Sintering Frontier焼結フロンティア
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磁気冷凍材料の放電プラズマ焼結 — 気孔を消して、磁気エントロピー変化を引き出す

磁界をかけたり外したりすると温度が変わる磁気熱量効果は、フロンを使わない磁気冷凍の核となる現象だ。La(Fe,Si)13 系などの実用材料は脆く、冷凍機の熱交換部に使うには緻密で丈夫な塊に固める必要がある。放電プラズマ焼結(SPS)は気孔を減らして磁気エントロピー変化と熱伝導・強度を引き上げる手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 磁気冷凍材料
  • 磁気熱量効果

磁界で温度を動かす

磁性体に磁界をかけると、内部でばらばらだった磁気の向きがそろい、乱雑さ——磁気エントロピー——が減る。減った乱雑さの分だけエネルギーが熱として吐き出され、材料の温度が上がる。逆に磁界を外すと、向きが再びばらけて乱雑さが増し、その分の熱を周囲から吸い込んで温度が下がる。この磁気熱量効果を使い、磁界をかけ外しするサイクルで熱を汲み出すのが磁気冷凍である [1]。

魅力は、圧縮ガスや冷媒を必要としないことだ。家庭やデータセンターの冷却に広く使われる蒸気圧縮式は、温室効果の強いフロン類に頼ってきた。磁気冷凍は、それを使わずに同等の冷却を狙える可能性を持つ技術として、長く研究されてきた。

良い材料ほど、扱いにくい

磁気冷凍を実用に近づけるには、室温付近で大きな磁気エントロピー変化を示す材料が要る。代表格が、ガーネットならぬ NaZn13 型の結晶構造を持つ La(Fe,Si)13 系である。鉄を主成分とするため資源的に有利で、組成を調整すれば変化が起こる温度(転移温度)を室温付近に合わせられる。マンガン系(Mn-Fe-P-Si など)も有力な候補として研究が進む [3][4]。

ところが、これらの材料には共通の弱点がある。脆いのだ。磁気冷凍機のなかでは、材料に磁界をかけ外しするたびに膨張・収縮や熱応力が繰り返しかかる。粉末から作った成形体に気孔が多いと、そこを起点に割れが進み、長く使ううちに崩れてしまう。さらに、気孔は熱の通り道を塞ぐ。せっかく材料が温度を変えても、その熱を熱交換の媒体へ素早く渡せなければ、冷凍機としての効率は上がらない。

緻密化が効く三つの理由

だから、磁気冷凍材料を実用部材にするうえで、緻密に固めることは単なる仕上げではなく、性能そのものを左右する工程になる。気孔を減らすことは、少なくとも三つの面で効いてくる。

  • 熱伝導が良くなる:気孔という熱の障害物が減れば、材料が出し入れする熱を媒体へ速く伝えられる。サイクルを速く回せるほど、単位時間あたりに汲み出せる熱量が増える [5]。
  • 機械的に丈夫になる:気孔が割れの起点を減らし、繰り返しの応力に耐えやすくなる。冷凍機の寿命に直結する [3]。
  • 単位体積あたりの効果が増す:気孔は磁気的にはただの隙間である。中身の詰まった緻密体ほど、同じ体積でより大きな磁気エントロピー変化を生む [3][5]。

SPSという固め方

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに詰めた粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する手法である [1][2]。磁気冷凍材料にとって、この手法は緻密化と組成・相の維持を両立しやすい。

加圧(数十MPa級)が物質移動を助けるため、常圧より低い温度で高密度体が得られる。低めの温度・短時間で固められれば、軽くて揮発しやすい元素の散逸や、望ましい相の分解を抑えやすい。La(Fe,Si)13 系は望ましい NaZn13 型相を保ったまま緻密化することが課題であり、SPSの急速・加圧焼結はこの相を崩さずに固める設計の自由度を与える [3][5]。

Wu らは、La-Fe-Si 系をSPSで緻密化し、原料粉の粒径を選びながら気孔を減らすことで、単位体積あたりの磁気エントロピー変化や熱伝導率、圧縮強度を引き上げられることを示した [3]。Zhong らは、SPSで高密度の La-Fe-Si 系複合体を作製し、緻密さと特性の両立を報告している [5]。Wang らは、Mn-Fe-P-Si-Ge-B 系について、SPSの保持時間が組織と磁気熱量特性に与える影響を整理した [4]。

結合材で、脆さを補う

脆い材料を丈夫な塊にするもうひとつの工夫が、別の成分を結合材として混ぜる複合化である。磁気熱量効果を担う主相の粒どうしを、やわらかく延びやすい金属でつなぐと、応力を逃がしやすく割れにくい組織になる。同時に、その結合材が熱の通り道としても働けば、熱伝導の改善にもなる。

Wu らは、La(Fe,Co,Si)13 の粒をガドリニウムで結びつける複合体を設計し、SPSで固める手法を検討した [6]。こうした複合化では、主相の磁気熱量効果を損なわずに、機械強度と熱伝導をどう底上げするかが設計の勘所になる。SPSの低温・短時間焼結は、結合材を溶かしすぎず、主相と反応させすぎずに固める条件を取りやすい。

フロンに頼らない冷却へ向けて

磁気冷凍は、温室効果ガスに頼らない冷却技術として期待されながら、材料の脆さと熱の伝わりにくさという現実的な壁に阻まれてきた。大きな磁気エントロピー変化を示す材料ほど扱いにくい——この矛盾を、緻密化という一点で乗り越えるのが焼結技術の役割である。

SPSは、急速昇温と加圧で気孔をつぶし、望ましい相を保ったまま丈夫な塊に仕上げる手段のひとつだ。磁界が生む小さな温度差を、無駄なく熱として汲み出せる部材へと変える——磁気冷凍材料の焼結は、次世代の冷却を地に足のついた形にするための、地道な作り込みの工程である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

磁気熱量効果とは何か。
磁性体に磁界をかけると、内部の磁気の向きがそろって乱雑さ(磁気エントロピー)が減り、その分だけ熱が出て温度が上がる。磁界を外すと逆に乱雑さが増えて熱を吸い、温度が下がる。この温度変化を使い、熱を汲み出すのが磁気冷凍である。圧縮ガスや冷媒を使わずに済むため、フロン類に頼らない冷却技術として研究が続いている [1]。
なぜ材料を緻密に固める必要があるのか。
磁気冷凍機では、材料に磁界をかけ外しするたびに生じる熱を、熱交換の媒体へ素早く受け渡す必要がある。材料の内部に気孔が多いと、熱が伝わりにくく、また繰り返しの応力で割れやすい。気孔を減らして緻密にすると、熱伝導率と機械的強度が上がり、単位体積あたりの磁気エントロピー変化も大きくなる。つまり緻密化は、冷凍機としての性能と耐久性の両方に効く [3][5]。
SPSで作った磁気冷凍材料ではどのような特性が報告されているか。
公開研究では、La-Fe-Si 系をSPSで緻密化することで気孔を減らし、単位体積あたりの磁気エントロピー変化や熱伝導率、圧縮強度を向上させた報告がある。ガドリニウムなどを結合材に用いて複合体として固める設計も検討されている。得られる値は組成・原料粉の粒径・焼結条件に強く依存し、単一の到達点として一般化はできない [3][5][6]。

参考文献

  1. [1] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  2. [2] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-Assisted Sintering Technology/Spark Plasma Sintering: Mechanisms, Materials, and Technology Developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409
  3. [3] Wu YC, Li YX, Zhong XC, Liu CL, Huang JH, Yu HY, Liu ZW, Zhong ML, Zhong ZC, Ramanujan RV. The superior properties of spark plasma sintered La-Fe-Si magnetocaloric alloys. Mater Res Bull. 2022;155:111974. DOI: 10.1016/j.materresbull.2022.111974
  4. [4] Wang GF, Jia ZL, Jing T. Effect of sintering time on the structural and magnetocaloric properties of Mn-Fe-P-Si-Ge-B alloys prepared by spark plasma sintering. J Alloys Compd. 2022;923:166365. DOI: 10.1016/j.jallcom.2022.166365
  5. [5] Zhong XC, Wu SM, Dong XT, Li YX, Huang JH, Liu CL, Zhang H, Huang YL, Yu HY, Qiu WQ, Liu ZW, Zhong ML, Zhong ZC, Ramanujan RV. High density La-Fe-Si based magnetocaloric composites with excellent properties produced by spark plasma sintering. Mater Sci Eng B. 2022;284:115717. DOI: 10.1016/j.mseb.2022.115717
  6. [6] Wu Z, Zhang HG, Pan WJ, Zhang YD, Huang JH, Yue M, Skokov KP, Gutfleisch O. New design of La(Fe, Co, Si)13 magnetocaloric composites using Gd as a binder. J Mater Res Technol. 2024;28:1-9. DOI: 10.1016/j.jmrt.2023.12.017