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高エントロピー二ホウ化物の放電プラズマ焼結 — 金属副格子に5元素を共存させる

高エントロピー二ホウ化物は、ホウ素層を保ったまま金属層に5種前後の遷移金属を等量近く混ぜ、単一の六方晶相として安定化させた超高温セラミックス群である。配置のエントロピーで多元素を一相に保つ設計を、難焼結性のホウ化物にどう適用するか。本稿は単相化と緻密化を両立させる放電プラズマ焼結(SPS)の役割を、GildやLuoらの公開研究をもとに機序から整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 高エントロピーセラミックス
  • 二ホウ化物

ホウ素層を残して、金属層を混ぜる

二ホウ化ジルコニウム(ZrB₂)や二ホウ化ハフニウム(HfB₂)は、金属層とホウ素層が交互に積み重なる六方晶の層状構造を持つ。金属層が金属的な電気・熱伝導を担い、ホウ素層の強い共有結合が高い硬度と弾性率を与える——この二層構造が、超高温セラミックスとしての性質の土台である。

高エントロピー二ホウ化物は、この層状構造を保ったまま金属層だけに手を入れた材料群である。ホウ素層は変えず、金属層にハフニウム・ジルコニウム・チタン・タンタル・ニオブ・モリブデンといった遷移金属を4〜5種、ほぼ等量で混ぜ込む。複数の金属が一つの結晶学的サイトをランダムに共有する点が核心で、この発想は高エントロピー合金から炭化物・ホウ化物へと広がってきた。

Gild らは2016年、この高エントロピー金属二ホウ化物を新しい材料群として最初に報告した。複数の遷移金属を等量近く混ぜると、配置のエントロピー(原子がどう並ぶかの場合の数に由来する自由エネルギー項)が大きくなり、複数の二元ホウ化物に分かれず単一の六方晶相として全体がまとまることを示したのである。多元素が一相に共存することで、構成元素の選択や比率を通じて硬度・熱伝導率などを調整できる可能性が開けた [1]。

二つの目標が競合する

高エントロピー二ホウ化物の作製には、互いに競合しがちな二つの目標がある。一つは、複数の金属を原子レベルで均一に混ぜ、単一の固溶体相にすること(単相化)。もう一つは、粒子間の気孔をなくして高密度の塊にすること(緻密化)である。

単相化には高温が要る。異なる金属を一つの層に均一に拡散させるには、十分な熱と時間が必要だからだ。ところがホウ化物は、ホウ素層の共有結合が強いために原子の自己拡散が遅く、もともと緻密化しにくい。無加圧では融点に迫る高温と長時間を要し、それでも残留気孔が残りやすい。

ここに矛盾が生じる。緻密化のために高温で長く保持すると、せっかく均一化した固溶体が複数の相に分かれたり、結晶粒が粗大化したりする。低温では均一な固溶体が得られず、高温では組織が崩れる——この板挟みが、高エントロピー二ホウ化物の焼結における中心課題である。

SPS が板挟みを解く

放電プラズマ焼結(SPS)は、この二つの目標を同時に追える手段として位置付けられている。黒鉛ダイへのパルス通電によるジュール加熱と一軸加圧を組み合わせ、毎分100°Cを超える昇温を実現する。高温には到達しつつも、その保持時間を数分に抑えられるため、単相への均一化を進めながら粒成長や相分離を抑えられる [3]。

外部からの加圧も効く。ホウ化物の遅い自己拡散だけでは緻密化の駆動力が足りないが、SPS の一軸加圧が物質移動を補い、固溶体化と緻密化を低い温度域で両立させる。Gild らの一連の研究では、あらかじめ均一化した粉末を用い、SPS の急速昇温と加圧を活かすことで、単相かつ高密度の高エントロピー二ホウ化物体が得られている [1][2]。

粉末をどう作るかが効いてくる

緻密化と並んで重要なのが、出発粉末の作り方である。高エントロピー二ホウ化物の粉末合成には、大きく二つの経路がある。

一つは反応性ボールミルである。金属とホウ素源をボールミルで高エネルギーに混合すると、機械的なエネルギーで原子が混ざり合い、室温で前駆体となる固溶体粉末が得られる。これを SPS にかければ、加熱中に反応と緻密化が同時に進む。

もう一つが硼炭素熱還元(borocarbothermal reduction)である。金属酸化物を炭化ホウ素(B₄C)と黒鉛で還元しながらホウ化物に変える経路で、原料中の酸素を一酸化炭素として取り除けるため、酸化物不純物の少ない単相粉末を作りやすい。Gild らは、この還元法で作った三つの単相高エントロピー二ホウ化物——(Hf,Zr,Ti,Ta,Nb)B₂、(Hf,Zr,Ti,Ta,Mo)B₂、(Hf,Zr,Ti,Ta,Cr)B₂——を SPS で理論密度の99%超まで緻密化し、ボールミル経由の試料より高い硬度が得られることを示した。粉末経路の違いが、最終的な組織と特性に直接効いてくるのである [2]。

残された問い

高エントロピー二ホウ化物の研究はまだ新しく、検討すべき点が多い。第一に、どの元素の組み合わせ・比率がどの特性を最適化するのか、その設計則は整理の途上にある。金属層に入れうる遷移金属の選択は事実上無数にあり、計算と実験を往復しながら探索が進む。

第二に、単相がどの温度域まで安定に保たれるのか、高温での相安定性の境界は組成ごとに評価が必要である。配置のエントロピーは単相を安定化する方向に働くが、混合エンタルピーや原子半径差といった因子も相形成に効くため、エントロピーだけで安定性は決まらない。

第三に、これら多元素ホウ化物の耐酸化性や高温機械特性のデータは、ZrB₂ のような既存の二ホウ化物に比べてまだ蓄積が浅い。高エントロピー化が耐酸化性をどう変えるかは、超高温用途を見据えるうえで鍵となる論点である。

設計の自由度を固体に閉じ込める

高エントロピー二ホウ化物は、ホウ素層を保ったまま金属層に多数の元素を共存させることで、超高温セラミックスの設計に新しい自由度を加えた材料群である。SPS は、単相化と緻密化という競合する目標を同時に達成する手段として、Gild や Luo らの最初の報告から還元粉末の緻密化まで、この領域の研究を支えてきた [1][2][3]。設計則の整理や高温特性の評価といった課題は残るが、組成探索とプロセス設計をつなぐ場として、研究は活発に続いている。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

高エントロピー二ホウ化物とは何か。
二ホウ化ジルコニウム(ZrB₂)などと同じ六方晶の層状構造を保ちながら、金属層に4〜5種の遷移金属(Hf・Zr・Ti・Ta・Nb・Mo など)をほぼ等量で混ぜ、一つの固溶体相として安定化させたホウ化物群を指す。ホウ素層は共有結合のまま残り、金属層を多数の元素が共有することによる高い配置のエントロピーが、複数の二元ホウ化物に分かれず単相を保つ駆動力になると考えられている。Gild らは2016年にこの材料群を最初に報告した [1]。
なぜ単相化と緻密化に SPS が向くのか。
複数の金属を一つの層に均一化するには高温が要る一方、ホウ化物はホウ素層の強い共有結合で原子拡散が遅く、高温長時間では粒成長や相分離が進みやすい。SPS は急速昇温と一軸加圧で高温保持を短く抑えられるため、単相化を進めつつ緻密化を同時に達成しやすい。Gild らは反応性ボールミルや還元法で得た粉末を SPS で単相かつ高密度に固められることを示した [1][2]。
粉末の作り方はどう違うのか。
代表的には、金属とホウ素源をボールミルで高エネルギー混合する反応性経路と、金属酸化物を炭化ホウ素・黒鉛で還元する硼炭素熱還元(borocarbothermal reduction)がある。後者では酸素を取り除きながら単相粉末を作りやすく、Gild らはこの還元粉末を SPS で緻密化した試料が、ボールミル経由のものより高い硬度を示すことを報告している [2]。

参考文献

  1. [1] Gild J, Zhang Y, Harrington T, Jiang S, Hu T, Quinn MC, Mellor WM, Zhou N, Vecchio K, Luo J. High-entropy metal diborides: A new class of high-entropy materials and a new type of ultrahigh temperature ceramics. Sci Rep. 2016;6:37946. DOI: 10.1038/srep37946
  2. [2] Gild J, Wright A, Quiambao-Tomko K, Qin M, Tomko JA, bin Hoque MS, Braun JL, Bloomfield B, Martinez D, Harrington T, Vecchio K, Hopkins PE, Luo J. Thermal conductivity and hardness of three single-phase high-entropy metal diborides fabricated by borocarbothermal reduction and spark plasma sintering. Ceram Int. 2020;46(5):6906-6913. DOI: 10.1016/j.ceramint.2019.11.186
  3. [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41:763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2