テルル化鉛(PbTe)熱電材料の放電プラズマ焼結 — 中温域の排熱と電子構造の作り込み
テルル化鉛(PbTe)系は、およそ300〜600°Cの中温域で高い性能を示す熱電材料である。タリウム添加による共鳴準位やナトリウム添加によるバンド収束で電子構造を作り込み、ナノ構造化で熱伝導を下げる手法が公開研究で確立されてきた。放電プラズマ焼結(SPS)は、微細粒を粗大化させずに緻密化し、これらの組織を残す手段として位置付けられている。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 熱電材料
- PbTe
- 共鳴準位
中温という、最も捨てられている熱
捨てられる熱には温度の分布がある。なかでも量が多いのが、自動車の排ガスや工業炉の煙道に流れる、およそ300〜600°Cの中温排熱である。この帯を電気に変えるとき、長く主役を担ってきたのがテルル化鉛(PbTe)系だ。
PbTeは、岩塩型の単純な結晶構造を持つ半導体である。ナトリウムやタリウムを入れればp型に、ヨウ素やアンチモンを入れればn型に調整でき、添加元素の選び方で電子の振る舞いを大きく動かせる。この素直さが、電子構造を細かく作り込む熱電研究の舞台になってきた [1][2]。
熱電性能は、無次元性能指数 ZT = S²σT/κ で測られる。ゼーベック係数 S、電気伝導率 σ、熱伝導率 κ が互いに連動するなかで、いかにこれらを望ましい方向へ同時に動かすか——PbTeでは、その答えが「電子構造の設計」と「フォノンの散乱」の二本立てで描かれてきた。
共鳴準位 — 状態密度をゆがめる
ゼーベック係数 S は、フェルミ準位近傍で電子の状態密度がどれだけ急に変化するかに強く効く。ここを鋭く立ち上げられれば、同じキャリア濃度でも S が大きくなる。
タリウムをPbTeに添加すると、不純物の準位がバンドギャップの外ではなく価電子帯の内側に重なって現れる。これが共鳴準位である。フェルミ準位近傍の状態密度が局所的に盛り上がり、S が押し上げられる。Heremansらは、この電子状態密度のゆがみを使ってp型PbTeのゼーベック係数とZTを高めたと報告した [1]。電子構造そのものを設計対象にする、という発想の代表例である。
もう一つの道が、バンド収束である。PbTeの価電子帯は複数の谷(バレー)を持ち、温度や組成でその相対位置が動く。複数の谷がエネルギー的にそろうと、電気を運ぶ有効な経路が増え、σ を保ったまま S を稼げる。Peiらは、PbTeでこのバンド収束を組成制御によって引き出し、高いZTにつなげている [2]。
ナノ構造 — 熱だけを堰き止める
電子構造の作り込みが S と σ を扱うのに対し、κ を下げる主役はナノ構造化である。結晶を微細にして粒界を増やすと、熱を運ぶ格子振動(フォノン)が粒界で散乱され、格子熱伝導が下がる。電子はフォノンより波長が短く、粒界での散乱を相対的に受けにくいため、σ をあまり落とさずに κ だけを削れる。
問題は、この微細組織を保ったまま緻密な固体に成形することだ。普通の焼結は高温・長時間で粒を粗大化させ、せっかくの粒界を消してしまう。PbTeはさらに、揮発しやすいテルルを含むため、高温に長くさらすほど組成がずれやすい。
SPSが効く理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [5]。PbTeにとって、この手法は次の点で都合がよい。
- ナノ構造を保てる:毎分100°Cを超える昇温と数分の保持で緻密化を済ませられるため、粒成長を抑え、フォノン散乱に効く微細な粒界を残せる。Kuoらは、PbTe原料をアトリションミルでナノ粉にし、SPSで95%超の相対密度かつ80 nm〜1 μmの微細粒に固めたp型バルクを報告している [3]。
- 比較的低温・短時間で固められる:テルルの揮発による組成ずれを抑えやすく、ゼーベック係数の最適点を保ちやすい。
- 添加元素の分布を整えやすい:Leeらは、ホットプレスとSPSでナトリウム添加PbTeを比較し、焼結法による粒成長挙動の違いと熱電特性への影響を調べている。粒径の制御が性能のばらつきに直結することを示した [4]。
これらは、電子構造を設計した材料を「組織を崩さずに固体化する」という、共通の要請に応える働きである。
設計と凍結を束ねる
PbTe熱電材料の研究は、二つの作業を重ねてきた。一つは、共鳴準位やバンド収束で電子の状態密度を望ましい形にする「設計」。もう一つは、ナノの粒界で熱だけを散らす「組織」。SPSは、この設計された電子構造とナノ組織を、粒成長させずに固体へ写し取る手段として位置付けられる。
状態密度をゆがめ、バンドをそろえ、粒界でフォノンを堰き止め、揮発を抑えて固める——中温域の排熱回収は、電子構造の物理とプロセス設計が、ZTという一点で結びつく領域であり続けている。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- PbTeはどの温度域で使われる熱電材料なのか。
- PbTe系は、室温帯のビスマステルルと高温帯のシリコンゲルマニウムのあいだ、およそ300〜600°Cの中温域を担う代表材料である。自動車排ガスや工業炉の中温排熱がこの帯に当たる。岩塩型の単純な結晶構造を持ち、ナトリウムやヨウ素などの添加でp型・n型のいずれにも調整しやすく、電子構造の作り込みによって高いZTが得られる点が特徴である [1][2]。
- 「共鳴準位」とは何を指すのか。
- 通常、半導体に不純物を入れると、そのエネルギー準位はバンドの外側(バンドギャップの中)に現れる。ところがタリウムをPbTeに添加すると、その準位が価電子帯の中に重なって現れる。これが共鳴準位である。フェルミ準位近傍の状態密度が局所的に盛り上がり、ゼーベック係数が増す。Heremansらは、この電子状態密度のゆがみによってPbTeのZTを高めたと報告した [1]。
- SPSがPbTeの作製で果たす役割は何か。
- PbTeの性能向上は、ナノ構造化による熱伝導の低減と、急冷組織や添加元素分布の保持にかかっている。SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で短時間に緻密化できるため、粒成長を抑えてフォノン散乱に効く粒界を残せる。テルルを含み揮発しやすい材料を、比較的低温・短時間で固められる点も、組成のずれを抑えるうえで都合がよい [3][5]。
参考文献
- [1] Heremans JP, Jovovic V, Toberer ES, Saramat A, Kurosaki K, Charoenphakdee A, Yamanaka S, Snyder GJ. Enhancement of thermoelectric efficiency in PbTe by distortion of the electronic density of states. Science. 2008;321(5888):554-557. DOI: 10.1126/science.1159725
- [2] Pei Y, Shi X, LaLonde A, Wang H, Chen L, Snyder GJ. Convergence of electronic bands for high performance bulk thermoelectrics. Nature. 2011;473(7345):66-69. DOI: 10.1038/nature09996
- [3] Kuo CH, Jeng MS, Ku JR, Wu SK, Chou YW, Hwang CS. p-Type PbTe Thermoelectric Bulk Materials with Nanograins Fabricated by Attrition Milling and Spark Plasma Sintering. J Electron Mater. 2009;38(9):1956-1961. DOI: 10.1007/s11664-009-0677-7
- [4] Lee MH, Park JH, Park SD, Rhyee JS, Oh MW. Grain growth mechanism and thermoelectric properties of hot press and spark plasma sintered Na-doped PbTe. J Alloys Compd. 2019;786:515-522. DOI: 10.1016/j.jallcom.2019.01.387
- [5] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2