにとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 低温・短時間で緻密化できる:加圧(数十MPa)が物質移動を助けるため、常圧焼結より低い温度で緻密体が得られる。焼結温度を下げ、保持時間を分単位に抑えることは、鉛が蒸発する「時間と温度の窓」を狭め、揮発を抑える方向に直接効く [3][4]。
  • 微細で均一な組織を残せる:急速昇温で目標温度に素早く到達し短く保持するため、結晶粒が粗大化しにくい。微細で均一な組織は、絶縁破壊を起こさずに高い電界をかけられ、ポーリング(分極処理)の効きをよくする [2][4]。
  • 緻密さと品質係数を両立しやすい:気孔が少なく粒界がそろった組織は、機械的な損失を抑える。これが機械的品質係数の向上として現れることがある。

Chengらは、PZTにマンガン系の添加物を加えた組成(PZT-PMnN)をSPSで作製し、常圧焼結体と比べて圧電定数と機械的品質係数が明確に高まることを示した [4]。Brzezińskaらは、ランタンやスズを含む鉛系強誘電体(PBZTS)をSPSで緻密化し、常法より高い密度と良好な強誘電・圧電特性が得られることを報告している [3]。これらは、SPSがPZT系の組成保持と組織制御に有効に働く例といえる。

焼結のあとに待つ「ポーリング」

ただし、注意したいのは、緻密な焼結体ができただけでは圧電セラミックスは働かないという点だ。

焼き上がった直後のPZTは、結晶内の分極(自発分極)の向きがてんでばらばらで、全体としては圧電性を打ち消し合っている。ここに高い電界をかけ、分極の向きを一方向にそろえる処理——ポーリング——を施して初めて、巨視的な圧電性が現れる。

緻密で微細な組織は、このポーリングを助ける。気孔や粗大粒が少ないほど、絶縁破壊を起こさずに高い電界をかけられ、分極を十分にそろえられるからだ。SPSで得た良質な組織は、後段のポーリングと噛み合うことで性能に結びつく。焼結は出発点であって終着点ではない。

量産の主役と、開発の速い道具

実用のPZT部品の多くは、テープキャストや粉末成形と常圧焼結を組み合わせた、形状自由度の高い量産プロセスで作られている。SPSは円盤やブロック状の緻密体を作るのに向く一方、複雑形状の大量生産そのものには形状的な制約がある。

それでも、SPSは「組成と組織を素早く作り込める材料開発の道具」として価値を持つ。新しい組成の探索、鉛揮発の抑制効果の検証、微細組織と圧電特性の関係を回す試作——こうした開発フェーズで、緻密化条件と特性の対応を短いサイクルで確かめられる。Tokitaは、SPSの装置・プロセスの進展と機能性セラミックスへの応用を総説で整理しており、強誘電・圧電材料もその対象に含まれる [5]。

微細な結晶に、性能を宿す

圧電セラミックスの性能は、組成が相境界をどれだけ正確にとらえているか、そして組織がどれだけ緻密で均一かで決まる。鉛を含むPZTでは、焼結中の揮発をいかに抑えて組成を守るかが、その出発点を左右する。

SPSは、低温・短時間焼結によって鉛の揮発を抑えつつ、微細で緻密な組織を作り込む手段として研究されてきた。組成設計、焼結、そしてポーリング——この三つが噛み合ったとき、PZTは電気と力を高い効率で行き来させる。微細な結晶のひとつひとつに性能を宿らせること。それが圧電セラミックスの焼結に課された問いである。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

PZTで鉛の揮発がなぜ問題になるのか。
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)は鉛を主成分に含む。常圧焼結では1200°C超の高温と長時間を要し、その間に酸化鉛が蒸発しやすい。鉛が抜けると目標組成からずれ、気孔や異相が残って、圧電性能と絶縁性が低下する。これを防ぐため、従来は鉛雰囲気をつくって焼く工夫がなされてきた。SPSは焼結温度を下げ保持を短くすることで、揮発そのものを抑える方向に働く [3][4]。
SPSでPZTを焼結すると組織や特性はどう変わるのか。
SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で、低温・短時間で緻密化できる。その結果、結晶粒が粗大化しにくく、微細で均一な組織が得られやすい。微細で緻密な組織は、より高い電界をかけて分極させやすく、機械的品質係数の向上にもつながる。公開研究では、SPSで作製したPZT系で圧電定数や品質係数が常圧焼結体より高まった例が報告されている [4]。値は組成と条件に依存する。
圧電性能は焼結だけで決まるのか。
焼結で得られる緻密さと組織は土台だが、圧電セラミックスは焼結後に高電界をかけて分極方向をそろえる「ポーリング」を経て初めて実用的な圧電性を示す。緻密で微細な組織はポーリングの効きをよくし、絶縁破壊を起こしにくくする。つまり焼結は、その後のポーリングと組み合わさって性能を決める。組成設計・焼結・ポーリングの三つが噛み合って初めて、PZTは高い性能を発揮する。

参考文献

  1. [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  2. [2] Chaim R. Densification mechanisms in spark plasma sintering of nanocrystalline ceramics. Mater Sci Eng A. 2007;443(1-2):25-32. DOI: 10.1016/j.msea.2006.07.092
  3. [3] Brzezińska D, Bochenek D, Niemiec P, Dercz G. Properties of PBZTS Ferroelectric Ceramics Obtained Using Spark Plasma Sintering. Materials. 2023;16(17):5756. DOI: 10.3390/ma16175756
  4. [4] Cheng LQ, Xu Z, Zhao C, Thong HC, Cen ZY, Lu W, Lan Y, Wang K. Significantly improved piezoelectric performance of PZT-PMnN ceramics prepared by spark plasma sintering. RSC Adv. 2018;8(63):36046-36054. DOI: 10.1039/c8ra06421k
  5. [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014