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銅・銅合金(Cu基)の放電プラズマ焼結 — 導電率と強度を両立させる緻密化

銅は高い電気・熱伝導率を持つ一方、軟らかく強度に乏しい。析出強化や粒子分散で強くすると導電率が落ちやすく、両立が難しい。粉末冶金で微細組織を作り込む経路が有力だが、表面酸化と粒成長が壁になる。放電プラズマ焼結(SPS)は短時間・低温で銅粉を緻密化し、組織と特性のせめぎ合いを設計する手段として研究されてきた。本稿はその機序を公開総説をもとに整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
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軟らかさと引き換えの導電率

銅は、電気と熱をよく通す金属の代表である。配線、放熱板、電極——電子機器の内側を支える縁の下の素材は、たいてい銅でできている。なぜそんなに通すのかといえば、銅の自由電子が母相の中を散乱されずに動きやすいからだ。

ところが、この「通しやすさ」は「軟らかさ」と表裏一体である。純銅は強度に乏しく、力がかかる部材にそのままは使いにくい。そこで合金元素を加えたり、硬い相を析出させたりして強くするのだが、ここで困ったことが起きる。格子に溶け込んだ不純物原子や、内部に生じた歪みが、せっかく動きやすかった電子を散乱させ、導電率を下げてしまうのだ [1]。

強度と導電率。この二つを高い水準で両立させること——それが銅合金設計の永遠の課題であり、本稿の主題でもある。

純度を保ったまま、どう強くするか

強度と導電率のせめぎ合いをくぐり抜ける道は、いくつかある。共通する発想は、「母相の銅はできるだけ純粋に保ちつつ、別のしくみで強くする」というものだ。

一つは析出強化である。Cu–Cr や Cu–Zr のように、ごく少量の元素を加えて微細な析出物を作り、これが転位の動きを止めて強度を上げる。元素の多くは析出物として母相から出ていくため、母相自体は比較的純粋に保たれ、導電率の低下を抑えられる [1]。

もう一つは分散強化である。酸化物やタングステンといった硬い粒子を、銅母相の中に均一にばらまく。母相に元素を溶かし込まないため導電率を保ちやすく、分散粒子が強度と耐熱性を担う。いずれの道でも鍵になるのは、「強化相を微細かつ均一に分布させ、母相を純粋に保つ」という組織制御である [1][2]。

この組織を作り込むうえで、溶解・鋳造よりも自由度が高いのが粉末冶金だ。そして粉末を緻密な塊にする工程で、SPS が力を発揮する。

酸化膜という壁を越える

銅粉を焼き固めるとき、最初に立ちはだかるのが表面の酸化膜である。

銅の粉末は表面に薄い酸化銅の膜をまといやすい。この膜は、焼結のときに粉末どうしをつなぐ原子の拡散を妨げ、緻密化を阻む。従来の長時間焼結では、高温に保つあいだに粒成長が進み、せっかくの微細組織が粗大化してしまう問題もあった [1]。

SPS は、この二つの壁に同時に効く。パルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、低温・短時間で銅粉を高密度化する。加圧が粉末間の接触を強め、急速加熱が緻密化を一気に進めるため、高温に長くさらす必要がない。結果として、粒成長を抑えたまま緻密な銅バルク体が得られ、微細組織と高い導電率を残しやすい [1][3]。

原料粉の純度、粒径、形状、そして加圧・昇温の条件——これらが緻密化の度合いと最終組織を大きく左右することが、SPS の総説で整理されている。銅は熱・電気をよく通すため、SPS の通電・発熱の振る舞いも他の材料と異なり、条件の作り込みが重要になる [1]。

分散強化銅という応用

SPS が銅で力を発揮する代表例が、分散強化された銅複合材である。

W–Cu(タングステン–銅)複合材は、タングステンの高い耐熱性・低い熱膨張と、銅の高い導電率を組み合わせた材料で、放熱や電気接点の分野で使われる。ところがタングステンと銅は互いにほとんど溶け合わず、緻密化しにくい。この系で、ナノサイズの銅粉を加えると緻密化が促され、SPS によって高密度かつ微細な組織が得られることが報告されている。微細な銅が粒子間の隙間を埋め、低温での緻密化を助けるためだ [2]。

ここでも効いているのは、SPS の「低温・短時間」という性質である。高温に長くさらせばタングステン粒子や銅母相が粗大化し、特性が損なわれる。短時間焼結はそれを避け、分散粒子と母相の両方を微細に保つ。組織の微細さこそが、強度・導電率・耐熱性をまとめて引き上げる土台になる [2][4]。

通すことと、耐えること

銅は、電子を通すという一点で他の金属を圧倒する。しかしその長所は軟らかさと隣り合わせで、強くしようとすれば導電率が逃げていく——銅の利用は、つねにこのトレードオフとの交渉だった。

粉末冶金と SPS は、その交渉に新しい手札を加える。母相の銅を純粋に保ちながら、微細な析出物や分散粒子で強化し、それを粒成長させずに緻密な固体へと閉じ込める。酸化膜という壁を低温短時間で越え、組織を作り込む——この一連の流れが、強度と導電率を高い水準で両立させる道を開く。通すことと耐えることを同時に満たす銅へ。SPS は、その設計を支える緻密化技術として銅合金研究に組み込まれている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

なぜ銅は強くすると導電率が落ちやすいのか。
純銅は自由電子が動きやすく導電率が高いが、軟らかい。強くするには合金元素を固溶させたり第二相を析出させたりするが、格子に入った不純物原子や歪みは電子を散乱させ、導電率を下げる。強度と導電率は多くの場合トレードオフの関係にあり、微細な析出物や分散粒子で母相をできるだけ純粋に保ちつつ強化する設計が重要になる [1]。
銅の緻密化で SPS は何を解決するのか。
銅粉の表面には酸化膜ができやすく、これが焼結時の原子拡散を妨げて緻密化を阻む。SPS はパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、低温・短時間で高密度化できる。短時間焼結は粒成長を抑え、微細組織と高い導電率を残しやすい。原料粉の純度・粒径や加圧条件が緻密化を大きく左右することが総説で整理されている [1]。
分散強化銅とはどういう材料か。
酸化物やタングステンなどの硬い粒子を銅母相に均一に分散させ、母相の純度を保ったまま強度や耐熱性を高めた複合材を指す。SPS は母相の銅を低温短時間で緻密化しながら分散粒子の粗大化を抑えやすく、W–Cu 複合材ではナノ銅の添加が緻密化を促す効果も報告されている [2]。

参考文献

  1. [1] Abedi M, Asadi A, Vorotilo S, Mukasyan AS. A critical review on spark plasma sintering of copper and its alloys. J Mater Sci. 2021;56:19421-19455. DOI: 10.1007/s10853-021-06556-z
  2. [2] Madhur V, Srikanth S, Annamalai AR, Muthuchamy A, Agrawal DK, Jen CP. Effect of nano copper on the densification of spark plasma sintered W–Cu composites. Nanomaterials. 2021;11(2):413. DOI: 10.3390/nano11020413
  3. [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2
  4. [4] Guillon O, Gonzalez-Julian J, Dargatz B, Kessel T, Schierning G, Räthel J, Herrmann M. Field-assisted sintering technology/spark plasma sintering: Mechanisms, materials, and technology developments. Adv Eng Mater. 2014;16(7):830-849. DOI: 10.1002/adem.201300409