高エントロピー合金(HEA)の放電プラズマ焼結 — 粉末から多主元素合金を作る
高エントロピー合金(HEA)は、複数の主要元素をほぼ等量で混ぜ、高い配置のエントロピーで単相固溶体を安定化させようとする合金群である。メカニカルアロイングで作ったナノ結晶粉末を、放電プラズマ焼結(SPS)で短時間に緻密化する経路が広く用いられてきた。本稿は、なぜSPSがHEAに向くのかを、粒成長抑制と相安定の機序から公開総説をもとに整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- 高エントロピー合金
- メカニカルアロイング
合金設計の常識をひっくり返した発想
合金といえば、長らく「一つの主元素に少量の添加元素を加えるもの」だった。鉄に炭素を加えれば鋼、銅に錫を加えれば青銅。主役は一つで、脇役が性質を微調整する——それが合金設計の常識だった。
この常識に正面から挑んだのが、高エントロピー合金(HEA)である。Yehらは2004年、5種類前後の元素をほぼ等しい割合で混ぜるという発想を提示した。多数の元素が等量で混ざると配置のエントロピーが高くなり、複雑な金属間化合物ではなく、むしろ単純な固溶体相が安定化されうる——そう考えたのである [1]。この発想から、優れた強度・耐熱性・耐食性などを示す合金群が次々と報告され、材料科学の一大分野へと発展した。
本稿では、このHEAを「どう作るか」、とりわけメカニカルアロイングと放電プラズマ焼結(SPS)を組み合わせる経路に焦点を当てる。
溶かさずに混ぜる — メカニカルアロイング
HEAを作る方法は溶解・鋳造が代表的だが、もう一つ有力な経路が、粉末を使う固相プロセスである。その中核がメカニカルアロイングだ。
メカニカルアロイングでは、複数の元素粉末をボールミルに入れ、長時間にわたって機械的に混ぜる。粉末はボールに挟まれて変形し、破砕され、再び接合される——この過程を繰り返すうちに、元素が原子レベルで混ざり合い、ナノ結晶の固溶体粉末ができる [2]。
この手法の利点は、融点が大きく異なる元素どうしでも均一に混ぜやすいことにある。溶解法では、融点や密度の差が偏析(成分の片寄り)を招きやすいが、室温の固相反応であるメカニカルアロイングはその問題を避けやすい。さらに、得られる粉末がナノ結晶であるため、後の焼結で微細な組織を作る出発点になる [2][3]。
ただし、メカニカルアロイングで得られるのはあくまで「粉末」である。これを実用的な塊(バルク体)にするには、緻密化の工程が要る。ここでSPSの出番となる。
なぜSPSがHEAに向くのか
メカニカルアロイングで作ったナノ結晶のHEA粉末を緻密化する手段として、SPSが広く使われてきた。その理由は、SPSの「速さ」がHEAの弱点を補うからである。
HEAの粉末を緻密化するとき、二つのことを同時に避けたい。一つは粒成長、もう一つは相の分解だ。
第一の粒成長について。せっかくナノ結晶の粉末を作っても、長時間高温にさらせば結晶粒が粗大化し、微細組織の利点が失われる。SPSはパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、保持時間を数分に抑えて緻密化できる。短時間で済むため、粒成長を抑えたまま高密度のバルク体を得やすい [4][5]。
第二の相分解について。これがHEA固有の難所である。メカニカルアロイングで得た単相の固溶体は、必ずしも熱的に安定とは限らない。焼結中の加熱で、固溶体が第二相や金属間化合物へ分解してしまうことがある。Praveenらは、多主元素合金において、配置エントロピーだけでは相を完全には安定化できず、混合エンタルピーなどの因子が相形成に重要な役割を果たすことを示した。実際、銅を含む系では銅に富む相が、別の系ではシグマ相のような金属間化合物が、焼結後に現れることがある [3]。
SPSの低温・短時間焼結は、この相分解を抑える方向に働く。高温に長くさらさないことで、メカニカルアロイングで得た固溶体を、できるだけそのままバルク体へ持ち込もうとするわけだ [2][3]。
エントロピーだけが主役ではない
HEAの名の由来である「高いエントロピー」は、確かに単相固溶体を安定化する方向に働く。しかし、実際の相形成はそれだけでは決まらない。
混合エンタルピー、原子半径の差、各元素の結晶構造の好み——こうした複数の因子が組み合わさって、最終的にどんな相ができるかが決まる。配置エントロピーが大きくても、特定の元素対の混合エンタルピーが強く負であれば、その対が金属間化合物を作って分離してしまうこともある [3]。
この複雑さこそが、HEAの作製プロセスが重要になる理由だ。同じ組成でも、溶解・鋳造で作るか、メカニカルアロイングとSPSで作るかによって、得られる相や組織は変わりうる。プロセスは、組成と並ぶ「もう一つの設計変数」なのである [2]。
多元素の海を、固体に閉じ込める
高エントロピー合金は、「主元素は一つ」という合金設計の常識を覆し、多数の元素が等量で混ざり合う新しい材料空間を開いた。その材料空間を探索する有力な道具が、メカニカルアロイングとSPSの組み合わせである。
ボールミルが室温で多元素を混ぜてナノ結晶の固溶体を作り、SPSが急速焼結でそれを粒成長も相分解も抑えながら固体に閉じ込める——この二段構えが、溶解法では届きにくい組成・組織のHEAへの道を開く。エントロピー、エンタルピー、そしてプロセス。三者のせめぎ合いを設計しきった先に、まだ見ぬ特性を持つ多主元素合金が待っている。SPSは、その探索を加速する焼結技術として、HEA研究の一翼を担い続けている。
本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- 高エントロピー合金(HEA)とは何か。
- 従来の合金が一つの主元素に少量の添加元素を加えるのに対し、HEAは5種類前後の元素をほぼ等しい割合で混ぜる合金群である。多数の元素が混ざることによる高い配置のエントロピーが、複雑な金属間化合物ではなく単純な固溶体相を安定化させうるという考え方に基づく。優れた強度・耐熱性・耐食性などが報告されている [1]。
- なぜHEAをメカニカルアロイングとSPSで作るのか。
- メカニカルアロイングは、粉末をボールミルで繰り返し変形・破砕・接合させ、室温でナノ結晶の固溶体粉末を作る固相プロセスである。融点の大きく異なる元素も均一に混ぜやすい。この粉末を緻密な塊にする工程でSPSが使われ、短時間焼結によって粒成長を抑えつつ高密度のHEA塊を得られる [2][3]。
- SPSで作るHEAの課題は何か。
- メカニカルアロイング後に得られた単相固溶体が、焼結中の加熱で第二相や金属間化合物に分解することがある。配置エントロピーだけでは相を完全には安定化できず、混合エンタルピーなど他の因子も相形成に効くためだ。低温・短時間で緻密化して相変化を抑えることが、SPSを使う動機の一つになる [2][3]。
参考文献
- [1] Yeh JW, Chen SK, Lin SJ, Gan JY, Chin TS, Shun TT, Tsau CH, Chang SY. Nanostructured high-entropy alloys with multiple principal elements: Novel alloy design concepts and outcomes. Adv Eng Mater. 2004;6(5):299-303. DOI: 10.1002/adem.200300567
- [2] Vaidya M, Muralikrishna GM, Murty BS. High-entropy alloys by mechanical alloying: A review. J Mater Res. 2019;34(5):664-686. DOI: 10.1557/jmr.2019.37
- [3] Praveen S, Murty BS, Kottada RS. Alloying behavior in multi-component AlCoCrCuFe and NiCoCrCuFe high entropy alloys. Mater Sci Eng A. 2012;534:83-89. DOI: 10.1016/j.msea.2011.11.044
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
- [5] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-assisted sintering technology/spark plasma sintering: Mechanisms, materials, and technology developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409