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水素貯蔵材料の放電プラズマ焼結 — 粉末を扱える固体に変えながら、ガスの出入りを止めない

マグネシウム系の水素貯蔵材料は、軽くて吸蔵量が大きい一方、扱いやすい固体に固めると今度は水素の出入りが鈍る。緻密に固めれば粉が舞わず壊れにくいが、ガスの通り道が消える——この相反を、低温・短時間で組織を作り込む放電プラズマ焼結(SPS)でどう調停するか。本稿はSongやGialanellaらの公開研究をもとに、機序から整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 水素貯蔵
  • マグネシウム水素化物

水素を金属に「吸わせて」運ぶ

水素は気体のまま貯めようとすると、高圧タンクや極低温が要り、容器がかさばる。これに対し、ある種の金属は水素を結晶の中に取り込んで金属水素化物となり、固体として水素を抱え込む。加熱すれば水素を放し、冷やして圧をかければまた吸う——金属を「水素のスポンジ」として使う発想である。

なかでもマグネシウムは、軽くて資源が豊富で、重さあたりの吸蔵量が大きい。マグネシウムが水素と結びつくとマグネシウム水素化物(MgH₂)になり、理論上、自重の約7.6%にあたる水素を蓄えられる。この数字は、固体の水素貯蔵材料のなかでも際立って大きい。

だが、マグネシウム系には弱点がある。水素を吸ったり放したりする反応が遅く、放出には高い温度が要る。この反応を速める王道が、ボールミルによるナノ粉化である。結晶を細かく砕いて表面積を増やし、水素が入りやすく、拡散の道のりを短くする。触媒となる遷移金属や酸化物を混ぜ込むのも、この粉砕の工程で行う [1][2]。

粉のままでは、使えない

ナノ粉は反応こそ速いが、そのままでは実用に乗らない。

第一に、安全と取り扱い。マグネシウムの微粉は空気に触れると発火しやすく、容器に詰めれば舞い上がる。粉のまま扱うのは現場では危うい。

第二に、繰り返しの耐久性。水素を吸うと結晶格子が膨らみ、放すと縮む。この膨張・収縮を何百回と繰り返すうち、粉は移動し、偏り、固まって、ガスの通り道をふさいでしまう。

だから粉を、扱えるペレットに固める段階がいる。ところが、ここに本質的な相反が立ちはだかる。

緻密化と多孔のあいだ

普通の焼結は「すき間をなくして緻密にする」ことを目指す。だが水素貯蔵材料では、すき間を消しきってはいけない。

水素は、まず材料の表面から入る。粉末はその表面積が大きく、粒のあいだのすき間がガスの通り道になるからこそ、吸蔵・放出が速い。これを完全に緻密化して気孔を消すと、水素が内部まで届かず、反応が鈍る。

求められるのは中間状態である。粒どうしを十分に結合させて、空気中で扱える強さと形を持たせる。同時に、ガスが内部まで通れる適度な気孔と、反応を速いまま保つ微細な結晶組織を残す。緻密化と多孔の、絶妙なつり合いを狙うのが、水素貯蔵材料の固化である [1][3]。

Songらは、SPSで固めたマグネシウム系複合材を調べ、固化後も水素の吸蔵特性が損なわれず、むしろ複合化の効果と相まって良好な挙動を示すことを報告している。粉を固体にしながら、ガスの出入りを止めない——この両立が成り立つことを実証した点に意義がある [1]。

SPSが効く理由

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [4]。水素貯蔵材料にとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 低温・短時間で固化できる:MgH₂は加熱すると水素を放って金属マグネシウムに戻ってしまう。高温に長くさらせば水素化物が分解し、貯蔵能力そのものが損なわれかねない。SPSは数分の保持で固化を終えられるため、水素化物相を保ったまま扱える固体にできる。
  • ナノ組織を保てる:通常の焼結では、せっかくボールミルで作ったナノ結晶が高温で粗大化し、反応が遅くなる。SPSは高温保持を短く抑えるため、フォノン散乱ならぬ「水素拡散の近道」となる微細組織を残せる。Gialanellaらは、ボールミルとSPSを組み合わせることで微細組織を保てることを示した [3]。
  • 複合組織を均一に固められる:触媒や第二相を混ぜたナノ粉を、偏らせずに固体化できる。Liuらは、SPSで作ったマグネシウム系複合材の水素貯蔵性能を調べ、組織と特性の関係を整理している [2]。

軽さと速さを、固体に閉じ込める

水素を金属に吸わせて運ぶという発想は、軽くて吸蔵量の大きいマグネシウム系で大きな潜在力を持つ。だが、その潜在力は、反応を速めるナノ粉化と、扱える固体への固化という、向きの異なる二つの要請のあいだで折り合いをつけて初めて引き出される。

SPSは、低温・短時間という性質によって、水素化物相とナノ組織を保ったまま粉を固体に変える手段として公開研究で検討されてきた。Tokitaが総説で整理するように、SPSは機能性材料の組織を作り込む道具であり、エネルギー貯蔵材料もその射程に入る [5]。緻密と多孔、強さと速さ——水素貯蔵材料の焼結は、相反する要請を一つのペレットの中で両立させる材料工学である。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

なぜ水素貯蔵材料を粉末ではなく固体に固めるのか。
マグネシウム系の水素貯蔵材料は、反応を速めるためにボールミルでナノ粉にして使う。だが微粉のままでは、空気中で発火しやすく、容器に詰めると舞い上がり、繰り返しの吸蔵・放出で体積が変わって崩れる。実用化には、粉を扱える形のペレットに固める段階がいる。問題は、固めると水素の出入りが鈍りがちなことで、SongらはSPSで固めたMg系複合材が、固化後も良好な吸蔵特性を保てることを報告している [1]。
緻密に固めると、なぜ水素の出入りが鈍るのか。
水素は材料の表面から入り、内部へ拡散して金属と結びつく。粉末は表面積が大きく、すき間がガスの通り道になるため出入りが速い。これを完全に緻密化して気孔を消すと、ガスが内部まで届きにくくなり、吸蔵・放出が遅くなる。このため水素貯蔵材料の焼結は、粒どうしを結合させて形を保ちつつ、ガスが通れる適度な気孔と微細な結晶組織を残す——緻密化と多孔の中間を狙う制御が要点になる [1][3]。
SPSが水素貯蔵材料の固化に向く理由は何か。
マグネシウム水素化物(MgH₂)は加熱すると水素を放って金属マグネシウムに戻りやすく、高温長時間の焼結では結晶が粗大化し、せっかくのナノ組織が失われる。SPSはパルス通電による急速昇温と加圧で、低温・短時間のうちに固化を済ませられるため、ナノ結晶や水素化物相を保ったまま扱える固体にできる。Gialanellaらはボールミルとの組み合わせで微細組織を残せることを示している [2][3]。

参考文献

  1. [1] Song X, Chen J, Zhang Q, Sun X. The role of spark plasma sintering on the improvement of hydrogen storage properties of Mg-based composites. Int J Hydrogen Energy. 2010;35(15):8080-8086. DOI: 10.1016/j.ijhydene.2010.01.048
  2. [2] Liu J, Song X, Chen J, Pei P. Hydrogen storage performance of Mg-based composites prepared by spark plasma sintering. J Alloys Compd. 2009;486(1-2):338-342. DOI: 10.1016/j.jallcom.2009.06.144
  3. [3] Paris MA, Gialanella S, Ischia G, Coati A, Garreau Y, Molinari A. Microstructural refinement using ball-milling and spark-plasma sintering of MgH2 based materials for hydrogen storage. Calphad. 2009;33(3):517-524. DOI: 10.1016/j.calphad.2008.07.011
  4. [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  5. [5] Tokita M. Progress of spark plasma sintering (SPS) method, systems, ceramics applications and industrialization. Ceramics. 2021;4(2):160-198. DOI: 10.3390/ceramics4020014