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アモルファス金属・金属ガラスの放電プラズマ焼結 — 結晶化させずに粉末を固める

金属ガラスは原子が規則正しく並ばない非晶質の合金で、高強度や弾性を示す一方、大きな塊に作るのが難しい。アモルファス粉末を固める際、加熱で結晶化させてしまうと特性が失われる。放電プラズマ焼結(SPS)は過冷却液体領域の粘性流動を使い、結晶化を避けながら短時間で緻密化する手段として研究されてきた。本稿はその機序を公開論文をもとに整理する。

  • 放電プラズマ焼結
  • SPS
  • 金属ガラス
  • 過冷却液体領域

並ばない金属という逆説

金属とは、原子が規則正しく並んだ結晶である——長らくそれが常識だった。鉄も銅もアルミも、内部では原子が整然と格子を組み、その格子に沿って性質が決まる。

ところが、溶けた合金を猛烈な速さで冷やすと、原子が並ぶ暇を与えられないまま固まることがある。原子配列が液体のように乱れたまま固体になった金属——これが金属ガラス、あるいはアモルファス金属と呼ばれる材料だ。結晶のような規則的な格子を持たず、したがって結晶粒界も転位もない。この構造ゆえに、金属ガラスは高い強度や弾性、優れた耐食性を示すことがある [1]。

だが、この材料には作りにくさという代償がついて回る。結晶化させないためには急冷が必要で、その冷却速度を確保できるのは薄いリボンや細い線、小さな塊までだ。大きな部材にしようとすると、内部まで急冷できず結晶化してしまう。この寸法の壁をどう越えるか——その一つの答えが、粉末を使う道である。

過冷却液体領域という窓

金属ガラスを粉末から固めるという発想は、寸法の壁を回避する有力な経路だ。アモルファスの粉末そのものは、ガスアトマイズなどで作れる。問題は、その粉末をどう「結晶化させずに」緻密な塊へまとめるか、である。

ここで鍵になるのが、過冷却液体領域という温度の窓だ。

金属ガラスをゆっくり加熱していくと、まずガラス転移温度を越えたあたりで、材料が軟らかく流動できるようになる。そしてさらに温度を上げると、やがて結晶化が始まる。この「ガラス転移」と「結晶化開始」のあいだの温度域が、過冷却液体領域である [1]。

この窓の内側では、金属ガラスは固体と液体の中間のように振る舞い、粘性流動を起こす。つまり、外から圧力をかければ粉末が軟らかく変形し、互いに密着して隙間を埋めていく。比較的低い圧力でも緻密化が進むのは、この粘性流動のおかげだ。広い過冷却液体領域を持つ組成ほど、結晶化までの余裕が大きく、緻密化の窓も広くなる [1][2]。

ただし、この窓には時間制限がある。過冷却液体領域に長くとどまれば、いずれ結晶化が始まり、金属ガラスの利点は失われる。緻密化は、結晶化が始まる前に済ませなければならない。

なぜSPSが結晶化を出し抜けるのか

結晶化との時間競争——ここで SPS の特性が効いてくる。

結晶化は、温度と時間の両方に依存して進む反応である。高い温度に、長くとどまるほど進みやすい。逆に言えば、必要な温度に素早く到達し、短時間で緻密化を終えて冷やせば、結晶化を抑えたまま緻密な塊が得られる [3]。

SPS はパルス通電による急速昇温を得意とする。過冷却液体領域へ一気に加熱し、加圧によって粘性流動を促し、短時間で緻密化を完了できる。過冷却液体領域での滞在時間を最小限に抑えられるため、結晶化を出し抜きやすい。Liu らは Ti 系金属ガラス粉末の SPS において、緻密化が粒子の降伏と過冷却液体領域での粘性流動によって進むことを示した [1]。

緻密化と非晶質保持をより確実に両立させる工夫として、二段階の昇温プロファイルも研究されている。Ding らは Zr 系金属ガラスについて、はじめに比較的低い温度で粉末を密着させ、続いて過冷却液体領域へ短時間入れて緻密化する二段階 SPS で、緻密化機構を整理した [2]。Paul らは、SPS で固めた金属ガラスの内部に結晶化の兆候がどう現れるかを小角中性子散乱で解析し、焼結条件と結晶化の関係を明らかにしている [3]。

緻密化と保持の綱引き

金属ガラスの SPS は、二つの相反する要求の綱引きである。

緻密化を進めるには、過冷却液体領域でしっかり粘性流動させたい。そのためには、ある程度の温度と時間が要る。一方で、非晶質を保つには、その温度・時間をできるだけ短く抑えたい。温度を上げすぎても、保持を長くしても、結晶化が忍び寄る [2][3]。

この綱引きを設計しきる鍵が、組成と焼結条件の組み合わせだ。過冷却液体領域が広い組成を選べば、緻密化の窓に余裕が生まれる。昇温速度・保持温度・保持時間・圧力を作り込めば、結晶化が始まる手前で緻密化を終えられる。SPS の急速昇温と精密な温度制御は、この狭い窓を狙い撃つのに適している [1][4]。

乱れを保ったまま、固体にする

金属ガラスは、「金属は結晶である」という常識への反例として現れ、結晶粒界を持たない構造ゆえに独特の強さと耐食性を備えた。その魅力を大きな塊で生かすには、急冷の寸法の壁を越えなければならない。

粉末経路と SPS は、その壁に正面から挑む。アモルファス粉末を過冷却液体領域へ素早く導き、粘性流動で緻密化し、結晶化が始まる前に固体へと閉じ込める——急速昇温と短時間焼結という SPS の性質が、結晶化との時間競争を有利に運ぶ。乱れた原子配列を乱れたまま、緻密な固体へ。SPS は、金属ガラスを実用的な寸法へ広げる緻密化技術として研究され続けている。


本記事は公開された査読論文・総説をもとに整理した解説です。引用先の論文本文は各 DOI から参照できます。事実誤認のご指摘は editor@sps.ss-hd.co.jp までお願いします(暫定アドレス)。

よくある質問

金属ガラスとは何か。
通常の金属は原子が規則正しく並んだ結晶だが、溶けた合金を急冷して原子が並ぶ暇を与えないと、液体のように乱れた配列のまま固まる。これが金属ガラス(アモルファス金属)で、結晶粒界を持たないため高強度・高弾性・優れた耐食性を示すことがある。ただし大きな塊を作るには急冷が要り、寸法が制約されやすい [1]。
過冷却液体領域とは何で、なぜ重要なのか。
金属ガラスをゆっくり加熱すると、結晶化が始まる前に、固体と液体の中間のように軟らかく流動できる温度域が現れる。これが過冷却液体領域である。この温度域では材料が粘性流動を起こすため、粉末を低い圧力で密着・変形させて緻密化できる。SPS ではこの領域を狙って加熱し、結晶化を避けつつ粉末を固める [1][2]。
SPS で金属ガラスを固める利点は何か。
SPS はパルス通電による急速昇温が可能で、目標温度に短時間で到達して短時間で保持できる。結晶化は時間と温度に依存して進むため、過冷却液体領域での滞在を短く抑えられる SPS は、結晶化を抑制しながら緻密化するのに向く。二段階の昇温プロファイルで緻密化と非晶質保持を両立させる試みも報告されている [2][3]。

参考文献

  1. [1] Liu LH, Yang C, Yao YG, Wang F, Zhang WW, Long Y, Li YY. Densification mechanism of Ti-based metallic glass powders during spark plasma sintering process. Intermetallics. 2015;66:1-7. DOI: 10.1016/j.intermet.2015.06.010
  2. [2] Ding H, Zhao Z, Jin J, Deng L, Gong P, Wang X. Densification mechanism of Zr-based bulk metallic glass prepared by two-step spark plasma sintering. J Alloys Compd. 2021;850:156724. DOI: 10.1016/j.jallcom.2020.156724
  3. [3] Paul T, Singh A, Littrell KC, Ilavsky J, Harimkar SP. Crystallization mechanism in spark plasma sintered bulk metallic glass analyzed using small angle neutron scattering. Sci Rep. 2020;10:1720. DOI: 10.1038/s41598-020-58748-3
  4. [4] Munir ZA, Anselmi-Tamburini U, Ohyanagi M. The effect of electric field and pressure on the synthesis and consolidation of materials: A review of the spark plasma sintering method. J Mater Sci. 2006;41(3):763-777. DOI: 10.1007/s10853-006-6555-2