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マルチフェロイック・セラミックスのSPS — 磁気と電気を一体に固める

磁気と電気の秩序を一つの材料に共存させるマルチフェロイック。磁場で電気分極を、電場で磁化を操れる可能性が注目される。だが代表物質BiFeO3は緻密化が難しく、複合体は界面が命だ。放電プラズマ焼結(SPS)が、漏れ電流の抑制や層構造の作り込みにどう効くかを機構ベースで整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • マルチフェロイック
  • 磁気電気効果
  • BiFeO3

磁石でもあり、電気の素子でもある材料

ふつう、磁石と電気的な素子は別物だ。磁石は磁場をまとい、コンデンサーは電気の分極をためる。この二つの性質を、一つの材料の中に同時にもたせる——それがマルチフェロイック(多重強性体)と呼ばれる物質群だ。

なぜそんな材料が欲しいのか。両方の秩序が共存し、しかも互いに結びついていれば、磁場をかけて電気分極を変えたり、逆に電場をかけて磁化を変えたりできるかもしれない。この相互作用を磁気電気効果と呼ぶ。実現すれば、消費電力の小さいメモリーや、磁場を電気信号で読む高感度センサーなど、新しい素子への道が開ける。代表的な単一相のマルチフェロイックが、ビスマスフェライト(BiFeO₃)である [1]。

ただし、夢のある材料ほど、作るのが難しい。マルチフェロイックの製造には、ふつうの焼結ではなかなか越えられない壁がいくつもある。放電プラズマ焼結(SPS)が注目されるのは、その壁のいくつかを、機構のうえで合理的に越えられるからだ。

BiFeO₃の難しさ — ビスマスが抜け、漏れ電流が出る

単一相マルチフェロイックの代表BiFeO₃は、作るのが難しい材料の典型である。

問題は二つある。一つは、構成元素のビスマスが揮発しやすいこと。従来の焼結では、緻密化のために高温で長時間保持するが、そのあいだにビスマスが抜けてしまい、組成がずれる。もう一つは、鉄の価数が変わりやすいこと。鉄が本来の状態から変化すると、結晶に欠陥が生まれ、電気を漏らす経路(漏れ電流)ができる。漏れ電流が大きいと、せっかくの強誘電性——電場で操れるはずの電気分極——が測定できなくなる。さらに、製造中に目的外の不純物相が混じることも、特性を損なう。

ここでSPSの「短時間・低温で緻密化できる」性質が効いてくる。高温に長くさらす時間を短く切り詰められれば、ビスマスの揮発も、鉄の価数変化も、不純物相の生成も抑えやすい。Songらは、従来焼結とSPSで作ったBiFeO₃を直接比較し、誘電・強誘電・磁気の各特性において、SPSが緻密化と特性の両立に有利に働きうることを示した [1]。「速く固めて、悪さをする時間を与えない」——これがBiFeO₃に対するSPSの基本的な効きどころである。

複合型という、もう一つの道

単一相のBiFeO₃が難しいなら、別のアプローチもある。磁気を担う材料と電気を担う材料を組み合わせる、複合型マルチフェロイックだ。

考え方はこうだ。磁気が得意な相(例えばコバルトフェライト CoFe₂O₄)と、電気が得意な相(例えばチタン酸バリウム BaTiO₃や、ジルコン酸チタン酸鉛 PZT)を、一つの材料の中で密着させる。磁場をかけると磁性相がわずかに変形(磁歪)し、そのひずみが界面を通じて電気相に伝わり、電気分極を生む。逆も同様だ。つまり、二つの相をつなぐ界面が、効果の生命線になる。

ここでSPSの利点が、単一相とは別の形で現れる。複合体を従来法で長時間焼くと、二つの相が界面で混ざり合い(相互拡散)、本来の性質が薄れたり、望まない反応生成物ができたりする。SPSは短時間で固められるため、この相互拡散を抑えつつ、緻密で素性のよい界面を作り込める。Pengらは、CoFe₂O₄とPZTを組み合わせた粒子分散型の複合セラミックスをSPSで作製し、磁気電気効果を報告した [3]。Bochenekも、仮焼(calcination)とSPSを組み合わせる工程によって、温度や保持時間がマルチフェロイック複合体の出来栄えをどう左右するかを系統的に調べている [4]。

層に積む — 界面を設計する

複合型の界面設計を、もう一歩推し進めたのが積層構造だ。粒子をランダムに混ぜるのではなく、磁性相と電気相を層として交互に積む

層構造には利点がある。界面の向きや面積を設計しやすく、磁性相のひずみを電気相へ効率よく伝えられる。また、漏れ電流の経路を断ちやすく、電気を担う層に高い電圧をかけやすい。Liuらは、チタン酸バリウムとコバルトフェライトを「BaTiO₃/CoFe₂O₄/BaTiO₃」のサンドイッチ状に積んだ積層複合体をSPSで作製し、その磁気電気的なふるまいを報告した [2]。

ここでもSPSの短時間焼結が効く。層と層の界面で相互拡散が進みすぎると、せっかく分けた層の境目がぼやけ、設計どおりの界面が得られない。SPSなら、界面を保ったまま各層を緻密に固められる。マルチフェロイックの性能が界面に宿るものである以上、「界面をきれいに保って固められる」というSPSの性質は、層構造の設計と相性がよい。

速く固めることが、機能を守る

マルチフェロイック・セラミックスにおけるSPSの役割を整理すると、貫く論理は一つだ。この材料の機能は、製造中の余計な時間によって損なわれやすい。だから、速く固めて機能を守る。

単一相のBiFeO₃では、長時間の高温がビスマスの揮発と漏れ電流を招く。複合体や積層体では、長時間の高温が界面の相互拡散を招き、磁気電気効果の源である界面を鈍らせる。いずれも、敵は「高温にさらされる時間」である。SPSの短時間・低温緻密化は、その時間を切り詰めることで、緻密さと機能を同時に確保する手段になる [1][2][3][4]。

Tokitaの総説が示すように、SPSはセラミックス全般で「速く・低く固める」ことの価値を確立してきた [5]。マルチフェロイックは、その価値がとりわけ鮮明に表れる材料群だといえる。磁気と電気という二つの秩序を、欠陥や界面の乱れに邪魔されずに一つの固体へ封じ込める——その繊細な作業を、SPSは「時間との戦い」として支えている。磁場で電気を、電場で磁気を操る素子へ向けて、材料を固める段階での工夫が、最終的な性能を左右している。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

マルチフェロイック材料とは何か。
強誘電性(電場で操れる電気分極)と強磁性などの磁気秩序を、同一の材料の中に共存させた物質を指す。両者が結びつくと、磁場で電気分極を変えたり、電場で磁化を変えたりできる磁気電気効果が現れる可能性があり、センサーやメモリーへの応用が研究されている。代表的な単一相物質がビスマスフェライト(BiFeO₃)である [1]。
なぜマルチフェロイックの製造にSPSが使われるのか。
BiFeO₃は、従来の長時間焼成では揮発しやすいビスマスが抜けたり、鉄の価数が変わって漏れ電流を生む欠陥や不純物相ができやすい。SPSは短時間・低温で緻密化できるため、こうした副反応や望ましくない相の生成を抑えつつ密度を高めやすい。Songらは、従来焼結とSPSで作ったBiFeO₃の誘電・強誘電・磁気特性を比較し、SPSの利点を報告した [1]。
複合型マルチフェロイックでSPSが効くのはなぜか。
磁気電気効果を強く出すには、磁気を担う相(例えばCoFe₂O₄)と電気を担う相(例えばBaTiO₃やPZT)を密着させ、両者の界面で力(ひずみ)を伝え合わせる必要がある。SPSは短時間で固められるため、二相が混ざりすぎる相互拡散を抑えつつ、緻密で良好な界面をもつ複合体や積層体を作りやすい。Liuらは積層複合体、Pengらは粒子分散型複合体をSPSで作製し、磁気電気特性を報告している [2][3]。

参考文献

  1. [1] Song G, Zhu W, Weng B, Mudinepalli VR. A comparative study of dielectric, ferroelectric and magnetic properties of BiFeO3 multiferroic ceramics synthesized by conventional and spark plasma sintering techniques. J Eur Ceram Soc. 2015;35(1):131-138. DOI: 10.1016/j.jeurceramsoc.2014.08.016
  2. [2] Liu G, Xu Y, Xie Q, Lv H, Huang Q, Chen Y, Tong B, Shi Z, Xiong R. Magnetoelectric behaviors in BaTiO3/CoFe2O4/BaTiO3 laminated ceramic composites prepared by spark plasma sintering. Ceram Int. 2018;44(7):8057-8062. DOI: 10.1016/j.ceramint.2018.02.192
  3. [3] Peng J, Hu M, Liu Z, Chen Y, Shi Z, Xiong R, Zhang J. Magnetoelectric effect of CoFe2O4/Pb(Zr,Ti)O3 composite ceramics sintered via spark plasma sintering technology. Ceram Int. 2015;41:S246-S250. DOI: 10.1016/j.ceramint.2015.01.088
  4. [4] Bochenek D. A combination of calcination and the spark plasma sintering method in multiferroic ceramic composite technology: effects of process temperature and dwell time. Materials. 2022;15(7):2524. DOI: 10.3390/ma15072524
  5. [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014