機械特性試験 — SPS焼結体の硬さと破壊靱性を測る
放電プラズマ焼結(SPS)でできた焼結体が実用に耐えるかは、硬さと破壊靱性という機械特性で測られる。硬さは圧子を押し込んで、靱性は亀裂の伸び方から評価するが、とくに圧子で靱性を求める方法には注意すべき前提がある。本稿は機械特性試験の機序と限界を、公開論文をもとに整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 機械特性
- 硬さ
- 破壊靱性
緻密になっただけでは終わらない
放電プラズマ焼結(SPS)で密度の高い塊ができても、それで評価は終わらない。問われるのは「使える材料か」だ。工具なら摩耗に耐える硬さが、構造部材なら割れに耐える靱性がいる。緻密化は手段であって、目的は実用に足る機械特性を出すことにある。
機械特性のなかでも、SPS焼結体でとくによく測られるのが硬さと破壊靱性だ。この二つは似て非なる性質で、硬い材料が必ずしも割れにくいわけではない。むしろ硬さと靱性は両立しにくく、しばしばトレードオフの関係にある。だからこそ両方を独立に測り、その兼ね合いを見ることに意味がある [5]。
まず、それぞれが何を測っているかを押さえておきたい。
硬さ — 押し込みへの抵抗
硬さは、材料が局所的な押し込みにどれだけ抵抗するかを表す量だ。代表的なビッカース硬さ試験では、四角錐のダイヤモンド圧子を一定の荷重で試料表面に押し込み、できた正方形のくぼみの対角線長を測る。荷重をくぼみの投影面積で割った値が硬さになる。
硬さは測定が比較的容易で、緻密化の質を映す鏡でもある。気孔が残っていたり、粗大な粒や弱い粒界があったりすると、くぼみのまわりが崩れて硬さは下がり、ばらつく。逆に緻密で均質な焼結体は、安定して高い硬さを示す。SPSでWC-Co(炭化タングステン-コバルト)超硬合金を焼結する研究などでは、硬さは緻密化と組織の健全さを確かめる基本指標として用いられる [5]。
ただし硬さは、材料が割れに耐えるかどうかは教えてくれない。硬くても脆ければ、ちょっとした亀裂で破壊する。そこで破壊靱性の評価が必要になる。
破壊靱性 — 亀裂の進みにくさ
破壊靱性は、材料中の亀裂がどれだけ進みにくいかを表す。値が大きいほど、亀裂が成長を始めるのに大きな力がいり、割れに強い。本来これは、あらかじめ鋭い切り欠きや予亀裂を入れた試験片に荷重をかけ、破壊力学に基づいて求めるべき量だ。これらの標準的な方法は信頼性が高い反面、試験片の準備に手間がかかる。
そこで、小さな試料でも手軽に靱性を見積もれる方法として、圧子(インデンテーション)を使うやり方が広まった。ビッカース圧子を押し込むと、くぼみの角から放射状に亀裂が伸びる。この亀裂の長さは、材料が脆いほど(靱性が低いほど)長くなる。Anstisらは、この亀裂長と荷重・硬さ・弾性率から破壊靱性を見積もる式を提示し、圧子法による靱性評価を広く普及させた [1]。
亀裂の形態は一通りではない。表面から深く潴り込むラジアル/メディアン亀裂のほかに、くぼみの角に浅く留まるパルムクビスト亀裂がある。Niiharaらは、亀裂と圧子の比が小さいパルムクビスト型の亀裂に適した式を示した [2]。どの式を使うべきかは亀裂の形態に依存し、ここを取り違えると値がずれる。
簡便さの裏にある不確かさ
圧子法の魅力は手軽さだ。研磨した小片一つあれば、硬さと靱性を同じ試験から得られる。SPSのように小ロットで条件を振りながら材料を探索する場面では、この簡便さが大きな利点になる。だが、その値をどこまで信じてよいかには、慎重さが要る。
QuinnとBradtは、ビッカース圧子による破壊靱性試験を批判的に検討し、この方法で得られる値が標準的な破壊力学試験の結果と必ずしも一致しないことを論じた [3]。亀裂長の測り方、使う換算式、材料の弾性・塑性挙動——これらの違いが値を左右し、研究室ごとに結果がばらつきうる。Cookは、空気中で測った圧子亀裂長について改めて精査し、亀裂長評価の信頼性を見直している [4]。
つまり圧子法による靱性は、「絶対値として鵜呑みにすべきでない」が「同じ手順で測れば相対比較には使える」という性格を持つ。Trindadeらは、SPSで焼結したWC-10%Co超硬合金について、パルムクビスト試験を改良して破壊靱性を評価する手法を検討しており、測定法の選択と工夫が値の信頼性を左右することを示している [5]。
何を測っているかを忘れない
SPS焼結体の機械特性試験は、硬さで「変形への抵抗」を、破壊靱性で「割れへの抵抗」を測る。二つは別の性質であり、両方をそろえて初めて材料の実力像が描ける。
そして靱性、とくに圧子法による靱性は、簡便さと引き換えに不確かさを抱える。亀裂の形態、換算式、測定環境——どれか一つの前提を取り違えれば、数字は意味を失う。何を測っているのか、その値がどんな仮定の上に立っているのかを忘れずに使うこと。それが、SPS焼結体の機械特性を正しく語るための前提なのである。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 硬さと破壊靱性は何が違うのか。
- 硬さは、材料が押し込みに対してどれだけ変形しにくいかを表す。圧子を一定荷重で押し込み、できたくぼみの大きさから求める。破壊靱性は、亀裂がどれだけ進みにくいか——割れに対する抵抗を表す。硬い材料が必ずしも割れにくいわけではなく、両者は別の性質だ。だからSPS焼結体では両方を測る必要がある [4][5]。
- ビッカース硬さはどう測るのか。
- 四角錐のダイヤモンド圧子を一定荷重で押し込み、できた正方形のくぼみの対角線長を測る。荷重をくぼみの面積で割った値が硬さだ。緻密で均質な焼結体ほど安定した値が得られる。気孔や粗大粒が多いとばらつくため、硬さは緻密化や組織の質を映す指標にもなる [5]。
- 圧子で破壊靱性を測る方法には何の注意が要るのか。
- ビッカース圧子のくぼみから伸びる亀裂の長さを使い、AnstisやNiiharaの式で靱性を見積もる方法は簡便だが前提に依存する。亀裂の形態(ラジアル/メディアンかパルムクビストか)や測定環境で値が変わり、標準的な破壊力学試験とずれることが指摘されている。簡便さと不確かさを理解して使う必要がある [1][2][3][4]。
参考文献
- [1] Anstis GR, Chantikul P, Lawn BR, Marshall DB. A Critical Evaluation of Indentation Techniques for Measuring Fracture Toughness: I, Direct Crack Measurements. J Am Ceram Soc. 1981;64(9):533-538. DOI: 10.1111/j.1151-2916.1981.tb10320.x
- [2] Niihara K, Morena R, Hasselman DPH. Evaluation of KIc of brittle solids by the indentation method with low crack-to-indent ratios. J Mater Sci Lett. 1982;1(1):13-16. DOI: 10.1007/BF00724706
- [3] Quinn GD, Bradt RC. On the Vickers Indentation Fracture Toughness Test. J Am Ceram Soc. 2007;90(3):673-680. DOI: 10.1111/j.1551-2916.2006.01482.x
- [4] Cook RF. A critical evaluation of indentation crack lengths in air. J Am Ceram Soc. 2020;103(4):2278-2295. DOI: 10.1111/jace.16925
- [5] Trindade DW, Guimarães RS, Lugon RD, Gonçalves Junior ER, dos Santos AAA, Filgueira M. Experimental Study to Assess Fracture Toughness in SPS Sintered WC-10% Co Hardmetal by Modifying the Palmqvist Test. Coatings. 2022;12(12):1809. DOI: 10.3390/coatings12121809