ダイヤモンド-金属複合材(放熱)の放電プラズマ焼結 — 界面の橋を架けて熱を流す
ダイヤモンドは熱を最もよく伝える固体で、銅に分散させれば理想的な放熱材になる——はずだった。だが両者は化学的になじまず、界面で熱が跳ね返されて性能が出ない。放電プラズマ焼結(SPS)は、界面に炭化物の橋を架ける表面処理と組み合わせ、この壁を越える。本稿は、Ti被覆ダイヤモンド/銅複合材を中心に、界面熱抵抗を下げる機序を公開研究から整理する。
- 放電プラズマ焼結
- SPS
- ダイヤモンド複合材
- 放熱材料
最高の熱伝導体と、なじまない金属
電子デバイスは、年々小さく、速く、強力になっている。その代償として、狭い面積から大量の熱が出る。この熱をいかに素早く逃がすかが、デバイスの性能と寿命を左右する。冷やしきれずに温度が上がれば、動作が不安定になり、部品が劣化する。放熱材料の良し悪しが、半導体の足を引っ張る時代になった。
理想の放熱材を考えるとき、二つの性質が要る。熱をよく伝えること、そして熱で膨らみすぎないことだ。後者がなぜ重要かというと、放熱材と半導体チップの熱膨張の度合いが食い違うと、温度が上下するたびに境目に応力がかかり、反りや剥がれを招くからである。
ここで注目されるのがダイヤモンドである。ダイヤモンドは固体のなかで最も熱を伝えやすく、しかも熱で膨らみにくい。これを、熱伝導率の高い銅の母相に分散させれば、両者のいいとこ取りができる——熱伝導率が高く、熱膨張が半導体に近い、理想的な放熱材になるはずだった [1]。
ところが、話はそう単純ではなかった。ダイヤモンド(炭素)と銅は、化学的にまるでなじまないのである。
界面で跳ね返される熱
ダイヤモンドと銅を単に混ぜて固めても、期待した熱伝導率は出ない。原因は、両者の境目——界面——にある。
炭素と銅は互いを濡らさず、化学結合をつくらない。両者を押し付けても、原子レベルでは隙間や不連続が残る。熱は、こうした界面を渡るときにせき止められる。これを界面熱抵抗という。個々のダイヤモンドがいくら熱を伝えても、銅へ受け渡す境目で熱が跳ね返されては、複合材全体としては熱を流せない [1][2]。
しかも、放熱材ではダイヤモンドの体積割合を高くする(半分前後にする)ことが多い。ダイヤモンドが多いほど熱を伝える経路は増えるが、その分だけ界面の総面積も増える。界面熱抵抗が大きいままだと、ダイヤモンドを増やしたのにかえって性能が頭打ちになる、という逆説さえ起こる。界面をどう扱うかが、ダイヤモンド/銅複合材の成否を握る中心問題なのである [1]。
界面に橋を架ける — 炭化物層という仲立ち
界面の壁を越える定石は、ダイヤモンドと銅のあいだに「橋」を架けることである。両者が直接なじまないなら、両方となじむ第三の物質を仲立ちに挟めばよい。
その役を担うのが、炭化物をつくる金属だ。チタン、クロム、タングステンなどがよく使われる。たとえばダイヤモンドの表面をチタンで薄く被覆しておくと、加熱中にチタンが炭素と反応して炭化チタン(TiC)の層をつくる。この層は、片側でダイヤモンドの炭素と強く結びつき、もう片側で銅となじむ。結果として、ダイヤモンド/炭化物/金属/銅という連続した構造ができ、熱が界面を渡りやすくなる [1]。
Che、Zhang、Chen らは、まさにこの経路を SPS で実現した。彼らはダイヤモンド粒子をチタンで被覆し、銅-チタン粉末と混ぜて SPS にかけた。焼結中にダイヤモンド表面に炭化チタン層が形成され、ダイヤモンドと銅をつなぐ橋となった。その結果、被覆しない場合に比べて複合材の熱伝導率が大きく高まったことを示した。界面に炭化物の橋を架けるという戦略が、熱を流す鍵であることを実証した研究である [1]。
なぜSPSがこの複合材に向くのか
界面の橋を架ける——この狙いを実現するうえで、SPS は都合のよい焼結法である。理由は、SPS の「速さ」と「加圧」にある。
第一に、炭化物層の厚さを制御しやすい。界面の炭化物層は、薄すぎれば橋として機能せず、厚すぎれば今度はその層自体が熱を伝えにくくなって逆効果になる。ちょうどよい厚さの窓は狭い。SPS はパルス通電による急速昇温で、目標温度に短時間で到達して保持時間を数分に抑えられる。長時間の加熱で炭化物層が伸びすぎるのを避けつつ、橋を架けられる [1][3]。
第二に、加圧が緻密化を助ける。銅は柔らかいが、硬いダイヤモンドが多く混ざった粉末は固まりにくい。SPS の一軸加圧は、銅をダイヤモンド粒子のあいだに押し込んで隙間を詰め、空隙を減らす。空隙は熱を伝えないため、緻密化そのものが熱伝導率を上げる方向に働く [1]。
界面処理の工夫は、ダイヤモンド側を被覆する以外にもある。Bai らは、ダイヤモンド粉末そのものに前処理を施してから銅と複合化し、熱伝導率を高める手法を示した。Yang らは、銅にチタンを加えた銅-チタン母相を使い、SPS で炭化物界面を形成して熱伝導率を向上させた。出発粉末のどこに炭化物形成元素を仕込むかには複数の流儀があるが、いずれも狙いは同じ——界面に橋を架けて熱を流すことである [2][3]。
熱膨張という、もう一つの設計軸
放熱材に求められるのは、熱伝導率だけではない。半導体チップとの熱膨張のなじみも同じくらい重要だ。
純粋な銅は熱をよく伝えるが、熱で大きく膨らむ。半導体チップは膨らみにくいので、両者を貼り合わせると温度変化のたびに境目に応力がたまり、やがて反りや剥がれを起こす。そこで、膨らみにくいダイヤモンドを銅に混ぜると、複合材全体の熱膨張を抑えられる。ダイヤモンドの割合を調整することで、半導体に近い熱膨張に合わせ込めるのである [1]。
ここでも界面が効く。界面の結合が弱いと、温度が上下するたびにダイヤモンドと銅がずれて、熱膨張を抑える効果も、熱を伝える効果も損なわれる。炭化物の橋でしっかり結びつけることは、熱伝導と熱膨張の両面でメリットをもたらす。界面設計は、放熱材の二つの要求を同時に満たすための要なのである [1][2]。
界面を制する者が、放熱を制する
ダイヤモンドは最高の熱伝導体でありながら、銅となじまないという一点ゆえに、その力を放熱材として引き出すのが難しい材料だった。鍵は、つねに界面にある。ダイヤモンドと銅の境目で熱が跳ね返される限り、いくらダイヤモンドを増やしても性能は伸びない。
界面に炭化物の橋を架けること——ダイヤモンド表面の被覆や母相への炭化物形成元素の添加によって、ダイヤモンド/炭化物/銅という連続構造をつくること——が、界面熱抵抗を下げる答えである。SPS は、急速・短時間・加圧という特徴によって、この橋を適切な厚さで形成しつつ母相を緻密化する焼結法として、ダイヤモンド/金属複合材の作製に適している。Che らの Ti 被覆ダイヤモンド/銅複合材は、その有効性を熱伝導率の向上として示した [1]。発熱する電子デバイスを冷やすという現実の課題に、界面を制する材料設計と SPS が、有力な答えの一つを与えている。
本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。
よくある質問
- なぜダイヤモンドと金属を組み合わせて放熱材を作るのか。
- ダイヤモンドは固体のなかで最も熱を伝えやすく、しかも熱で膨らみにくい。一方、銅は熱をよく伝えるが膨らみやすい。両者を組み合わせると、熱伝導率が高く、かつ熱膨張が半導体チップに近い放熱材を狙える。発熱する電子デバイスを冷やしつつ、温度変化による反りや剥がれを抑える材料として期待される [1]。
- ダイヤモンド/銅複合材の作製は何が難しいのか。
- ダイヤモンド(炭素)と銅は化学的になじまず、互いに濡れず結合しにくい。両者の境目(界面)で熱の流れがせき止められ、界面熱抵抗が大きくなる。すると、個々の素材がいくら熱を伝えても、複合材全体としては期待ほど熱を流せない。界面で熱が跳ね返されることが、最大の壁である [1][2]。
- SPSはこの界面の壁をどう越えるのか。
- 界面に橋を架けるのが定石である。ダイヤモンド表面をチタンなどで薄く被覆しておくと、焼結中にチタンが炭素と反応して炭化物(TiC)の層をつくり、ダイヤモンドと銅をつなぐ。SPS の急速・短時間加熱は、この炭化物の橋を適切な厚さで形成しつつ、銅母相を緻密化するのに向く。Che らはこの経路で熱伝導率を高めている [1]。
参考文献
- [1] Che QL, Zhang JJ, Chen XK, Ji YQ, Li YW, Wang LX, Cao SZ, Guo L, Wang Z, Wang SH, Zhang YF, Jiang YG. Spark plasma sintering of titanium-coated diamond and copper-titanium powder to enhance thermal conductivity of diamond/copper composites. Mater Sci Semicond Process. 2015;33:67-75. DOI: 10.1016/j.mssp.2015.01.041
- [2] Bai H, Ma N, Lang J, Zhu C, Ma Y. Thermal conductivity of Cu/diamond composites prepared by a new pretreatment of diamond powder. Compos Part B Eng. 2013;52:182-186. DOI: 10.1016/j.compositesb.2013.04.017
- [3] Yang W, Sun L, Bai S, Li Y. Thermal conductivity of Cu-Ti/diamond composites via spark plasma sintering. Diam Relat Mater. 2019;94:37-42. DOI: 10.1016/j.diamond.2019.02.014