Sintering Frontier焼結フロンティア
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グラフェン強化複合材の放電プラズマ焼結 — 二次元シートで亀裂を曲げる

グラフェンは炭素原子一層分の薄さしかない二次元シートで、面方向に極めて強い。これをセラミックスに分散させると、進む亀裂をシートが曲げ、橋渡しし、靱性を高める。問題は、薄いシートが高温で傷み、積み重なって凝集すること。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間焼結でこの弱点を抑える。本稿は、グラフェン-アルミナ複合材を起点に、亀裂偏向と分散の機序を公開研究から整理する。

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原子一層のシートが、亀裂を止める

グラフェンは、炭素原子が一層分の厚さで六角形の網目に並んだ二次元シートである。厚みは原子一個分しかないのに、面の方向には知られる材料のなかでも飛び抜けて強く、硬い。この「最も薄い強化相」をセラミックスの母相に分散させれば、脆さという弱点を補えるのではないか——グラフェン強化複合材は、こうした期待から研究されてきた [2]。

セラミックスは硬く軽く高温に強いが、脆い。小さな亀裂が一つ入ると、それが一気に走って突然壊れる。金属のように変形して衝撃を逃がす余地が乏しいためだ。ここにグラフェンの薄く広いシートを混ぜると、母相中を進む亀裂の前にシートが立ちはだかる。亀裂はシートを避けて進路を曲げ、あるいはシートに橋渡しされて、まっすぐ走れなくなる。破壊までに余分なエネルギーを使わされる分だけ、材料は壊れにくくなる [2]。

繊維やカーボンナノチューブと違って、グラフェンは「面」で効く。一次元の繊維が線で亀裂を橋渡しするのに対し、二次元のシートは広い面で亀裂の進路をかき乱す。この形の違いが、グラフェン強化の特徴を生む。

二つの壁 — 積層と熱劣化

期待は大きいが、グラフェンもまた扱いにくい強化相である。二つの壁が立ちはだかる。

第一の壁は凝集である。グラフェンのシートどうしは、ファンデルワールス力で互いに引き合い、トランプのように重なって積層した塊になりやすい。いったん積み重なると、ばらして一枚ずつ母相に散らすのは難しい。凝集したグラフェンの塊は、母相のなかで欠陥として働く。荷重がそこに集中し、亀裂の起点になる。強化のために加えたはずのグラフェンが、分散に失敗すると逆に材料を弱めてしまう [2]。

第二の壁は熱劣化である。グラフェンは高温に弱い。とりわけ酸素のある雰囲気では、高温で構造が壊れたり、燃えて炭酸ガスとして失われたりする。通常のセラミックス焼結に必要な高温・長時間にさらせば、せっかく分散させたシートが損なわれてしまう。緻密化に高温が要る一方、グラフェンはその高温に耐えられない——この矛盾が、複合材化を阻んできた [2][3]。

低温焼結が、薄いシートを守る

放電プラズマ焼結(SPS)は、この熱劣化の壁を下げる手段となった。SPS は黒鉛ダイへのパルス通電によるジュール加熱と一軸加圧を組み合わせ、通常の焼結より低い温度・短い時間で緻密化できる。外部加圧が緻密化の駆動力を補うため、母相を固めるのに必要な温度自体を下げられる [3]。

高温に長くさらさないこと——これがグラフェンを守る。シートの構造を保ったまま母相を緻密化できれば、強化相としての性能を引き出せる。さらに SPS には、副次的な利点もある。グラフェンはしばしば酸化グラフェンの形で混合に使われるが、SPS の還元的な環境と通電・加熱のなかで、酸化グラフェンが焼結中に部分的に還元され、導電性のあるグラフェンへ戻ることが報告されている。緻密化と還元を一工程でこなせるわけだ [2]。

この可能性を具体的に示したのが、Liu、Yan、Jiang らの研究である。彼らはグラフェンナノプレートレット(薄い多層グラフェン)をアルミナの母相に分散させ、SPS で緻密化した。その結果、グラフェンを加えない純アルミナに比べて破壊靱性を高めることに成功した。低温・短時間で固められる SPS が、薄いシートを傷めずに複合材を作る道を開くことを示す研究である [1]。

亀裂を「曲げる」というメカニズム

グラフェンが靱性を高める仕組みは、繊維強化とは少し異なる。中心にあるのは、亀裂偏向と亀裂橋渡しという二つの働きだ。

亀裂偏向では、母相を進んできた亀裂が広いシートにぶつかると、まっすぐ進めず、シートを迂回して進路を曲げる。亀裂の経路が長く曲がりくねるほど、破壊に要するエネルギーは増える。シートが薄く広いほど、また母相中によく分散しているほど、この偏向の効果は大きくなる [2]。

亀裂橋渡しでは、亀裂がいったん開いても、その両岸をグラフェンのシートがつなぎとめる。シートが破れずに荷重を支えれば、亀裂はそれ以上開けない。シートと母相の結合が適度に強く、シート自身が丈夫であるほど、橋渡しの効果は活きる [2]。

これらが効くかどうかは、結局グラフェンが母相中にどれだけよく散っているかにかかっている。凝集していては、偏向も橋渡しも局所的にしか起こらず、塊そのものが欠陥になる。亀裂を曲げる強化機構を発揮させる前提として、均一分散が要るのである [1][2]。

分散をどう作り込むか

SPS が熱劣化の壁を下げても、もう一つの壁——積層・凝集——は別途、克服しなければならない。焼結でいくらシートを守っても、出発時点で積み重なっていては意味がない。

分散は、焼結より前の粉末調製の段階で作り込まれる。グラフェンや酸化グラフェンを溶媒中に分散させ、超音波で積層をほぐし、母相粉末と均一に混ぜる。酸化グラフェンは表面に酸素を含む官能基を持つため水などに分散しやすく、混合の出発点として使いやすい。混合後に乾燥・成形し、SPS にかける——この一連の流れの質が、最終的な分散を左右する [2]。

ここで重要なのは、分散と焼結が補い合う関係にある点だ。良い分散を作り、それを SPS の低温・短時間焼結で固定する。さらに、酸化グラフェンを使った場合は焼結中の還元でグラフェンの機能を取り戻す——分散・緻密化・還元が一連の工程でかみ合って初めて、グラフェンの優れた特性が複合材に活きる。どれか一つでも欠ければ、期待した効果は得られない [1][2]。

二次元という新しい強化相を、固体に閉じ込める

グラフェンは、原子一層分の薄さでありながら面方向に極めて強い、これまでにない形の強化相である。その二次元のシートは、母相中を進む亀裂を曲げ、橋渡しして、脆いセラミックスの靱性を高める。だが、薄いがゆえに積層しやすく、高温に弱いという二つの壁が、複合材化を難しくしてきた。

SPS は、低温・短時間焼結によって熱劣化の壁を下げ、薄いシートを傷めずに緻密化する道を開いた。Liu らのグラフェン-アルミナ複合材は、その可能性を靱性の向上として実証した [1]。だが SPS だけでは足りない。粉末調製の段階で均一な分散を作り込み、それを SPS の低温焼結で守り抜く——分散と低温焼結という二つの鍵を同時に回したとき、グラフェンは初めて二次元強化相の本領を発揮する。Porwal らの総説が整理するように、この分野は分散技術と焼結技術の両輪で進んできた [2][3]。最も薄い強化相を固体に閉じ込める難題に、SPS は有力な答えの一つを与えている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

グラフェンはなぜセラミックスの強化相に向くのか。
グラフェンは炭素原子が一層分の厚さで六角形に並んだ二次元シートで、面の方向に極めて高い強度と剛性を持つ。薄く広いシート状なので、母相中を進む亀裂の前に立ちはだかりやすい。亀裂はシートを避けて進路を曲げたり、シートに橋渡しされたりして、破壊までに多くのエネルギーを使う。こうして脆いセラミックスの靱性を高められる [2]。
グラフェン強化複合材の作製は何が難しいのか。
二つの難しさがある。第一に凝集。薄いシートはファンデルワールス力で互いに重なり合い、積層した塊になりやすい。塊は母相中の欠陥となり、かえって強度を下げる。第二に熱劣化。グラフェンは高温・酸化雰囲気で構造が壊れたり燃え去ったりする。通常の高温焼結ではシートが損なわれてしまう [2][3]。
SPSがグラフェン強化に向くのはなぜか。
SPS はパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、通常より低い温度・短い時間で緻密化できる。高温に長くさらさないため、薄いグラフェンシートを傷めずに母相を固められる。Liu らは SPS によってグラフェンナノプレートレットを分散させたアルミナ複合材を作り、靱性を高めることを示した [1]。

参考文献

  1. [1] Liu J, Yan H, Jiang K. Mechanical properties of graphene platelet-reinforced alumina ceramic composites. Ceram Int. 2013;39(6):6215-6221. DOI: 10.1016/j.ceramint.2013.01.041
  2. [2] Porwal H, Grasso S, Reece MJ. Review of graphene-ceramic matrix composites. Adv Appl Ceram. 2013;112(8):443-454. DOI: 10.1179/174367613X13764308970581
  3. [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2