核融合炉プラズマ対向材の放電プラズマ焼結 — タングステンと銅を、熱と中性子に耐える壁に組む
核融合炉で一億度のプラズマに直接面する壁には、溶けにくく弾かれにくいタングステンが要る。だが熱を逃がすには、その背後を銅で冷やさねばならない。融点も熱膨張も大きく異なる二つの金属を、割れずに接合する——この難所に、低温・短時間で組織を作り込む放電プラズマ焼結(SPS)がどう効くか。AutissierやMatějíčekらの公開研究をもとに機序から整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- タングステン
- プラズマ対向材
一億度に面する壁
核融合炉は、太陽の内部で起きている反応を地上で再現しようとする装置である。重水素と三重水素を一億度級のプラズマにし、強い磁場で宙に浮かせて閉じ込める。だが、どんなに巧みに磁場で閉じ込めても、プラズマの熱と粒子の一部は炉の内壁に届く。その最前線で熱と粒子を受け止める材料を、プラズマ対向材(plasma facing material)と呼ぶ。
ここに求められる条件は過酷だ。プラズマの熱負荷に溶けずに耐えること。プラズマに叩かれて材料表面の原子が弾き飛ばされる現象(スパッタリング)が小さいこと。そして、燃料である水素やヘリウムを材料内部に溜め込まないこと。これらを高い水準で満たす金属として選ばれてきたのが、タングステンである [1][3]。
タングステンは、全金属のなかで最も融点が高い(約3400°C)。スパッタ率も低く、プラズマに削られにくい。最前線の壁にこれ以上ふさわしい金属は少ない。
タングステンの厄介さ
ただし、タングステンは扱いやすい金属ではない。
硬くてもろく、室温付近では衝撃に弱い。高温にさらされて結晶が再結晶・粗大化すると、粒界がさらにもろくなり、熱衝撃で割れやすくなる。さらに、緻密に焼き固めるには融点が高いぶん2000°Cを超える高温が要り、その高温自体が結晶の粗大化を招くという悪循環がある [1][3]。
つまりタングステンの焼結では、緻密化を進めながら、いかに結晶を細かいまま保つかが勝負になる。組織が微細なほど、もろさと熱衝撃への弱さを抑えられるからだ。Autissierらは、純タングステンと、酸化物などを添加したタングステンをSPSで固化し、添加が焼結や組織に及ぼす影響を調べている [3]。
熱を逃がすには、銅が要る
タングステンは熱に耐える。だが、受け取った熱を遠くへ逃がす能力——熱伝導率——では、銅に大きく劣る。
プラズマからの熱は、対向材を素通りさせず、その背後の冷却水まで速やかに運び去らねばならない。さもなければ表面温度が上がりすぎて溶ける。そこで、熱に耐えるタングステンを表面に、熱を逃がす銅をその裏に置く、という二層の発想が生まれる。
ところが、ここに新たな難所がある。タングステンと銅は、融点も熱膨張率も大きく異なる。加熱されると銅はタングステンよりずっと大きく膨らむ。両者をただ貼り合わせただけでは、炉が熱くなり冷えるたびに、境界面に応力が集中し、やがて剥がれてしまう。
傾斜材という解
この界面の応力を和らげる工夫が、傾斜機能材料(FGM)である。タングステンから銅へ、組成を一気に切り替えるのではなく、タングステンが多い層、半々の層、銅が多い層、と段階的に変化させる。膨張差を一点に集中させず、厚み方向にならして逃がすのである。
Yusefiらは、タングステンと銅の比率を変えた三層をSPSで一体成形し、W-Cu傾斜複合材を作製している。組成の異なる粉末を積層してダイスに充填し、一度の通電・加圧で同時に固めることで、層間がなめらかにつながった一体の材料が得られる [2]。
SPSが効く理由
放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [4]。プラズマ対向材にとって、この手法は次の点で都合がよい。
- より低温・短時間で緻密化できる:加圧が物質移動を助けるため、常圧焼結より低い温度でタングステンを緻密化できる。高温保持が短いほど結晶の粗大化を抑えられ、もろさと熱衝撃への弱さを軽減できる [1][3]。
- 微細組織と添加物を保てる:再結晶を抑えて細かい結晶を残し、もろさを抑える。酸化物などの分散粒子を粗大化させずに保つことで、強度や再結晶抵抗を高める設計につながる。Matějíčekらは、SPSタングステンの機械特性に加え、中性子照射を模した条件での挙動や熱衝撃性能を調べている [1]。
- 傾斜材を一体成形できる:組成の異なる層を一度の通電で同時に固められるため、W-Cu傾斜材のように界面を持つ構造を、継ぎ目を弱点にせず作り込める [2]。
耐える層と、逃がす層を一体に
核融合炉の壁は、相反する二つの役目を一つの部材に負わせる。プラズマの熱と粒子を受け止めて溶けない層と、その熱を冷却水へ逃がす層。前者にはタングステン、後者には銅——性質の異なる金属を、割れずにつなぐことが、対向材設計の核心である。
SPSは、タングステンを微細な組織のまま低温で緻密化し、組成の異なる層を継ぎ目なく一体成形する手段として、公開研究で検討されてきた。中性子照射に長くさらされる環境で材料がどう変化するかは、なお研究が積み重ねられている段階にある。最前線で耐える層と、背後で熱を逃がす層——核融合の壁づくりは、極限環境の物理とプロセス設計が交わる領域であり続けている。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- なぜプラズマ対向材にタングステンが使われるのか。
- 核融合炉の内壁は、一億度級のプラズマに最も近い。ここでは、強烈な熱負荷に溶けずに耐えること、プラズマに叩かれて材料が削れる現象(スパッタリング)が小さいこと、水素やヘリウムを溜め込みにくいことが求められる。タングステンは全金属で最も融点が高く、スパッタ率が低いため、この最前線の壁の主役とされる。一方で硬くてもろく、再結晶で割れやすいため、焼結時の組織制御が課題になる [1][3]。
- タングステンと銅を組み合わせるのはなぜか。
- タングステンは熱に耐えるが、熱を遠くへ逃がす能力(熱伝導)は銅に劣る。プラズマからの熱を冷却水まで運ぶには、タングステンの背後を、熱伝導の高い銅で支える必要がある。ただし両者は融点も熱膨張率も大きく異なり、単純に接合すると冷却・加熱の繰り返しで界面に応力が集中して剥がれる。そこで組成を段階的に変える傾斜材(W-Cu FGM)で応力をならす設計が検討されており、SPSはその一体成形に用いられている [2]。
- SPSがプラズマ対向材の作製で果たす役割は何か。
- タングステンは融点が高く、緻密化に通常2000°C超の高温が要るが、高温では結晶が粗大化し、再結晶でもろくなる。SPSはパルス通電と加圧で、より低い温度・短い時間で緻密化できるため、微細な結晶組織を保ちやすい。さらに組成の異なる層を一度の通電で同時に固められるため、W-Cu傾斜材の一体成形にも向く。Matějíčekらは、SPSで作ったタングステンの機械特性や照射挙動を調べている [1][2]。
参考文献
- [1] Matějíček J, Veverka J, Yin C, Vilémová M, Terentyev D, Wirtz M, Gago M, Dubinko A, Hadraba H. Spark plasma sintered tungsten – mechanical properties, irradiation effects and thermal shock performance. J Nucl Mater. 2020;542:152518. DOI: 10.1016/j.jnucmat.2020.152518
- [2] Yusefi A, Sharifian M, Mohammadi Y, Najmoddin N. Fabrication of three layered W-Cu functionally graded composite via spark plasma sintering. Fusion Eng Des. 2017;114:172-176. DOI: 10.1016/j.fusengdes.2016.11.013
- [3] Autissier E, Richou M, Minier L, Le Flem M. Spark plasma sintering of pure and doped tungsten as plasma facing material. Phys Scr. 2014;T159:014034. DOI: 10.1088/0031-8949/2014/t159/014034
- [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2