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カーボンナノチューブ強化複合材の放電プラズマ焼結 — 分散と低温焼結が鍵を握る

カーボンナノチューブ(CNT)は極めて高い強度を持ち、セラミックスや金属の強化相として期待されてきた。だが、束になって固まる凝集と、高温で壊れる熱的弱さが、長く実用化を阻んだ。放電プラズマ焼結(SPS)は低温・短時間焼結でCNTを傷めずに緻密化する道を開いた。本稿は、ZhanらのCNT-アルミナ複合材を起点に、分散と低温焼結という二つの鍵をCho/Boccacciniらの公開研究から整理する。

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最強の繊維、しかし扱いにくい

カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子が筒状に結合したナノ構造である。引張強度と弾性率は知られる材料のなかでも飛び抜けて高く、しかも軽い。この「最強クラスの繊維」をセラミックスや金属の母相に分散させれば、亀裂を橋渡しして靱性を高め、強度や剛性を補い、さらには電気・熱の伝導性まで付与できる——CNT を強化相とする複合材は、こうした期待を背負って研究されてきた [2]。

ところが、期待ほどには成果が出ない時期が長く続いた。CNT は、その優れた特性とは裏腹に、複合材の強化相としては極めて扱いにくい材料だったからである。初期の研究では、CNT を加えても靱性が思うように上がらず、むしろ下がることさえあった。

その理由は、CNT 固有の二つの壁にあった。分散の難しさと、熱的な弱さである。

二つの壁 — 凝集と熱劣化

第一の壁は分散である。CNT どうしは互いに強く引き合い、束(バンドル)になって絡まりやすい。母相のなかに一本ずつばらして均一に散らすのは難しく、放っておけば塊になる。凝集した CNT の塊は、母相のなかで欠陥として働く。荷重がそこに集中し、亀裂の起点になる。強化相として加えたはずの CNT が、分散に失敗すると逆に材料を弱めてしまうのである [2]。

第二の壁は熱劣化である。CNT は高温に弱い。通常のセラミックス焼結に必要な高温・長時間にさらされると、CNT の筒状構造が壊れたり、母相の元素と反応して別の物質に変わったりする。せっかく分散させても、焼結の過程で CNT 自体が損なわれては、強化相としての役割を果たせない。

緻密な複合材を作るには高温が要る。しかし CNT はその高温に耐えられない。この矛盾が、CNT 強化複合材の実用化を長く阻んできた [2][3]。

低温焼結という突破口

放電プラズマ焼結(SPS)は、この熱劣化の壁を越える突破口となった。SPS は黒鉛ダイへのパルス通電によるジュール加熱と一軸加圧を組み合わせ、通常の焼結より低い温度・短い時間で緻密化できる。外部加圧が緻密化の駆動力を補うため、母相を固めるのに必要な温度自体を下げられるのである [3]。

高温に長くさらさないこと——これが CNT を守る。CNT の構造を保ったまま母相を緻密化できれば、強化相としての性能を引き出せる。

この可能性を決定的に示したのが、Zhan、Kuntz、Wan、Mukherjee らの研究である。彼らは単層カーボンナノチューブをナノ結晶アルミナの母相に分散させ、SPS によって1150°Cという比較的低い温度で緻密化した。その結果、純粋なナノ結晶アルミナに対して破壊靱性を大きく高めることに成功した。低温・短時間で固められる SPS が、CNT を傷めずに複合材を作る道を開いたことを示す、この分野の節目となる研究である [1]。

分散をどう作り込むか

SPS が熱劣化の壁を下げても、もう一つの壁——分散——は別途、克服しなければならない。焼結でいくら CNT を守っても、出発時点で凝集していては意味がない。

分散は、焼結より前の粉末調製の段階で作り込まれる。CNT を母相粉末と混ぜる際、溶媒中での超音波処理や、CNT 表面の化学的な処理、特殊な混合手法などが用いられる。狙いは、CNT の束をほぐし、母相粒子のあいだに一本ずつ行き渡らせることだ。Cho、Boccaccini、Shaffer らは、CNT を含むセラミック基複合材の総説のなかで、分散の質が複合材の特性を大きく左右することを整理している。均一に分散できれば靱性や強度が向上するが、凝集が残れば期待した効果は得られない [2]。

ここで重要なのは、分散と焼結が補い合う関係にある点だ。良い分散を作り、それを SPS の低温・短時間焼結で固定する——両者がそろって初めて、CNT の優れた特性が複合材に活きる。どちらか一方では足りない。分散だけ良くても高温焼結で CNT が壊れれば台無しだし、低温で固めても凝集していれば欠陥が残る [1][2]。

二つの鍵を、同時に回す

カーボンナノチューブは、最強クラスの強化相でありながら、凝集と熱劣化という二つの壁ゆえに長く扱いあぐねられてきた材料である。SPS は、低温・短時間焼結によって熱劣化の壁を下げ、CNT を傷めずに緻密化する道を開いた。Zhan らの CNT-アルミナ複合材は、その可能性を靱性の大幅な向上として実証した [1]。

だが、SPS だけでは足りない。粉末調製の段階で均一な分散を作り込み、それを SPS の低温焼結で守り抜く——分散と低温焼結という二つの鍵を同時に回したとき、CNT は初めて強化相としての本領を発揮する。Cho らの総説が示すように、この分野の進展は、分散技術と焼結技術の両輪で進んできた [2][3]。最強の繊維を固体に閉じ込める難題に、SPS は有力な答えの一つを与えている。


本記事は公開された査読論文をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

カーボンナノチューブ(CNT)はなぜ強化相として期待されるのか。
CNT は炭素原子が筒状に結合したナノ構造で、引張強度・弾性率が極めて高く、軽い。これをセラミックスや金属の母相に分散させれば、亀裂を橋渡しして靱性を高めたり、強度・剛性を補ったりできると期待されてきた。電気・熱の伝導性も高く、機械特性に加えて機能性を付与する可能性もある [2]。
CNT強化複合材の作製は何が難しいのか。
二つの壁がある。第一に分散の難しさ。CNT は互いに強く引き合って束(バンドル)になりやすく、母相中に均一に散らすのが容易でない。凝集した塊は欠陥となり、かえって強度を下げる。第二に熱的弱さ。CNT は高温で構造が壊れたり母相と反応したりしやすく、通常の高温焼結ではCNTが損なわれてしまう [2][3]。
SPSがCNT強化に向くのはなぜか。
SPS はパルス通電による急速昇温と一軸加圧を組み合わせ、通常より低い温度・短い時間で緻密化できる。高温に長くさらさないため、CNT の構造を保ったまま母相を固められる。Zhan らは、SPS によって1150°Cという低温でCNT-アルミナ複合材を緻密化し、靱性を大きく高めることを示した [1]。

参考文献

  1. [1] Zhan GD, Kuntz JD, Wan J, Mukherjee AK. Single-wall carbon nanotubes as attractive toughening agents in alumina-based nanocomposites. Nat Mater. 2003;2(1):38-42. DOI: 10.1038/nmat793
  2. [2] Cho J, Boccaccini AR, Shaffer MSP. Ceramic matrix composites containing carbon nanotubes. J Mater Sci. 2009;44(8):1934-1951. DOI: 10.1007/s10853-009-3262-9
  3. [3] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41:763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2