Sintering Frontier焼結フロンティア
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軌道上製造とSPS — 宇宙で部品を作る選択肢に、加圧通電焼結は入るか

宇宙で部品を作る「軌道上製造」は、樹脂の3Dプリンタからワイヤ式の金属積層へと実証が進んできた。粉末を使う方式は微小重力での粉の扱いが難しく、まだ地上中心だ。放電プラズマ焼結(SPS)は粉末を短時間で固体化する手段だが、宇宙実証はない。何が確かめられ、どこが概念段階かを機序ベースで整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 軌道上製造
  • 宇宙製造

補給を待たない、という発想

地球低軌道を回る宇宙ステーションでさえ、ボルト一本を届けるには補給船を待つしかない。月や火星に向かう長期ミッションでは、その「待ち時間」が数か月から年単位に伸びる。必要な部品や工具をすべて事前に積み込むのは現実的でなく、ミッション中に何かが壊れれば、地球からの補給を待つあいだ、活動が止まりかねない。

この制約を根本から変えようとするのが、軌道上製造(In-Space Manufacturing)である。宇宙で部品を作り、壊れたものを直す。さらに将来は、月や火星の現地資源(レゴリス)を材料にして、運ぶ物資を最小化する。補給への依存を断ち、現地で自給する——この発想は、宇宙での持続的な活動を支える基盤技術として位置付けられている [2][3]。

では、宇宙で「ものを作る」とき、どんな方式が候補になるのか。そして、地上で緻密な部品を作る有力手段である放電プラズマ焼結(SPS)は、その選択肢に入るのか。本稿は、実証済みの技術と概念段階の技術を切り分けながら整理する。

樹脂から金属へ — 実証されてきた道

軌道上製造の実証は、扱いやすい材料から段階的に進んできた。

最初に宇宙へ持ち込まれたのは、樹脂を溶かして細く押し出し、層を積み上げる方式(材料押出)だった。国際宇宙ステーションでは、この方式のプリンタが運用され、微小重力下でも樹脂部品を作れることが示された。樹脂は比較的低温で扱え、溶けた材料が自重で崩れにくいため、微小重力との相性がよい [2]。

次の段階が金属である。金属の積層には複数の方式があるが、宇宙で先に実証されたのは、金属ワイヤを溶かして積む指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition, DED)だった。ワイヤは固体のまま送れ、装置内で粉が舞う心配がない。レーザーでワイヤ先端を溶かし、層ごとに造形する。この方式が、宇宙での金属部品製造の最初の一歩となった [2][3]。

HoffmannとElwanyの総説は、こうした軌道上積層造形の進展を、方式ごとの利点と微小重力特有の課題から整理している [2]。SuらのレビューもISSを含む宇宙での金属積層の研究進展をまとめ、アルミニウム・チタン・鉄・銅系などの材料ごとに、微小重力下での溶融挙動の違いに注意を促している [3]。

粉末という難物 — 微小重力で何が起きるか

地上の金属積層で主流の一つが、金属粉を薄く敷いてレーザーで溶かすパウダーベッド方式である。高い精度と複雑形状への対応力を持つが、宇宙ではこれが難しい。

理由は粉そのものにある。地上では重力が粉を敷面に押さえつけ、平らな層を作れる。微小重力では、粉が舞い上がり、装置内に拡散し、敷き均しが安定しない。溶融時に飛散した粒子(スパッタ)も浮遊し、装置や乗員環境を汚すおそれがある。粉末を使う方式は、こうした「粉のハンドリング」という根本課題を抱える [3]。

それでも、粉末は宇宙にとって魅力がある。ワイヤより形状の自由度が高く、現地資源を粉砕した材料を使える可能性もある。粉末を運ぶほうがワイヤより嵩を抑えられるという利点も指摘される。Neumannらは、サウンディングロケットによる短時間の微小重力環境で、ジルコニウム基の金属ガラスを粉末から造形できることを示した [1]。粉末からの製造が微小重力で原理的に可能であることを示す、重要な実証である。ただしこれは数分オーダーの微小重力下での研究であり、軌道上での連続運用とは段階が異なる。

SPSは候補に入るか — 利点と、重さという壁

ここでSPSの位置づけを考える。SPSは、黒鉛ダイスに詰めた粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速に昇温しながら一軸加圧して、短時間で緻密な固体を得る手法である [4][5]。

軌道上製造の文脈で見ると、SPSにはいくつかの理論的な利点がある。粉末から直接、最終形状に近いニアネットシェイプの部品を、結合剤なしで緻密に作れる。積層造形が苦手とする高融点・難焼結材料(超硬セラミックスなど)も扱える。加圧を併用するため、微小重力で問題になる「重力に頼った緻密化」への依存が、無加圧焼結より小さい——加圧という外力で粒子を押し付けて緻密化する原理だからだ。

一方で、宇宙へ持ち込むには重い壁がある。SPSは大電流のパルス電源、油圧などの加圧機構、黒鉛製のダイスとパンチを必要とし、装置一式が重く大きい。打ち上げ重量と容積が厳しく制約される宇宙では、これは大きな不利になる。さらに、粉末を扱う以上、微小重力でのハンドリング課題はパウダーベッド方式と共有する。黒鉛治具の消耗品供給や、真空・加圧環境の維持も、宇宙では簡単でない。

これらを踏まえると、現時点でSPSを軌道上で運用した実証は確認されておらず、宇宙応用は地上研究・概念段階にとどまる、というのが正確な現在地である。SPSの強みである「難焼結材を緻密に固める」能力が宇宙で必要になる場面——たとえば現地資源から構造材や工具材を作る局面——が具体化したとき、装置の軽量化・小型化と合わせて、改めて検討対象になりうる技術と捉えるのが妥当だろう。

実証の積み上げの先に

軌道上製造は、樹脂の押し出しから、金属ワイヤのDEDへと、扱いやすい材料・方式から着実に実証を重ねてきた。粉末を使う方式は、微小重力での粉のふるまいという難物を抱えつつ、ロケット実験で原理的な可能性が示されつつある段階だ。

SPSは、その粉末系の一つの極北——加圧と急速通電で難焼結材まで緻密化する強力な手段——でありながら、装置の重さゆえに宇宙では候補の手前にいる。重要なのは、できることとできないことを正直に切り分けることだ。実証されたのはここまで、概念段階はここから、と。

人類が宇宙で暮らすために必要な技術を、地上の研究から一段ずつ宇宙へ運んでいく。軌道上製造はその最前線であり、SPSがそこに加わる日が来るかどうかは、これからの装置工学と、現地資源利用というミッション設計の側からの要請にかかっている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

なぜ宇宙で部品を製造する必要があるのか。
長期ミッションでは、必要な交換部品や工具をすべて事前に積み込むのは難しく、輸送にも限界がある。現地で部品を作り、壊れたものを直せれば、補給への依存を減らし、想定外の故障にも対応できる。月や火星の現地資源(レゴリス)を材料にする将来像とも結びつく。軌道上製造(In-Space Manufacturing)は、宇宙での自給に向けた基盤技術と位置付けられている [2][3]。
宇宙ではどんな製造方式が実証されているのか。
国際宇宙ステーションでは、まず樹脂を押し出して積む方式の3Dプリンタが運用され、その後ワイヤを溶かして積む金属の指向性エネルギー堆積(DED)が実証された。粉末を敷いて溶かすパウダーベッド方式は、微小重力で粉が舞う・敷き均しが難しいといった課題があり、宇宙での本格運用には至っていない。粉末をサウンディングロケットで短時間の微小重力下に固めた研究はある [1][2][3]。
SPSは軌道上製造に使えるのか。
SPSは粉末を黒鉛ダイスに詰め、パルス通電と加圧で短時間に緻密な固体へ変える手法である。原理上は粉末から直接ニアネット形状の部品を作れる利点があるが、加圧機構・大電流電源・黒鉛治具を要し、装置が重く大きい。微小重力での粉末ハンドリングの課題も共有する。現時点で宇宙でのSPS実証はなく、地上研究・概念段階にとどまる [4][5]。

参考文献

  1. [1] Neumann C, Thore J, Clozel M, Günster J, Wilbig J, Meyer A. Additive manufacturing of metallic glass from powder in space. npj Microgravity. 2023;9:80. DOI: 10.1038/s41526-023-00327-7
  2. [2] Hoffmann M, Elwany A. In-space additive manufacturing: A review. J Manuf Sci Eng. 2023;145(2):020801. DOI: 10.1115/1.4055603
  3. [3] Su X, Zhang P, Huang Y. Research progress of metal additive manufacturing technology and application in space: A review. Metals. 2024;14(12):1373. DOI: 10.3390/met14121373
  4. [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  5. [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014