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高エントロピー窒化物の放電プラズマ焼結 — 5種の金属を一つの硬い相に固める

高エントロピー窒化物は、4〜5種の遷移金属を等量近く混ぜ、単一の岩塩型固溶体として安定化させた窒化物群である。高い硬度と靱性、優れた耐酸化性を示すことが報告され、超硬材料として注目される。放電プラズマ焼結(SPS)は単相化と緻密化を両立する手段として、反応焼結を含む公開研究で位置付けられている。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 高エントロピー窒化物
  • 高エントロピーセラミックス

硬さと靱性を、一つの相に

窒化チタン(TiN)や窒化ジルコニウム(ZrN)は、硬く、融点が高く、金色の光沢を持つ材料として、工具のコーティングや耐摩耗部材に使われてきた。いずれも岩塩型(NaCl 型)の構造を持ち、金属の副格子と窒素の副格子からなる。

高エントロピー窒化物は、この窒化物の世界に高エントロピーの発想を持ち込んだ材料群だ。窒素副格子は窒素のまま保ちながら、金属副格子に4〜5種の遷移金属、たとえばハフニウム・ニオブ・タンタル・チタン・ジルコニウムをほぼ等量で混ぜ込む。複数の金属が一つの結晶学的サイトをランダムに共有する点が、この材料の核心である。Moskovskikh らは、こうした高エントロピー窒化物が極めて高い硬度と靱性を併せ持つことを報告した [1]。

硬い材料はしばしば脆い。硬度と靱性は両立しにくいというのが、超硬材料の常識だった。高エントロピー窒化物は、その常識に挑む候補として注目される。本稿では、この材料を緻密なバルク体にする工程と、そこでの SPS の役割を整理する。

単相化と緻密化、二つの壁

高エントロピー窒化物をバルク体にするとき、二つの壁が立ちはだかる。単相化と緻密化だ。

第一の単相化。4〜5種の金属を、別々の二元窒化物に分かれさせず、一つの岩塩型固溶体へ均一にまとめる。これには元素が十分に拡散して混ざり合うだけの高温が要る。混ざりきらなければ、目的の単相にならず、複数の窒化物相が共存してしまう [1]。

第二の緻密化。窒化物は共有結合性が強く、原子が動きにくい。そのため緻密化に高い温度を要し、孔が残りやすい。炭化物や酸化物と並んで、窒化物は焼結の難しいセラミックスの一つだ [2]。

二つの壁は、どちらも高温を求めるが、高温に長くさらせば粒成長が進み、組織が粗大化する。さらに窒化物の場合、高温で窒素が抜けて組成がずれる懸念もある。短時間で高温緻密化を済ませたい——この要請に、SPS が応える。

なぜSPSが二つの壁を越えられるのか

SPS は、パルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせる焼結法だ。この組み合わせが、単相化と緻密化という二つの壁を効率よく越える。

加圧は、共有結合性が強く焼き締まりにくい窒化物の粉末を、外力で強制的に密着させ、緻密化を助ける。急速昇温は、高温に素早く到達して短時間で緻密化を終えられるため、粒成長や窒素抜けを抑えやすい。Walunj らは、機械的に合金化した高エントロピー窒化物を SPS で緻密化し、微細で均一な組織と低い気孔率を持つバルク体が得られることを示した [2]。

高エントロピー窒化物の作り方には、反応焼結の経路もある。金属粉を窒素雰囲気で機械的に活性化し、燃焼合成によって窒化物前駆体を作ってから SPS で固める方法だ。Moskovskikh らはこの経路で、機械的に活性化した金属前駆体を窒素中で発熱反応させて高エントロピー窒化物相を作り、SPS で緻密化することで、高い硬度と靱性を併せ持つバルク体を得た。Dippo らは、5種の遷移金属を含む岩塩型の高エントロピー窒化物や、炭素も加えた炭窒化物を作製し、これらが単相として成立しうることを示している [1][3]。

なぜ硬さと靱性が両立しうるのか

高エントロピー窒化物が注目される最大の理由は、硬度と靱性という両立しにくい性質を併せ持つと報告されている点だ。その背景には、いくつかの機序が考えられている。

一つは、多元素が一つのサイトを共有することによる格子の歪みだ。原子半径の異なる金属がランダムに並ぶと、結晶格子に局所的な歪みが生じる。この歪みが転位の動きを妨げ、硬度を高める方向に働くと考えられている。同時に、単相の岩塩型固溶体として全体がまとまることで、脆い第二相や粗大な欠陥が少なくなり、靱性の確保につながりうる [1]。

そして、これらの性質を生かすには、組織の作り込みが欠かせない。粗大な粒や孔が残れば、そこが破壊の起点になり、せっかくの靱性が損なわれる。SPS の急速・短時間焼結が、微細で均一かつ気孔率の低い組織を作り、硬度と靱性を併せ持つ材料への土台を整える。プロセスは、組成と並ぶもう一つの設計変数なのである [2][4]。

多元素の硬さを、緻密な固体に

高エントロピー窒化物は、硬い窒化物の世界に高エントロピーの発想を持ち込み、硬度と靱性の両立という難題に挑む材料群として現れた。その多元素の単相を緻密なバルク体として取り出すうえで、SPS は有力な手段である。

加圧が共有結合性の強い窒化物の緻密化を助け、急速昇温が単相化と緻密化を短時間で両立させ、反応焼結なら窒化反応から緻密化までを効率よくつなぐ。格子の歪みがもたらす硬さも、単相がもたらす靱性も、微細で欠陥の少ない組織があってはじめて生きる。多数の金属が一つの硬い相を共有する窒化物——その新しい超硬材料を緻密な形にする緻密化技術として、SPS は高エントロピー窒化物の研究を支えている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

高エントロピー窒化物とは何か。
窒素の副格子は窒素で占めたまま、金属副格子に4〜5種の遷移金属(Hf・Nb・Ta・Ti・Zr など)をほぼ等量で混ぜ、一つの岩塩型固溶体として安定化させた窒化物群を指す。多数の金属が一つのサイトを共有することによる高い配置のエントロピーが、複数の二元窒化物に分かれず単相を保つ駆動力になると考えられている。高い硬度と靱性、優れた耐酸化性が報告されている [1]。
なぜ単相化と緻密化に SPS が向くのか。
複数の金属を一相に均一化するには高温が要る一方、窒化物は共有結合性が強く緻密化しにくい。SPS は急速昇温と加圧で高温保持を短く抑えられるため、単相固溶体への均一化を進めつつ緻密化を同時に達成しやすい。SPS で固めた高エントロピー窒化物は、微細で均一な組織と低い気孔率を示すことが報告されている [2]。
反応焼結とはどういう経路か。
金属粉を窒素雰囲気で機械的に活性化し、燃焼合成で窒化物前駆体を作ってからSPSで固める経路や、金属粉と窒素源を混ぜて加熱中に窒化反応と緻密化を同時に進める経路がある。Moskovskikhらは、機械的に活性化した金属前駆体を窒素中で発熱反応させて高エントロピー窒化物相を作り、SPSで緻密化することで高い硬度と靱性を得られることを示した [1]。

参考文献

  1. [1] Moskovskikh D, Vorotilo S, Buinevich V, Sedegov A, Kuskov K, Khort A, Shuck C, Zhukovskyi M, Mukasyan A. Extremely hard and tough high entropy nitride ceramics. Sci Rep. 2020;10:19874. DOI: 10.1038/s41598-020-76945-y
  2. [2] Walunj G, Mugale M, Patil A, Borkar T. Spark plasma sintering of mechanically alloyed high entropy nitrides to investigate the mechanical, tribological, and oxidation properties. JOM. 2024;76(2):764-776. DOI: 10.1007/s11837-023-06259-7
  3. [3] Dippo OF, Mesgarzadeh N, Harrington TJ, Schrader GD, Vecchio KS. Bulk high-entropy nitrides and carbonitrides. Sci Rep. 2020;10:21288. DOI: 10.1038/s41598-020-78175-8
  4. [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2