高エントロピー酸化物の放電プラズマ焼結 — エントロピーで安定化する単相を緻密に固める
高エントロピー酸化物は、5種前後の金属を等量近く混ぜ、配置のエントロピーで単一の結晶構造に安定化させた酸化物群である。Rostらが提示したエントロピー安定化酸化物を起点に、新しい機能材料として広がった。放電プラズマ焼結(SPS)は単相化と緻密化を短時間で両立する手段として、反応焼結を含む公開研究で位置付けられている。本稿はその機序を整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 高エントロピー酸化物
- 高エントロピーセラミックス
混ざらないはずのものを、一相にする
ふつう、性質の異なる金属酸化物をいくつも混ぜれば、それぞれが自分の好む結晶構造に分かれて、複数の相が共存する。酸化マグネシウムは岩塩型、酸化銅はまた別の構造——本来なら、これらは一つの相にはまとまらない。
ところが2015年、Rost らは驚くべき結果を報告した。マグネシウム・コバルト・ニッケル・銅・亜鉛という、本来は構造の異なる5種の金属酸化物を等量近く混ぜると、それらが別々の相に分かれず、一つの岩塩型(NaCl 型)の単相固溶体としてまとまったのである。しかも、高温では単相が安定し、低温では複数相に分かれるという、温度に対する振る舞いが、配置のエントロピーが相を安定化させていることを示していた。彼らはこれをエントロピー安定化酸化物と名付けた [1]。
この発見は、高エントロピー合金の発想を酸化物の世界へ持ち込むものだった。多数の金属を一つの結晶サイトにランダムに共存させることで、岩塩型に限らず、スピネル型やペロブスカイト型などさまざまな構造の高エントロピー酸化物が次々と作られ、触媒・蓄電・誘電・熱物性などの機能材料として広がっていく。本稿では、この高エントロピー酸化物を緻密なバルク体にする工程と、そこでの SPS の役割を整理する。
単相化と緻密化、二つの要求
高エントロピー酸化物をバルク体にするとき、満たしたい要求は二つある。単相化と緻密化だ。
第一の単相化。複数の金属酸化物を、別々の相に分かれさせず、一つの結晶構造へ均一にまとめる。これには元素が十分に拡散して混ざり合うだけの高温が要る。混ざりきらなければ、目的の単相にならず、不純物相が残ってしまう [1]。
第二の緻密化。粉末の隙間(孔)をなくし、密度の高い固体にする。これにも高温が要るが、高温に長くさらせば、今度は別の問題が生じる。
二つの要求は、どちらも高温を求めながら、互いに緊張関係にある。従来の常圧焼結では、単相化と緻密化を進めるために高温・長時間が必要で、その間に粒成長が進んだり、孔が残ったりしやすい。高エントロピー酸化物のように、低温では複数相に分かれうる材料では、冷却の過程で相分離が起きることも避けたい [2]。
ここで、短時間で高温緻密化を済ませられる SPS が有力な手段になる。
なぜSPSが二つの要求を同時に満たせるのか
SPS は、パルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせる焼結法だ。この組み合わせが、単相化と緻密化という二つの要求を効率よく同時に満たす。
加圧は、粉末粒子どうしを強く押しつけ、緻密化を促す。急速昇温は、目標温度へ素早く到達して短時間で緻密化を終えられるため、高温に長くさらす必要がない。Tan らは、ハフニウム・ジルコニウム・タンタル・ニオブを含む A6B2O17 型の高エントロピー酸化物を SPS で緻密化し、短時間で高密度のバルク体が得られることを示した [2]。
さらに踏み込んだのが、反応性 SPS である。単相化した粉末をあらかじめ用意せず、複数の原料酸化物や前駆体を混ぜた状態のまま直接 SPS にかける。すると加熱中に、元素が拡散して単一構造へまとまる固溶反応と、孔をなくす緻密化が同時に進む。Biesuz らは、6種の金属を含むペロブスカイト型の高エントロピー酸化物を反応性 SPS で合成し、単相化と緻密化を一工程で達成できることを報告した。原料から緻密な単相バルク体までを短時間でまとめられる点が、この経路の強みである [3]。
エントロピーと温度のせめぎ合い
高エントロピー酸化物の名の由来である「高いエントロピー」は、単相を安定化する方向に働く。だが、その安定性は温度に強く依存する。
配置のエントロピーが効いてくるのは、高温である。エントロピーの寄与は自由エネルギーの中で温度に比例する項として現れるため、温度が高いほど単相を安定化させる力が強くなる。逆に低温では、混合エンタルピーなど他の因子が優勢になり、複数の相へ分かれようとする傾向が現れることがある。Rost らがエントロピー安定化を主張できたのは、まさにこの温度依存性——高温で単相、低温で多相という振る舞い——を観測したからだ [1]。
この温度依存性は、緻密化プロセスに直接かかわる。単相を保つには高温が望ましいが、冷却の過程で相分離が起きないようにも気を配らねばならない。SPS の短時間焼結と急速冷却は、高温で単相化・緻密化を済ませてから素早く冷やせるため、相分離が進む時間を与えにくい。エントロピーと温度のせめぎ合いを、プロセスの側から制御する手立てになる [2][4]。
多元素の秩序を、緻密な固体に
高エントロピー酸化物は、「混ざらないはずの酸化物を、エントロピーで一つの相にまとめる」という逆説から生まれ、岩塩型からペロブスカイト型まで多彩な構造の機能材料へ広がった。その多元素の単相を緻密なバルク体として取り出すうえで、SPS は有力な手段である。
急速昇温と加圧が、単相化と緻密化という二つの要求を短時間で同時に満たし、反応性 SPS なら原料混合物から一工程で緻密な単相を得られる。エントロピーが効くのは高温だからこそ、高温で素早く仕上げて素早く冷やす SPS の流儀が、相分離を避けながら単相を固体に閉じ込めるのに適している。多数の金属が一つの秩序を共有する酸化物——その新しい材料空間を緻密な形にする緻密化技術として、SPS は高エントロピー酸化物の研究を支えている。
本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 高エントロピー酸化物とは何か。
- 5種前後の金属酸化物を等量近く混ぜ、本来なら別々の相に分かれそうな組成を、一つの結晶構造(岩塩型やスピネル型、ペロブスカイト型など)の単相固溶体として安定化させた酸化物群を指す。Rostらは2015年、本来は構造の異なる5種の金属酸化物を混ぜても、高い配置のエントロシーが単一の岩塩型相を安定化させうることを示し、エントロピー安定化酸化物と名付けた [1]。
- なぜ高エントロピー酸化物の緻密化に SPS が向くのか。
- 高エントロピー酸化物では、複数の金属を一つの相に均一化する単相化と、孔をなくす緻密化を両立させたい。従来の常圧焼結では緻密化に高温・長時間を要し、孔が残りやすい。SPS は急速昇温と加圧で短時間に高密度化でき、単相化と緻密化を効率よく進めやすい。原料の混合物から加熱中に単相化と緻密化を同時に進める反応焼結も研究されている [2][3]。
- 反応性SPSとはどういう経路か。
- 単相化した粉末をあらかじめ用意するのではなく、複数の原料酸化物や前駆体を混ぜた状態で直接SPSにかける経路を指す。加熱中に元素が拡散して単一の結晶構造へまとまる固溶反応と、孔をなくす緻密化が同時に進む。Biesuzらはペロブスカイト型の高エントロピー酸化物を反応性SPSで合成し、単相化と緻密化を一工程で達成できることを示した [3]。
参考文献
- [1] Rost CM, Sachet E, Borman T, Moballegh A, Dickey EC, Hou D, Jones JL, Curtarolo S, Maria JP. Entropy-stabilized oxides. Nat Commun. 2015;6:8485. DOI: 10.1038/ncomms9485
- [2] Tan ZY, Xie ZH, Wu X, Guo JW, Zhu W. Spark plasma sintering of A6B2O17 (A = Hf, Zr; B = Ta, Nb) high entropy ceramics. Mater Lett. 2023;332:133381. DOI: 10.1016/j.matlet.2022.133381
- [3] Biesuz M, Fu S, Dong J, Jiang A, Ke D, Xu Q, Zhu D, Bortolotti M, Reece MJ, Hu C, Grasso S. High entropy Sr((Zr0.94Y0.06)0.2Sn0.2Ti0.2Hf0.2Mn0.2)O3-x perovskite synthesis by reactive spark plasma sintering. J Asian Ceram Soc. 2019;7(2):127-132. DOI: 10.1080/21870764.2019.1595931
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2