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酸化物熱電材料の放電プラズマ焼結 — 大気中の高温で壊れない発電材料

酸化物熱電材料(Ca₃Co₄O₉系コバルト酸化物、Al添加ZnO など)は、大気中の高温でも酸化・分解せず安定に働く点が最大の利点である。テルルや鉛を含まず、高温排熱回収に向く。放電プラズマ焼結(SPS)は、層状コバルト酸化物の結晶を配向させ、ZnO系では微細組織を残して熱伝導を下げる手段として公開研究で位置付けられている。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 熱電材料
  • 酸化物
  • Ca3Co4O9

大気と高温に、同時に耐える

高温の排熱は、たいてい高温の空気とともにある。工業炉の煙道、焼却炉の排気、ガスタービンの後流——そこに流れるのは数百°Cの熱い空気だ。この現場に熱電材料を置こうとすると、ほとんどの高性能材料がつまずく。テルル化物やシリサイドは、高温の空気にさらされると酸化し、分解し、性能を失う。守ろうとすれば封止が要り、構造は複雑になる。

酸化物熱電材料は、この問題を素材の側で解いている。もとから酸素と結びついた化合物であるため、これ以上は酸化されにくい。数百°C以上の大気中でも、裸のまま安定に働く。テルルや鉛を含まず毒性も低い。性能指数ZTでは金属系の最高峰に届かなくても、「高温の空気の中で壊れずに働き続ける」という一点で、ほかにない立ち位置を占める [1][4]。

熱電性能は、無次元性能指数 ZT = S²σT/κ で測られる。酸化物では、この数字を稼ぐ主役が二つの系に分かれる——配向で電気を引き出す層状コバルト酸化物と、ナノ構造で熱を下げるZnO系である。

層状コバルト酸化物 — 結晶をそろえる

p型酸化物の代表が、Ca₃Co₄O₉に代表される層状コバルト酸化物である。その結晶は、電気伝導を担うCoO₂層と、それを挟む岩塩型の層が交互に積み重なった、ミスフィット層状構造をとる。

この構造は、強い方向依存(異方性)を生む。電気伝導もゼーベック係数も、層に沿う方向で優れ、層を横切る方向では劣る。したがって多結晶で性能を引き出すには、結晶を層に沿う向きにそろえる配向(テクスチャ化)が要る。板状に成長する結晶を一方向に並べられれば、性能の良い面を電流方向にそろえられる。

ここで一軸加圧を伴う焼結が効く。圧力に対して板状粒子が寝るように並び、配向が進む。Zhangらは、SPSで高度に配向したCa₃Co₄O₉セラミックスを作製し、その組織を報告した [1]。Noudemらは、SPSの加圧機構を工夫してより強い配向(ラメラ・テクスチャ)を作る手法を開発し、配向と熱電特性の向上を示している [3][5]。

ZnO系 — ナノ構造で熱を下げる

n型酸化物の代表が、酸化亜鉛(ZnO)系である。ZnOは電気をよく通すが、もともとの熱伝導率が高く、これがZTを抑える。下げる手が、ナノ構造化である。

結晶を微細化して粒界を増やし、さらにナノサイズの析出物を散らすと、熱を運ぶ格子振動(フォノン)が界面で散乱され、熱伝導率 κ が下がる。アルミニウムを添加してキャリア濃度を整えつつ、組織をナノ化することで、電気伝導をあまり犠牲にせずに κ を削れる。Joodらは、Al添加ZnOのナノコンポジットで、ナノ構造化により熱伝導を抑え、高温域での性能を高めたと報告している [4]。

問題は、酸化物でもやはり、ナノ構造を保ったまま緻密に固めることだ。高温・長時間の焼結は粒を粗大化させ、せっかくの界面を消してしまう。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [2]。酸化物熱電材料にとって、この手法は二つの系それぞれに効く。

  • 層状系では配向を作り込める:一軸加圧下で板状粒子が並びやすく、Ca₃Co₄O₉のテクスチャ化に使える。Noudemらの一連の研究は、SPSを基盤に配向を強める工程を示している [3][5]。
  • ZnO系では微細組織を残せる:急速昇温と短時間保持で緻密化を済ませられるため、粒成長を抑え、フォノン散乱に効くナノ組織を保てる [4]。
  • 緻密化と組織制御を短時間で両立:酸化物は緻密化に高温を要することが多いが、SPSは短時間で高密度に固められ、配向やナノ構造を損ないにくい [1]。

高温の空気の中で働き続ける

酸化物熱電材料が目指すのは、最高ZTの更新ではなく、過酷な高温大気の現場で長く働く堅牢さである。封止なしで酸化に耐え、毒性の懸念が小さく、ありふれた元素でできている——この安定性そのものが、ほかの系には置き換えにくい価値になる。

層状の結晶を一方向にそろえ、ZnOの粒界でフォノンを散らす。SPSは、配向とナノ構造という二つの作り込みを、緻密化と同時に短時間で実現する手段として、酸化物熱電材料の研究を支えている。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

酸化物熱電材料が他の系より優れている点は何か。
高温の大気中での安定性である。テルル化物やシリサイドは、高温の空気にさらされると酸化したり分解したりして性能を失いやすい。酸化物はもともと酸素と結びついた化合物であるため、これ以上は酸化されにくく、数百°C以上の大気中でも安定に働く。封止が要らず、毒性も低い。工業炉や焼却炉のように高温の空気が流れる現場での排熱回収に向く [1][4]。
Ca₃Co₄O₉のような層状コバルト酸化物で配向が重要なのはなぜか。
Ca₃Co₄O₉は、伝導を担うCoO₂層と、それを挟む岩塩型の層が交互に積み重なる層状構造を持つ。電気伝導もゼーベック係数も、この層に沿う方向で優れる。多結晶でも結晶を層に沿う向きにそろえる(配向・テクスチャ化する)ことで、性能の良い方向の電気を引き出せる。一軸加圧を伴う焼結は、この配向制御に有利に働く [1][3]。
SPSが酸化物熱電材料の作製で果たす役割は何か。
層状コバルト酸化物では、一軸加圧下で板状の結晶が圧力に対して並びやすく、SPSが配向の作り込みに使われる。ZnO系では、急速昇温で粒成長を抑えてナノ構造を残し、フォノン散乱で熱伝導を下げるのに役立つ。緻密化と組織制御を短時間で両立できる点が、いずれの系でも利点とされる [3][5]。

参考文献

  1. [1] Zhang Y, Zhang J, Lu Q. Synthesis of highly textured Ca3Co4O9 ceramics by spark plasma sintering. Ceram Int. 2007;33(7):1305-1308. DOI: 10.1016/j.ceramint.2006.04.011
  2. [2] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  3. [3] Noudem JG, Kenfaui D, Chateigner D, Gomina M. A new process for lamellar texturing of thermoelectric Ca3Co4O9 oxides by spark plasma sintering. J Eur Ceram Soc. 2009;29(12):2659-2663. DOI: 10.1016/j.jeurceramsoc.2009.02.002
  4. [4] Jood P, Mehta RJ, Zhang Y, Peleckis G, Wang X, Siegel RW, Borca-Tasciuc T, Dou SX, Ramanath G. Al-Doped Zinc Oxide Nanocomposites with Enhanced Thermoelectric Properties. Nano Lett. 2011;11(10):4337-4342. DOI: 10.1021/nl202439h
  5. [5] Noudem JG, Kenfaui D, Chateigner D, Gomina M. Toward the enhancement of thermoelectric properties of lamellar Ca3Co4O9 by edge-free spark plasma texturing. Scr Mater. 2012;66(5):258-260. DOI: 10.1016/j.scriptamat.2011.11.004