酸化チタン(TiO₂)光触媒の放電プラズマ焼結 — 緻密化と光触媒活性のジレンマに挑む
酸化チタン(TiO₂)は、光を当てると有機物を分解する光触媒の代表材料で、水浄化や環境浄化に使われている。光触媒は表面積が広いほど有利だが、焼結で緻密に固めると表面積が減り活性が落ちやすい。放電プラズマ焼結(SPS)は、この相反を踏まえつつ、相状態や欠陥、複合化を制御して扱いやすい固体光触媒を作る手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- TiO2
- 光触媒
- アナターゼ
光で汚れを分解する結晶
窓ガラスに塗ると雨で汚れが流れ落ちる、空気中の有害物質を分解する、水中の有機汚染物質を無害化する——これらの機能の裏には、光を当てると有機物を分解する光触媒がある。その代表が、酸化チタン(TiO₂)である。
TiO₂が光触媒として働く機序は、半導体としての性質に由来する。TiO₂に紫外線を当てると、その光のエネルギーが電子を励起し、結晶内に電子と正孔(電子が抜けた穴)の対が生まれる。これらが結晶の表面まで移動し、水や酸素と反応して、ヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドといった活性酸素種をつくる。活性酸素種は強い酸化力を持ち、表面に触れた有機物を分解していく。
TiO₂には、アナターゼ・ルチル・ブルッカイトという複数の結晶相がある。一般には、アナターゼ、あるいはアナターゼとルチルの混相が高い活性を示すことが多いと報告されている。電子と正孔がどれだけ再結合せずに表面へ届くか、表面でどれだけ反応するか——相状態は、これらに影響する [3][4]。
緻密化と活性の、引き裂かれた要求
光触媒をセラミックスの焼結で扱うとき、避けて通れないジレンマがある。
光触媒の反応は、すべて表面で起きる。だから、単位重量あたりの表面積(比表面積)が広いほど、反応の場が多くなり有利になる。理想を言えば、ナノ粒子の粉末のまま使うのが活性には最も良い。
ところが、粉末のまま使うことには実用上の難しさがある。水処理に使った微粉末を水中から回収するのは難しく、繰り返し使うのも容易でない。微粒子が流出すれば、それ自体が新たな問題になる。だから、扱いやすい固体の形に成形したいという要求が生まれる。
ここで焼結が登場する。だが、粉末を緻密に焼き固めると、粒どうしがくっついて表面積が大きく減り、反応の場が失われてしまう。緻密化すれば扱いやすくなるが活性が落ち、活性を保とうとすれば緻密化できない——光触媒の焼結は、この引き裂かれた要求の真ん中にある [4]。
SPSが効く理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速に昇温しながら一軸加圧する [1]。光触媒TiO₂にとって、この手法は次の点で意味を持つ。
- 低温・短時間で処理できる:急速昇温と短い保持により、過度な粒成長と表面積の喪失を抑えながら成形・処理できる [2]。完全緻密化を狙わず、多孔質構造をあえて残す制御も可能になる。
- 相と欠陥を制御できる:急速加熱や、黒鉛ダイスに由来する還元的な雰囲気を利用して、アナターゼとルチルの比や酸素欠損などの欠陥を制御できる。酸素欠損はバンドギャップ内に準位をつくり、可視光まで吸収を広げる効果が期待される。Yangらは、市販のTiO₂をSPS的な急速処理にかけ、可視光応答と光触媒活性を高めた自己ドープTiO₂を報告している [3]。
- 複合化を組み込める:TiO₂とグラフェンなどの導電性材料を複合化すると、生じた電子を逃がして電子と正孔の再結合を抑え、活性を助けられる。Zhangらは、SPSで作製したTiO₂–グラフェンナノプレートレット複合体の光触媒活性を報告している [4]。
これらは、緻密化と活性のジレンマを、相・欠陥・複合化という別の自由度で和らげようとする試みといえる。
「使える形」にして光触媒を活かす
光触媒材料の研究は、しばしば「いかに高い活性のナノ粒子を作るか」に向かう。だが、それを実社会で使うには、回収でき、繰り返し使え、流出しない「使える形」にする工程が欠かせない。緻密化と活性のジレンマは、まさにこの実用化の関門にある。
SPSは、低温・短時間という特性を活かして、過度な表面積喪失を抑えつつ固体に成形し、相状態や欠陥、複合化を作り込む手段として検討されてきた。Tokitaが総説で整理するように、SPSは機能性セラミックスの開発を加速する道具であり、環境浄化材料もその応用先の一つである [5]。光を当てて汚れを分解する力を、扱いやすい形に宿らせること——TiO₂光触媒の焼結は、活性と実用性のあいだで最適点を探す材料工学である。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- TiO₂はなぜ光触媒として働くのか。
- TiO₂は紫外線を吸収すると、結晶内で電子と正孔(電子の抜け穴)の対が生まれる。これらが表面まで移動し、水や酸素と反応して活性酸素種をつくる。活性酸素種が有機物を酸化分解し、汚れや有害物質を無害化する。これが光触媒作用の機序である。結晶相にはアナターゼ・ルチル・ブルッカイトがあり、一般にアナターゼやアナターゼとルチルの混相が高い活性を示すことが多いと報告されている [3][4]。
- 光触媒を焼結で固めると、なぜ活性が落ちやすいのか。
- 光触媒の反応はすべて表面で起きるため、比表面積(単位重量あたりの表面積)が広いほど有利になる。ところが焼結で粉末を緻密に固めると、粒どうしがくっついて表面積が大きく減り、反応の場が失われる。これが緻密化と光触媒活性のジレンマである。粉末のまま使えば活性は高いが、水中での回収や繰り返し利用が難しい。固体に成形しつつ活性をどう保つかが課題となる [4]。
- SPSで光触媒を扱う意義は何か。
- SPSは低温・短時間で処理できるため、過度な粒成長と表面積の喪失を抑えつつ成形・処理できる。また急速加熱と還元的な雰囲気を利用して、相状態や酸素欠損などの欠陥を制御し、可視光まで吸収を広げる試みや、グラフェンなどとの複合化で電荷分離を助ける試みが報告されている。回収しやすい固体形態と、ある程度の活性を両立する手段として検討されている [3][4]。
参考文献
- [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [2] Chaim R. Densification mechanisms in spark plasma sintering of nanocrystalline ceramics. Mater Sci Eng A. 2007;443(1-2):25-32. DOI: 10.1016/j.msea.2006.07.092
- [3] Yang Y, Zhang T, Le L, Ruan X, Fang P, Pan C, Xiong R, Shi J, Wei J. Quick and Facile Preparation of Visible Light-Driven TiO2 Photocatalyst with High Absorption and Photocatalytic Activity. Sci Rep. 2014;4:7045. DOI: 10.1038/srep07045
- [4] Zhang C, Chaudhary U, Lahiri D, Godavarty A, Agarwal A. Photocatalytic activity of spark plasma sintered TiO2–graphene nanoplatelet composite. Scripta Mater. 2013;68(9):719-722. DOI: 10.1016/j.scriptamat.2013.01.012
- [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014