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生体インプラント(ハイドロキシアパタイト・多孔質チタン)の放電プラズマ焼結 — 骨になじむ材料を作る

骨を補う生体インプラントには、骨と化学的になじむハイドロキシアパタイトと、骨に近い力学特性を持つ多孔質チタンという二つの主役がある。前者は加熱しすぎると分解し、後者は気孔を制御して骨の弾性に近づける必要がある。放電プラズマ焼結(SPS)は、低温・短時間焼結で分解を抑え、組織と気孔を作り込む手段として公開研究で検討されてきた。本稿はその機序を整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 生体インプラント
  • ハイドロキシアパタイト
  • 多孔質チタン

体になじむ、という難しい注文

折れた骨を補い、抜けた歯を支える生体インプラントには、ふつうの構造材料にはない注文がつく。生体組織と化学的に親和し、できれば骨と一体化し、力学的にも周囲の骨と歩調を合わせること——「体になじむ」という、定量化しにくい条件を満たさなければならない。

この注文に応える材料には、性格の異なる二つの主役がいる。一つは、骨そのものに近い化学組成を持つセラミックス、ハイドロキシアパタイト。もう一つは、骨に近い力学特性へ調整できる金属、多孔質チタンである。前者は「化学的になじむ」材料、後者は「力学的になじむ」材料といえる。

どちらも、焼結のしかたが性能を大きく左右する。そして、それぞれに固有の難所がある。

ハイドロキシアパタイト — 分解させずに固める

ハイドロキシアパタイト(Ca₁₀(PO₄)₆(OH)₂)は、骨や歯の主要な無機成分とほぼ同じリン酸カルシウムである。生体内で骨と直接結合し、表面に骨に似たアパタイト層を作って骨と一体化する性質(骨伝導性)を持つ。このため、骨欠損を埋める材料や、金属インプラントへのコーティングとして長く研究されてきた [1][2]。

焼結における最大の難所は、加熱しすぎると分解することだ。高温に長くさらすと、ハイドロキシアパタイトはリン酸三カルシウム(TCP)などの別の相へ分解したり、構造中の水酸基(OH)が抜けて性質が変わったりする。分解すると生体内での溶け方が変わり、設計どおりの挙動が得られにくい。

ところが、緻密な固体にするには熱が要る。緻密化に必要な温度と、分解が始まる温度が近いため、両者のあいだの狭い窓を通すような温度制御が求められる。長時間の加熱はこの窓を外れやすい——だからこそ、短時間で緻密化できる手法に意味がある [1]。

SPSが効く理由(アパタイト)

放電プラズマ焼結(SPS)は、黒鉛ダイスに充填した粉末へパルス直流を流し、ジュール加熱で急速昇温しながら一軸加圧する [6]。ハイドロキシアパタイトにとって、この手法は次の点で都合がよい。

  • 低温・短時間で緻密化できる:加圧が緻密化を助けるため、常圧焼結より低い温度・短い時間で高密度体が得られる。高温保持を短く抑えられるので、分解や脱水酸基を起こす暇を与えにくい。Guらは、SPSでハイドロキシアパタイト粉末を緻密化し、組織と緻密度の関係を報告している [1]。
  • 生体活性を保ちやすい:分解を抑えて本来の相を残せば、骨と結合する性質も保たれる。Guらは、SPSで作製したハイドロキシアパタイトが生体模擬環境で表面に骨に似たアパタイト層を形成することを示し、生体活性が維持されることを確かめている [2]。
  • 微細組織を制御しやすい:粒成長を抑えてナノ〜微細結晶を残すことで、機械特性や溶解挙動の作り込みにつなげられる。

多孔質チタン — 気孔で骨に歩み寄る

もう一方の主役、チタンは、生体適合性に優れ、強度も高い金属である。だが緻密なチタンには弱点がある。骨よりはるかに硬い(弾性率が高い)のだ。硬すぎるインプラントが荷重を肩代わりしすぎると、まわりの骨が刺激を失って痩せていく「応力遮蔽」が起こりうる。

これを避けるために、チタンを多孔質にする。気孔を入れると見かけの弾性率が下がり、骨の力学特性に近づく。加えて、つながった気孔の内部へ骨組織が入り込めば、インプラントと骨の固定が機械的に強まる。狙いどおりの弾性率と固定力を得るには、気孔率と気孔径を設計どおりに作り込むことが肝心だ [3][4][5]。

ここでSPSが活きる。Niculaらは、ナノ結晶のチタン合金を多孔質のままSPSで成形し、生体応用に向けた組織を作製した [3]。Fujiiらは、焼結時に消える「スペースホルダー(造孔材)」を混ぜてSPSで焼く手法で、均一な多孔質、さらには気孔率が場所ごとに変わる傾斜多孔質チタンを作り分けている [5]。Annurらは、生体インプラント向けのチタンおよびチタン合金のSPS作製を総説として整理し、組成・組織・気孔制御の動向をまとめている [4]。

なじむ、を設計する

生体インプラントの成否は、強度や精度だけでなく、「体になじむか」という、材料と生体の界面で起こる現象に左右される。化学的になじむハイドロキシアパタイト、力学的になじむ多孔質チタン——アプローチは違えど、いずれも組織と相を緻密に作り込むことが鍵になる。

SPSは、アパタイトでは分解させずに固め、チタンでは気孔を意のままに作るという、相反する要求に同じ手法で応える。低温・短時間焼結と精密な制御が、その柔軟さを支えている。骨と材料が出会う界面で何が起きるかを見据えて組織を設計する——生体インプラントの焼結は、材料工学と生体のあいだをつなぐ仕事である。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

ハイドロキシアパタイトが骨インプラントに使われるのはなぜか。
ハイドロキシアパタイト(Ca₁₀(PO₄)₆(OH)₂)は、骨や歯の主要な無機成分とほぼ同じ組成のリン酸カルシウムである。生体内で骨と直接結合する性質(骨伝導性)を持ち、表面に骨に似たアパタイト層を形成して骨と一体化しやすい。このため、骨の欠損部を補う材料や、金属インプラントの表面コーティングとして広く研究されてきた [1][2]。
ハイドロキシアパタイトの焼結で何が難しいのか。
ハイドロキシアパタイトは加熱しすぎると、リン酸三カルシウム(TCP)などの別のリン酸カルシウム相へ分解したり、水酸基(OH)が抜けて構造が変わったりする。分解すると生体内での溶解挙動が変わり、設計どおりの性能が出にくい。一方で緻密化には熱が要るため、分解させずに緻密化するという温度の綱渡りが課題になる。短時間で緻密化できる手法が求められる理由はここにある [1]。
多孔質チタンを生体インプラントに使う狙いは何か。
緻密な金属チタンは骨よりはるかに硬く(弾性率が高く)、インプラントが荷重を肩代わりしすぎると、まわりの骨が刺激を失って痩せる「応力遮蔽」が起こりうる。チタンを多孔質にすると見かけの弾性率が下がり、骨の力学特性に近づけられる。さらに気孔へ骨組織が入り込んで固定が強まる効果も期待される。気孔率と気孔径の制御が設計の鍵になる [3][4][5]。

参考文献

  1. [1] Gu YW, Loh NH, Khor KA, Tor SB, Cheang P. Spark plasma sintering of hydroxyapatite powders. Biomaterials. 2002;23(1):37-43. DOI: 10.1016/s0142-9612(01)00076-x
  2. [2] Gu YW, Khor KA, Cheang P. Bone-like apatite layer formation on hydroxyapatite prepared by spark plasma sintering (SPS). Biomaterials. 2004;25(18):4127-4134. DOI: 10.1016/j.biomaterials.2003.11.030
  3. [3] Nicula R, Lüthen F, Stir M, Nebe B, Burkel E. Spark plasma sintering synthesis of porous nanocrystalline titanium alloys for biomedical applications. Biomol Eng. 2007;24(5):564-567. DOI: 10.1016/j.bioeng.2007.08.008
  4. [4] Annur D, Kartika I, Supriadi S, Suharno B. Titanium and titanium based alloy prepared by spark plasma sintering method for biomedical implant applications—a review. Mater Res Express. 2021;8(1):012001. DOI: 10.1088/2053-1591/abd969
  5. [5] Fujii T, Murakami R, Kobayashi N, Tohgo K, Shimamura Y. Uniform porous and functionally graded porous titanium fabricated via space holder technique with spark plasma sintering for biomedical applications. Adv Powder Technol. 2022;33(6):103598. DOI: 10.1016/j.apt.2022.103598
  6. [6] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2